「お芝居でもコントでもないニュージャンルですよ!」後輩芸人に激賞され、自信をつけたメトロンズの初舞台<First Stage>#17(前編)

若手お笑い芸人インタビュー連載 <First Stage>

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それはコントなのか、それとも演劇なのか。芸人の演技力が飛躍的に向上する一方、演劇サイドもコントのフォーマットに新たな活路を見出す。そんなふうに両者がクロスオーバーする潮流が生まれている。

そんななか、演劇にのめり込み「これで食っていきたい」とまで語るのがメトロンズだ。

吉本の同期芸人であるサルゴリラ、しずる、ライスの3組と作家・演出家の中村元樹によるこの演劇ユニットは今、新たな挑戦に燃えている。

“芸人による演劇ユニット”メトロンズが誕生するに至る経緯を、その初舞台のエピソードとともに聞いた。

若手お笑い芸人インタビュー連載<First Stage>
注目の若手お笑い芸人が毎月登場する、インタビュー連載。「初舞台の日」をテーマに、当時の高揚や反省点、そこから得た学びを回想。そして、これから目指す自分の理想像を語ります。

KAƵMAの機嫌を取る5人

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左から:赤羽健壱(サルゴリラ)、児玉智洋(サルゴリラ)

──メトロンズは、東京NSC9期生のサルゴリラ、しずる、ライスと、作家・演出家の中村元樹さんで組んだユニットです。最初は芸人3組のユニットと聞いて、「君の席」(バナナマン、おぎやはぎ、ラーメンズのコントユニット)を思い浮かべたのですが、まったく違う志ですよね。

村上 そうですね。あちらはコントでしたが、僕らは演劇なので。

児玉 「芸人が集まってるなら、コントだろうな」という誤解はしょうがないですよね。でも、「メトロンズはガッツリ芝居をやっている」ってことは、もっと浸透させていきたいです

KAƵMA 最初はこんなに本格的にやるなんて思ってなかったよな。

村上 最初に3組集まったときのライブのタイトルとかめちゃくちゃふざけてた。

赤羽 『ひよこの回』※ね。
※『サルゴリラとライスとしずるのライブ ~ひよこの回~』

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左から:KAƵMA(しずる)、村上純(しずる)

児玉 そうか、最初はまだ「SIX GUNS」とも言ってなかったんだ。

KAƵMA そのあとから「SIX GUNS」で月1くらいで、ユニットコントライブをして。始まったのって何年前だっけ?

村上 サルゴリラ結成くらいのときじゃない?

赤羽 そうですね、6年前です。

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左から:田所仁(ライス)、関町知弘(ライス)

──2016年はライスが『キングオブコント』で優勝した年ですね。

田所 僕らが優勝する半年くらい前に始めたんですよ。

KAƵMA そうだっけ!?

田所 結成したてのサルゴリラが、賞レースに向けてネタを叩く場がないってことで、一緒にライブやることにして。そしたらしずるもネタ叩きたいって言うんで、同期の3組でやろうと。自然と作家は中村にお願いすることになって。

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中村元樹

──ネタを叩き切磋琢磨する場だったのが、ユニットコントもして、それが今の演劇までつながっていった。

KAƵMA そうですね。ただ、最初のころは誰もネタを作ろうとしなかったんですよ。みんな責任を負いたがらない。でも続けるって決めたから誰か書かないとってなったときに、あみだで決めてて。

村上 そうだった(笑)。

KAƵMA そんときは、みんな「SIX GUNS」を続けたいのかどうかも、よくわかんない状況だった。

児玉 でもなぜかKAƵMAがあみだくじで当たる確率もめちゃくちゃ高くて……(笑)。

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田所 結局いつの間にかユニットコント2本のうち1本は、池田が確定で書くって流れになって、なんなら2本目も池田込みでみたいな。

KAƵMA そうそう! で、あんときは言えなかったですけど、俺の書いたネタが一番スベったときに、誰も文句を言わないことに、ムカついてましたね。

関町 へそ曲げたら次のとき書いてくれなくなっちゃうから(笑)。

児玉 気は遣ってたかもねぇ。

KAƵMA ひどいよ……。

村上 やる気なかったころの話、長すぎるだろ(笑)。でも本当そこから考えたらさ、ギア上げてみんながんばってるよ。

赤羽 たしかにね!

