大越健介の報ステ後記

「ワカモノ」を考える
2021年10月16日

ものの本によれば、古代エジプトの象形文字を読み解いていくと「今どきの若者は…」という趣旨の愚痴が記されていたそうだ。人類の社会ではいつの世も、年長者にとって若者は頼りなく、ときに理解不能な存在なのだろう。
僕も人類のひとりであり、しかも残念ながら年長者の部類に入っているので、「今どきの若者は…」という気持ちになっても不思議はない。
でも、僕はこの「若者」という日本語に違和感を覚えるときがある。それは自身の個人的な職業体験から来ている。
 
大学を出たばかりのNHKの新人記者時代、僕は岡山で警察担当をしていた。事件記者と言うとカッコいいが、世間をあっと言わせる特ダネが連発できたわけではなく、ましてやドラマのように刑事と一緒に事件を解決するなんてことはあるはずもない。警察からの発表モノをつたない取材を加味してニュース原稿に落とし込むという、地味な仕事が大半だった。
「若者のバイクの事故を減らそう」とか、「若者は薬物依存に陥りやすい傾向があるので注意しよう」といった正義の啓発が、ほぼそのまま放送原稿になった。若者という言葉とともに。
 
そんな時、ふと疑問を感じることがあった。自分だってついこの前まで学生だったのに、つまり自分もまだ若者なのに、なぜ若者に注意喚起する側に回ってしまったのだろうと。学生からいわゆる社会人へと立場を変えただけで、当たり前のように年長者の側に立ち、上から目線になってしまっている自分に気づいたのだ。
そんな違和感を僕はまだ引きづっている。もう若者からはすっかり遠い年齢になってしまったのに。
 
「政治の季節」がやってきた。10月31日に衆議院選挙が行われる。2016年、選挙権年齢はそれまでの20歳から18歳に引き下げられた。高齢者の比率が増えているこの国にあって、全有権者に占める若者の割合を増やし、政策に若者の声を政策に反映させようというのが狙いのひとつである。だが若者の投票率は依然、かんばしくない。選挙権年齢引き下げ後2回目となる今度の衆議院選挙はどうなるだろうか。
 
ということでカメラクルーと共に街に出てみた。
定番スポットである東京・渋谷のスクランブル交差点に立って若者たちに声をかけ、政治への関心や望む政策を聞く。これまでの経験で、街頭インタビューで答えてもらえる確率はだいたい3割といったところか。打率3割はプロ野球では十分に好打者である。だが、今回は対象を10歳代後半から20歳代くらいの人に絞る上に、しかめっ面のおっさん(つまり僕)が「政治のことでお聞きしたいのですが…」とマイクを向けるわけだから、成功率は1割そこそこかなと覚悟していた。
ところが、想像以上に多くの人たちがマイクの前に足を止め、語ってくれた。正確に数えてはいないが、声をかけたうちの4割近くが答えてくれたように思う。イチロー選手の全盛期くらいの打率かな。
 
内容もバリエーションに富んでいた。
「正直言うと政治には無関心かなあ。私たちに関係あることって、せいぜいコロナの緊急事態宣言とかだし」。なるほど。考えてみれば自分の学生時代もそうだったなあ。平和大国ニッポンでは、政治に無関心であることにはそれなりの理由がある。
「SNSで政治の情報はフツーに集めていますよ。でもテレビは見ません」。そうか、政治への関心が低いわけではないのだね。でもテレビは見ないのだね。はぁ。
そして何より多かったのが、政策が高齢者に偏っているという意見だった。
「僕らの世代は年金なんてもらえないのだろうと思います」。いまの高齢者も大事だけど、自分たちの世代にも将来、年金が行きわたる制度を考えてほしいという意見だ。つまるところ政治家はお年寄りの手堅い票が頼りであって、お年寄り向けの政策に金も労力も投入されがちなのだと冷静に分析する人もいた。
だからあなたのような若者こそ、きちんと投票所に足を運んでほしいと思いながら話を聞いた。
 
一方で、こうして若い人たちだけをターゲットにして声を拾っていること自体、果たして正しい取材行為なのかどうかが分からなくなった。
若者という特別なカテゴリーに彼らを追いやって、年長者の上から目線で話を聞くという図式にはまり込んでいないか。彼らは別に若者という記号で生きているわけではない。一人ひとり名前を持つ市民なのであって、こちらが勝手に「若者の意見は…」と枠づけてしまうことは、とても傲慢なことではないのか。
 
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いろいろ考えることの多かった一週間。週末に孫が久々に遊びに来た。お気に入りのアニメキャラクターの人形が欲しいらしい。彼女のおねだりにほとんど無抵抗な僕は、近くのゲームセンターにお供し、クレーンゲームの前に陣取った。100円玉を投入しながら一緒になって血眼でキャラクターを狙う。
ふと目を横に向けると、なんと、カップ麺ひと箱をゲットできるマシーンがあった。へえ、と思いながらも、普通に買った方が安いんじゃないの?と疑問がわく。まあ、ゲーム感覚で楽しみたいということなのだろうなと思いつつ、さらに観察してみる。すると、すっかり必需品となったマスクのクレーンゲームがあった。なんで???それこそ必需品なのだから、賭けに出る必要なんてどこにあるのか。
 
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ゲームセンターの中はほぼ若者である。彼らが好むクレーンゲームはカオスだった。
若者という特別なカテゴリーに彼らを押し込めるのはよろしくないとか言いながら、今どきの若者は理解不能だよ、などと60歳の僕は思ってしまったのだった。
 
(2021年10月16日記す)

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