大越健介の報ステ後記

雨の日と月曜日は
2022年06月06日

 Rainy days and Mondays always get me down.
 雨の日と月曜日はいつもブルーになってしまう。
 カーペンターズの名曲にそんな歌詞がある。
 そう、月曜日のきょう、朝から気分が沈んでしまう空模様である。東京は終日、雨だそうだ。しかも、目覚めてからスマホでニュースをチェックしたり、メールを眺めていたら、きょうは残念な知らせばかりだった。
 サッカーW杯まであと1勝と迫っていたウクライナ代表が、ウェールズ代表に敗れた。懸命に祖国を守る人たちのためにも、世界の舞台に立ってもらいたかった。その勝利の様子を今夜の報道ステーションで伝えることができれば最高だったのに、とも思う。
 でも、これは正々堂々と競い合ったスポーツの結果だから仕方ない。ウェールズも64年ぶりのW杯出場とあって喜びはひとしおだろう。最後まで好試合を演じたウクライナの分まで、本大会で旋風を巻き起こしてほしい。

 本当にブルーになってしまったのはこちらの知らせだった。
 ロンドンに住む仕事仲間から訃報が届いていた。亡くなったのはまだ30代の男性である。2012年のロンドン五輪で聖火ランナーを務めたとき、彼は人々から送られる声援の力に気づいた。今度は声援を送る側として、具体的な形で社会貢献がしたいと考えた彼は、ロンドン五輪後、NPO法人の一員となり、貧困問題などの社会活動に取り組むグループへの支援に取り組んでいた。そんな彼に取材で密着したことがあった。
 彼の急逝の理由は分からない。
 彼はとてもシャイな青年だった。五輪という機会に触れ、生きがいに燃えていたころのことを思い出し、せつない気持ちになった。

 外は雨が降り続いている。
 ウクライナの東部・セベロドネツクの町では、ウクライナ軍とロシア軍との一進一退の攻防が続いているという。この町を制圧して、ルハンシク州全域を支配し、面目を施したいというのがプーチン大統領の本音だろう。
 面目?そんな言葉を使っている自分にぞっとする。振り上げたこぶしの落としどころが分からないだけの憐れな指導者の面目など、どうでもいいはずだ。なのに、訳知り顔で「面目を施す」などという言葉を使っている自分。
 一方で、いかにぶざまな姿とはいえ、異様に権力を集中させた独裁者を止める決定的な手立てを、国際社会の誰も持たない。そうしている間にも、市民や両軍の兵士たちの命が失われていく。

 僕たちが何気なくニュースの中で伝えている「ロシア軍の戦力の何割が失われた」などという表現も、考えてみればとても残酷だ。戦力、というのは何も戦車などの鉄の固まりだけではない。そこには兵士の命も当然のことながら含まれる。僕らは「戦力が失われた」という表現の中で、「ロシア軍の兵士の命を奪い、軍を弱体化させることができた」というような、どこか安堵の思いを込めている。兵士もまた人間であり、当然その人生があり、愛する人がいるはずだ。その人の命が奪われた事態を、単なる数字、しかも戦力としてとらえている自分がいる。
 戦場には居なくても、僕らもまた十分に戦争に加担しているのかもしれない。

 答えなど出ないことは分かっている。分からないからこそ、いま起きているファクトを可能な限り掘り起こし、できるだけ公正公平な立場で伝え続けるしかない。僕らの仕事は単純なのだ。なのにひどく難しいと感じる。とりわけ2月24日のロシアによるウクライナ侵攻以降は。

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 外は雨が降り止まないが、傘をさして自宅の横にある家庭菜園に出てみた。
 ゴーヤが芽を出していた。ゴーヤにはいつもやきもきさせられる。大型連休前に種をまいたのだが、一向に顔を出さない。仕方ないからあきらめてホームセンターで苗を買い、植えようと思っていた矢先に、こうして芽吹いて見せる。例年のことだ。
 丁寧に見守っていこう。大事に育てればやがて青い葉が旺盛に茂り、いくつもの実がなる。命は毎年、再生する。

 部屋に戻ると、ニュースは朝鮮半島の緊張を繰り返し伝えている。北朝鮮が短距離弾道ミサイル8発を発射したことへの対抗措置として、韓国軍がアメリカ軍とともに同じ8発を発射したという。けん制の意味ではあるが、きな臭さが充満している。しかし、これもまた冷静にファクトを積み上げて伝えるしかない。

 雨が強くなった。関東甲信地方が梅雨入りしたと、ニュースは伝えている。

(2022年6月6日)

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