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──スイッチが入るキッカケはなんだったんですか?

田所 当時は、今以上に吉本にがっつりユニットをやってる芸人が、意外といなかったんですよ。ほかの人がやってない隙間の部分を俺らやってるなって共通認識はあって、だったらちゃんとやってみようかと。

赤羽 SIX GUNSをやってた神保町花月が方針転換して、僕らがライブをできなくなったんだよね。その後空白の期間があって……。

児玉 そこでまたちゃんとやろうって仕切り直したんです。

村上 そっか。じゃあ一回休んでなかったら意外とフェードアウトで終わってたかもね。

信頼する後輩・山添が認めてくれた初舞台

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──ちなみにリーダーはいるんですか。

村上 リーダーかはわからないけど、言い出しっぺは児玉ですね。

児玉 たしかに僕です。ユニットコントが自分的にすごくおもしろかったんですよ。それでみんなに「またやろうよ」って声かけました。

──改めて「同期で一緒にまたやろう」と言うのは照れませんでしたか?

児玉 あぁ、そうですね。なんかね、ひとりずつ攻めてった感じはある。

一同 (笑)。

児玉 個別に洗脳していった感じ。

村上 気づいてなかったな。

関町 知らなかった。

田所 まんまと集まったな(笑)

──どなたから攻めましたか。

児玉 KAƵMAですね。家近かったんだよな。

KAƵMA そうですね。家まで送ってもらうたんびに、「池田はおもしろい」って言われまして。あんまりずっと言われたんで、「俺、ちゃんとおもしろいんだなぁ」ってまんざらでもない気持ちで。そこに「またやろうよ」って言われたら引き受けますよ。

──まさに洗脳ですね(笑)。そこからはKAƵMAさんと児玉さんでひとりずつ洗脳していった?

KAƵMA いや、そっからは児玉はまったく動かずに僕ひとりで……。

赤羽 そうなの!?

KAƵMA そうだよ。児玉に「あの件、田所と関町に言った?」って聞かれて「すみません! まだ言ってないっす。これから言います」みたいな(笑)。個人的には怖さもあったんですよ。ライスは賞レースも終わって、いまさら同期で集まっても、ゆるい感じになっちゃうんじゃないかって。でも、やってみたら意外にそんなことはなくて。今では「ちょっとメトロンズで食っていきてぇな」って感じになってて、そこはよかったな。

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──しかしメトロンズとしての初舞台『副担任会議』はコロナで中止になりました。

村上 俺たち初舞台が中止になってんの!? 初舞台の話、何もできないじゃん(笑)。

児玉 いや、本公演はそうだけど、40分ちょっとのお芝居を見せる公演をやって。『MILLION $ TICKET』っていうんですけど、「メトロンズ」を名乗ってからの初舞台はアレかもしんないですね。

中村 そうですね。コロナで中止になって、どうしようかってなって間のつなぎでやった公演。

村上 そうか、あれは一回限りだったよね。でも、初舞台と思ってやってないもんな。お客さんに忘れられないように、つなぎでやっとこうっていう感覚だったので……。延命治療の部分もあった。でも、そこで手応えを感じたんだよね。

KAƵMA 山添が褒めてくれてね。

赤羽 そうそう。相席スタート山添(寛)が観に来てくれて。ほんとはお芝居の前にやるそれぞれのコンビネタを観たくて来てたらしいんですけど、『MILLION $ TICKET』を観た山添が感銘を受けたって言い出して。「メトロンズさんのやってることは新しいジャンルです! お芝居でもコントでもない劇道(げきみち)っていうニュージャンルです」って。その意味は未だに誰もわかってないんですけど(笑)。

