大越健介の報ステ後記

ニッポンのメシのタネ
2022年06月21日

 150日間の国会が閉会し、政治は参議院選挙に向けて走り出した。
 「報道ステーション」では16日、事実上の選挙戦に入った各党の党首にスタジオに来てもらい、生討論を行った。これに先立って、各党にいくつかの質問を投げかけ、事前に20文字以内にまとめてもらうことにした。議論を視覚化し、スピード感をもって進行するためである。
 では質問項目をどうするか。ウクライナ問題で浮き彫りになった日本の安全保障の課題、物価高騰への対策、というふたつのテーマはいわゆる「鉄板」だ。これに加えて、僕は「ニッポンのメシのタネ」というお題はどうか、と提案した。スタッフは僕の提案を面白がってくれ、にやりと笑いながら「いいでしょう、採用しましょう」と答えてくれた。

 「ニッポンのメシのタネ」というのは、言い換えれば「日本が生きていく糧(かて)」という意味だ。もっと言えば、「いろいろと閉塞状態にある日本だが、今後、中長期にわたってこの激動の世界を生き抜くにあたって、これだけは日本の『売り』と言えるようなものがあるとすれば何か」という問いかけだ。
 あれれ?こうして説明しようとすると意外と難しい。ということは、この質問を受け取った側もいろいろと迷ったに違いない。そして、返ってきた回答を見ると、やはり各党をかなり困らせてしまったようだ。実際の生放送の中では、予定通り、安全保障政策、物価高騰への対処といった「鉄板」のテーマで時間はほぼいっぱいになった。せっかく事前に回答を寄せてくれた各党の皆さん、スミマセン。

 ということで、せっかくなので、「日本の将来の“飯のタネ”は?」という事前質問に寄せられた回答をこの場を借りて紹介したい。

 自民党・・・・・人への投資の強化 社会課題への投資
 公明党・・・・・脱炭素化とデジタル化で世界をリード
 立憲民主党・・・教育、デジタル、再エネ
 日本維新の会・・教育・出産の無償化、将来世代への徹底投資
 共産党・・・・・気候危機打開 ジェンダー平等で成長力UP
 国民民主党・・・教育国債で予算倍増 積極財政で200兆円投資
 れいわ新選組・・脱原発 廃炉ニューディール
 社民党・・・・・自然エネルギーと農業 社会保障・医療
 NHK党・・・・・ロケット事業を推進し 日本が世界を席巻する

 各党の思いが出ていて興味深い。多くの政党が、人材育成を挙げている。人への投資、教育の無償化などはその範ちゅうに含まれるだろう。もちろん国家の大計として大事なことである。だが、人材をその幹とすれば、幹の先にどのような花を咲かせ、果実をつけ、お店に出すか、そういったことが今後より重要になってくるのではないか。

 また、多くの党が挙げていたのが、環境とデジタルという分野に関わるものである。確かにこれらは待ったなしの課題が満載だ。
 地球温暖化を抑えるのは将来世代に対する責任だし、同時にグリーンビジネスを拡大させることができれば一石二鳥でもある。また、デジタル化も、経済社会の急速な進展とともに、いわば必修科目になっている。
 ただ、これらはむしろ、先進的な世界の国々に、まずは追いつくことが求められている分野だ。ライバルたちをごぼう抜きにして先頭に立つ気概には大いに賛成だが、日本の専売特許とするのは決して簡単ではない。

 以前、台湾総統府の元高官と、取材でずいぶん話し込んだことがあった。大陸(中国)との「両岸関係」は常に緊張をはらみ、台湾有事が現実味を持って語られる中ではあったが、彼は自信を持ってこう言った。
 「台湾の生きる道。それは、ほかが取って代わることのできない存在となることです。そのための我々の武器が民主主義なのです」。
 彼は unreplaceable という英語を使って説明した。民主主義を大切に守り育てる台湾は、日本やアメリカにとって価値観を共有する大事な存在である。一方の大陸(中国)からすれば、「自国の一部」だからと言って、その体制に簡単には手を出せない存在となっている。
 その政治的なバランスを取りながら、台湾は半導体生産で大きなシェアを占めるなど、経済的にも「ほかが取って代わることのできない」存在になっている。

 生きる道を自覚し、大事にする価値を明確に見出す彼らの姿は、私たち日本にとっても大いに参考になると思う。平和に慣れ、成熟国家として政治への関心の低下が叫ばれる日本だからこそ、「メシのタネ」は何か、と青臭く議論するのはやはり大事だと思う。今回は日の目を見なかったが、次はまた別のアプローチでチャレンジしたいテーマである。

(2022年6月21日)

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