真っ暗闇の中で見えた“光”人生を賭ける決意をした夜(まつきりな)  

エッセイアンソロジー「Night Piece」

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エッセイアンソロジー「Night Piece〜忘れられない一夜〜」
「忘れられない一夜」のエピソードを、毎回異なる芸能人がオムニバス形式でお届けするエッセイ連載。

まつきりな 宣材写真

まつきりな
岡山県出身。『緒方憲太郎の道に迷えばオモロい方へ』(ABCラジオ)アシスタントMCをはじめ、テレビ、ラジオ、広告を中心に活動中。演技初挑戦でヒロインを演じた短編映画『触れた、だけだった。』はYouTubeで1100万PVを突破し話題に。
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「まつきが第1号の所属タレントになってくれたらな」
このひと言から、私の人生が大きく変わっていった。

上京して3年目、私の人生はどん底だった。

芸能界でがんばっていこう、と心に決めて上京したはずだったのに、大学卒業間近で所属していた事務所が経営破綻。
そのタイミングで3年弱付き合っていた彼氏の浮気が発覚。
しかもその相手は、私も顔見知りの先輩だった。

あっという間に人間不信になった。
不幸ってこんなにも一気に襲ってくるものなんだって、もはや笑えてきた。

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毎日が退屈で、誰にも会いたくない日々が続いたある日、SNSに1通のDMが届いた。
当時はまだ大学生だった野田爽介、今の事務所For youの社長からだ。

「SNS案件のご相談はできないですか?」

このころは学生企業として広告代理店業を行っている会社で、初めは単なる仕事の依頼だった。

所属していた事務所がなくなって自分で稼いでいかなきゃいけない、そんな時期だったから仕事の相談は素直にうれしかった。

ありがたいことに、For you以外からもお仕事を直接相談してくれる会社はいくつかあって、その中には所属スカウトをしてくれる会社もあった。

でも正直なところ、誰も信用できなかった。
だって、どうせまた裏切られるんでしょ? 警戒心MAXの状態で常に人と接していたから、あのころの私は本当にトガっていたと思う。

そんななか、For youとお仕事を一緒にすることも多くなってきて、社長から「今はまだ大学生で小さな広告業の会社だけど、のちに芸能事務所もしたい」という話をされた日を今でも覚えている。

「まつきが第1号の所属タレントになってくれたらな」
まっすぐ目を見て話をされ、私はとっさに「売ってもらえますか?」と食い気味に答えていた。

今となっては、出会って間もない人に対して「売ってくれますか?」だなんて、とんでもなく上から目線な奴だったんだろうけど。

それでも爽介さんは、真剣な目で私に熱い気持ちをぶつけてくれた。

その日解散してからは、夜になっても「なぜとっさにあんなことを口にしたのだろう」と自分が不思議でたまらなかった。ほかの人には一度もこんなこと言ったことがないのに――。

とにかく私も必死だったんだと思う。もちろん、そのときはまだ、爽介さんを100%信用できていたわけではないけれど。
それでも、この人だけは信じていいのかもしれない、直感的にそう感じていたのかもしれない。

そこからはもう自分の直感のままに動いた。

赴くままに、爽介さんに携帯で電話をかけ「今から会えませんか?」と。
もう23時を過ぎてるし、まさかね。こんな私からの連絡に耳をかけてくれるかどうか半信半疑だった。

それでも爽介さんはやっぱり別格だった。
電話をかけた数十分後には駆けつけてくれた。

バーで呑んで、カラオケをして、ボーリングをして。学生みたいな­ハシゴをして楽しんだ。
岡山にいたときはどんな子だったか、どんな幼少期を過ごしたか。
他愛のない話もたくさんした。

この人に自分の人生賭けてみよう。絶対おもしろくしてくれる気がする。
今まで感じたことのない直感で、For youの所属タレント第1号になる決意をした夜。

「私を売ってください。二人三脚で、0から一緒にがんばっていきたいです」

今思えば、その日の私の行動力と発言は恐ろしいくらい突発的だったけれど、
どん底で真っ暗闇の中で呼吸していた私にとって、爽介さんは光に見えたのだと思う。

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あの夜からもうすぐ4年が経とうとしている。

一緒にがんばろうと決めてから、今日までけっして楽な道のりではなかった。
思うように仕事が決まらないときや、家賃が払えないときだってあった。

無名事務所の所属ひとり目というだけで、耳を塞ぎたくなるような言葉をかけられることもあった。

悔しい思いはたくさんしてきた。

それでも、あの夜選んだ道は絶対に間違いじゃなかったと胸を張って言える。

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誰も信じることができなかった自分はもういない。
かつての自分を取り戻せた私は、もう前に進むのみだ。

文・撮影=まつきりな 編集=宇田川佳奈枝

エッセイアンソロジー「Night Piece」