村上 でも、山添っておべんちゃらを言うようなタイプじゃないので。本当におもしろい後輩が言ってくれたのが、自信になったのはあった。

──勢いに乗ってる後輩の言葉って大きいんですね。その後、最初の公演が中止になってからは、どうしてたんですか。

田所 それこそリモートのネタを作ってYouTubeで上げたりして。打ち合わせもコンスタントにやってましたね。

赤羽 そこで生まれた児玉の芸とかもあったよね。

児玉 フリーズするやつね。

田所 リモートでしか通用しないやつ(笑)。

 

『踊る大捜査線』に負けたKAƵMA

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──その後、一年越しに第1回公演が実現しました。

村上 あれもいったん元の脚本から全部リセットしたんですよ。

──タイトルは変わらず『副担任会議』でしたよね。どうして同じ脚本ではできなかったんですか。

KAƵMA 俺のエゴですね。ネタの良し悪しではまったくなくて、コロナ禍が続いて、誰にも認められてないっていう状況が続いたのがよくなくて。とにかく今の俺を認めてもらいたい一心で「頼む、また一から書かせてくれ!」って頼み込んで。

一同 (笑)。

KAƵMA ただ、ひとりで突っ走りすぎるのもよくないなと思って、児玉を引っ張り出しましたけど……。俺の熱量で、みんなを抑え込んじゃったなって申し訳なさはありましたね。

関町 そんなひどいやつって感じではなかったよ(笑)。

──SIX GUNSのときと同じでやっぱりKAƵMAさんが脚本担当なんですね。今の関町さんのフォローも次書いてくれなくなるから……?

関町 やめてください! それはないですよ!

一同 (笑)。

──クレジットも毎回、原案と脚本で分かれているので、案はみなさんで持ち寄るんですよね。

村上 そうですね。でも、2回目のときなんかひどくて……。いつも最初はみんな1〜2枚のプロットを書いて持ち寄るんですよ。でも、あのときは池田だけ36ページ書いてきて……。

田所 超大作(笑)。

KAƵMA 田所言ってたよな、「池田、あれはプロットの域超えてる……」って。どうしても認めてもらいたかったんですよ……。

村上 みんなもそんな本腰入れて来てないから、36ページなんて全然頭に入ってこないんですよ。

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KAƵMA でも熱量は誰よりもあるから、俺で決まりだろって思ってたんですよ。なのに、全然手応えがなくて……。

赤羽 いや、そんなことはないですよ(笑)。

村上 びっくりしちゃっただけだから。

KAƵMA 36ページも書いてきた男に対して、なんでこんな態度取るんだろうってのは、打ち合わせ終わりで児玉にも言いましたね。しかもあの打ち合わせの結果、結局みんなが食いついたのが、関町の持ってきたペライチの写真だったんですよ……。

一同 あっはっはっは(笑)。

KAƵMA 写真を見た瞬間みんなが「地下ってかっこいいな……」って。

関町 『踊る大捜査線』が好きで、劇中に出てくる地下の映像を引き伸ばして貼りつけたんですよ。

赤羽 それだけで36ページに勝っちゃった。

関町 一撃。

村上 やっぱり『踊る大捜査線』ってすごいな。

KAƵMA そうっすねぇ……。正直、僕もワクワクしちゃったし、実際でき上がったセットを見て、お客さんもワクワクしてくれてたらしいんで、結果よかったんですけどね……。

村上 ほんと悲しそうにするなよ(笑)。

井の中の蛙だったライス

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──そもそもなぜこの3組がユニットになったんでしょうか。

児玉 おもしろいと思うことの方向性がなんとなく同じっていうのは大きいでしょうね。細かく言ったらもちろん違うんですけど。

赤羽 たとえば、サルゴリラでネタを作るとき、僕の持ってく設定が、しずるのと似ちゃうことがよくあるんですよ。俺が「こういう設定どう?」って提案すると、児玉に「それもうしずるがやってるわ」って言われることはめちゃくちゃあります。俺より児玉のほうがしずるのネタをよく観てるんですよね。

児玉 しずるがよく銃を使うからそれに影響されて……。

赤羽 銃、多くなってきたね(笑)。

村上 でも本当に初期のNSCのころは、児玉と赤羽のネタって明るかったよな。ふたりがいた3組は午後の授業だし、女子もいるから、ポップで明るいネタをやるコンビが多くて。一方で、しずるとライスは同じ1組で午前中の授業だし男しかいないから、みんな元気ないし暗いネタばっかりだった。

関町 僕ら1組でしたけど、明るいヤツらは辞めていきましたよ。

しずる 大和田くんね!

