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二十歳で創った音楽会

投稿日:2016年01月17日 09:30

 自分が二十歳のころになにをしていたか……と思い返してみれば、その未熟さに赤面したくなるという方が大半なのではないでしょうか。法律上で「成人になった」ことと、社会のなかで一人前の大人として認められることの間には大きな隔たりがあります。

 しかし、音楽家の世界では若くして頭角を現し、舞台で注目を浴びるような才能の持ち主が大勢います。今回、出演してくださったピアニストの小林愛実さん、ヴァイオリニストの周防亮介さんはともに二十歳にして、すでに華々しいキャリアを築きつつあります。まだ二十歳ですから現在も音楽大学や音楽院で研鑽を積んでいるのですが、それと並行してプロフェッショナルとしての演奏活動も続けています。

 「二十歳にしてすでに一流」という点では、過去の大作曲家たちは現代の演奏家をさらに凌いでいるかもしれません。今回取りあげたショパンのピアノ協奏曲第1番、ヴィエニャフスキの「スケルツォ・タランテッラ」、モーツァルトのセレナード第7番「ハフナー」の3曲は、いずれも作曲者が二十歳頃に書いた作品。これらは決して若書きの習作などではありません。すでにその作曲家の特徴や個性がはっきりと作品に刻印されており、しかも作曲者の死後もずっと演奏され続けている名曲です。この若さで将来の「古典」を書きあげてしまうのですから、本当にすごいですよね。

 そして若年期の名曲には、その時期だからこそ表現できる魅力があると思います。モーツァルトの「ハフナー」セレナードから伝わってくる溌溂とした生命力や屈託のない明るさは、限りない可能性を秘めた若者ならではのものではないでしょうか。ヴィエニャフスキの技巧的な「スケルツォ・タランテッラ」からは、当時すでに名ヴァイオリニストとして脚光を浴びていた作曲者の誇らしげな表情が伝わってくるようです。

 ショパンのピアノ協奏曲第1番は、作曲者が故郷ポーランドを離れて異国へと旅立つ告別演奏会で初演された作品です。祖国への思いを込めた旅立ちの曲。これも二十歳ならではの名曲です。「若いから未熟」という考え方は、才能ある音楽家に対しては当てはまらないのでしょうね。

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超絶技巧の音楽会

投稿日:2015年12月06日 09:30

 超絶技巧って理屈抜きの感動がありますよね。田中彩子さんが歌ってくれたモーツァルトの「夜の女王のアリア」では、どこから出てくるのか思うような高音が飛び出します。軽快で、ユーモラスで、でも迫力がある。爽快でした。

 このアリアが登場するモーツァルトのオペラ「魔笛」は、ほかのオペラとは少し違ったテイストで作曲されています。田中さんのお話でも少し触れられていたように、当時のウィーンでは宮廷劇場がオペラの上演拠点となっていました。しかしその一方で、民衆のための劇場でも歌芝居などが上演され、次第に人気を高めていました。

 とりわけ才人ぶりを発揮していたのが、興行主兼台本作家兼俳優兼歌手のシカネーダー。シカネーダーは自分たちの一座のために、モーツァルトに「魔笛」を書いてもらったのです。おとぎ話や魔法が題材に選ばれているのも、民衆劇のスタイルを踏襲しているからなのでしょう。そして、歌手が超絶技巧を発揮する「夜の女王のアリア」は、お客さんを大いに沸かせる見せ場だったにちがいありません。

 「魔笛」が民衆のためのオペラであったのと同様に、一噌幸弘さんが復刻した田楽笛も民衆のための楽器だったといいます。「空乱12拍子」では、アクロバティックな超絶技巧が連発されました。こちらもエキサイティングでしたよね。なんといっても複数の笛を同時に吹くというのが強烈。この曲は一噌さんのオリジナル作品ですが、きっとかつての田楽笛にも名手がいて、「夜の女王のアリア」と同じように聴く人を興奮させたのではないでしょうか。

 今回、東京シティ・フィルを指揮した沼尻竜典さんは、指揮のみならずピアノや作曲でも活躍されています。五嶋龍さんたっての希望で、沼尻さんのピアノとの共演が実現しました。ヴィエニャフスキの「レジェンデ」、心に響く名演でした。

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