田所 個人名出すなよ(笑)。でも本当に僕らのクラスはバイオレンスなネタやらないとハブられる雰囲気があった。

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KAƵMA でもそれ全部ライスの影響だから。ライスはNSCの初舞台からけっこうウケてたんですよ。なんなら、この人たちみたいなネタ作りたいなって思わされたくらい。初回の舞台のカマしって大事っすね。

村上 純粋なネタとかやられちゃうと「それ違うんだよなぁ」っていう空気。それを作ったのはクラスのネタ番長だったライスですよ。ライスが最初にやってたネタなんてめちゃくちゃ暗かった。

関町 それで俺らの色ができたところはあるかもしれないな。

児玉 で、NSCの後半から授業が合同になるんですけど、そのときのライスは怒られてるイメージしかない。

村上 ツケが回ってきたんだ(笑)。

関町 やっぱりポップなネタのほうがいいんですよ。

田所 お客さんの前だとちゃんとスベりました。

村上 まさしく井の中の蛙。

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──中村さんはどうだったんですか?

村上 大天才ですよ!

赤羽 ミュータスっていうコンビで。

児玉 伝説のコンビです。

村上 NSCの選抜上位3組に、唯一暗いネタで食い込んでましたから。

赤羽 当時、1年間だけ講師やってらした桂三度さん、世界のナベアツさんが「この世代だとミュータスが一番おもしろい」って言ってましたもん。

中村 言ってたんだぁ……。でも、しばらく芸人やったあと作家になりましたね。それこそまずはナベアツさんみたいに作家としてやりながら、道を探ろうと思ってました。僕はもともと芸人には向いてなかったですから。

村上 嘘だよ!

KAƵMA おもしろかったよ!

中村 ありがとう(笑)。

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文=安里和哲 撮影=青山裕企 編集=龍見咲希、後藤亮平、田島太陽

メトロンズ
サルゴリラの児玉智洋(こだま・ともひろ、1979年11月14日、東京都出身)と赤羽健壱(あかば・けんいち、1979年4月6日、東京都出身)、しずるのKAƵMA(かずま、1984年1月17日、埼玉県出身)と村上純(むらかみ・じゅん、1981年1月14日、東京都出身)、ライスの田所仁(たどころ・じん、1982年10月28日、東京都出身)と関町知弘(せきまち・ともひろ、1983年3月2日、東京都出身)、作家・演出家の中村元樹(なかむら・もとき、1980年4月3日、京都府出身)の7人による演劇ユニット。2019年結成。『メトロンズ Official YouTube Channel』にて過去の公演映像をアップロードしている。第4回公演『Pump Up Boys!』は、11月30日から12月4日まで赤坂RED/THEATERで開催。チケットは前売当日ともに5000円で、FANYチケットチケットぴあで販売中。初日公演の配信は1000円(1カメラ)、 千秋楽公演の配信は2500円(カット割り)で、FANY Onlineチケットにて販売中。

メトロンズ第4回公演『Pump Up Boys

11月30日(水)から12月4日(日)まで東京・赤坂RED/THEATERで開催。詳細はこちら

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『ももクロちゃんと!』にメトロンズが出演!

テレビ朝日にて12月3日(土)と12月10日(土)深夜3時20分〜放送の『ももクロちゃんと!』にメトロンズが出演するので乞うご期待!

【前編アザーカット】

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【インタビュー後編】

「コントでスベった傷は、演劇で癒やす」サルゴリラ、しずる、ライスが、演劇ユニット「メトロンズ」の活動にハマるワケ<First Stage>#17(後編)

 

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