• mixiチェック

久石譲が語る歴史を彩る6人の作曲家たち 後編

投稿日:2016年06月05日 09:30

今週は先週に続いて作曲家・久石譲さんにクラシック音楽の歴史をガイドしていただきました。ペンデレツキ、スティーヴ・ライヒ、ジョン・アダムズといった現代の作曲家たちの作品が演奏されましたが、いかがでしたか。先週のベートーヴェンやワーグナーとはまったく違った発想で作品が書かれているのを感じていただけたかと思います。
 特にペンデレツキの「広島の犠牲者に捧げる哀歌」には、「うーん」と腕組みをしてしまった方も多いかもしれません。龍さんと久石さんの会話にあったように、まるでホラー映画に出てくるような不気味な音楽と感じてもおかしくはないでしょう。事実、ペンデレツキのみならず、20世紀の前衛音楽がホラー映画に使用されることは珍しくありません。
 「広島の犠牲者にささげる哀歌」はトーン・クラスターと呼ばれる新しい表現方法を使った作品として知られています。一定の音域の間にある密集した音の群をいっせいに鳴らすのがトーン・クラスター。美しいハーモニーとは別世界の斬新な音が出てきます。作曲家たちは「これまでに聴いたことのない音」を追い求め、このようなかつてない表現方法を次々と生み出してきました。
 そういった知的な音の探求は今もずっと続いてはいるのですが、一方で技法があまりに先鋭化すると、一般の聴衆の共感を得られなくなるという大きな問題が出てきます。新しいけれども、多くの人が楽しめる明快な音楽はないものか。そんな疑問もわきますよね。そこで人気を獲得したのがライヒらのミニマル・ミュージック。1960年代から70年代に一世を風靡し、その後、ジョン・アダムズら次世代の作曲家たちがこの手法を独自に発展させています。
 まさに今、2010年代にも作曲家たちは次々と新作を発表しています。そのなかには前衛的な作風の延長上にある人もいれば、ミニマル・ミュージック的なスタイルの人もいますし、民族音楽の要素を取り入れる人、伝統回帰を唱える人、ポスト・モダンと呼ばれる潮流に属する人などがいて、多種多様の音楽が同時に生み出されています。その意味では現代を「○○主義音楽の時代」と一言で表すことは困難です。たぶん、今がどんな時代なのかは、これから何十年も経った後にわかることなのでしょう。

  • mixiチェック

久石譲が語る歴史を彩る6人の作曲家たち 前編

投稿日:2016年05月29日 09:30

今週のテーマは「久石譲が語る歴史を彩る6人の作曲家たち」前編。番組テーマ曲でもおなじみの作曲家、久石譲さんのガイドで音楽の歴史をたどりました。
 クラシック音楽の歴史は、9世紀頃のグレゴリオ聖歌まで遡ることができます。この時代はまだメロディが一本だけで、伴奏もない音楽だったんですね。こういった伴奏のない単旋律の音楽が「モノフォニー」。そこから、複数のメロディが同時に歌われる「ポリフォニー」の音楽や、メロディに伴奏が付く「ホモフォニー」の音楽が生まれてきました。
 ルネサンス期には、番組中で演奏されたジョスカン・デ・プレの「アヴェ・マリス・ステラ」のようなポリフォニーの音楽が盛んに作曲されていたのですが、わたしたちが一般に思い浮かべる「クラシック音楽」とはずいぶん違っていますよね。複数の旋律が絡み合って同時進行しますので、かなり複雑な音楽といえるでしょう。古い音楽が決して単純に書かれているわけではありません。むしろ、「難しい」と感じた方も多いのでは?
 18世紀半ばから19世紀初頭までを古典派の時代と呼びます。この時代の最大の作曲家がベートーヴェン。「運命」に表現されていたように、個人の主観が明確に打ち出され、ドラマティックな感情表現が生み出されます。
 続くロマン派の時代になると、作曲家たちはさらに新たな表現技法を開拓し、やがてワーグナーのような巨人があらわれて、これまでになかった和音を駆使したり、音楽とドラマの融合を目指すようになりました。その究極が「トリスタンとイゾルデ」。ロマン派音楽の頂点とでもいいましょうか。もう音楽はどんな複雑な感情や心理でも表現できるのではないかと思わされます。
 しかしワーグナーの時点でもまだ19世紀。20世紀を迎えると音楽にはさらなる変革が訪れます。いったいどんな曲が書かれるようになったのか。次回の「後編」にご期待ください!

  • mixiチェック

五嶋龍の音楽会

投稿日:2016年01月24日 09:30

今回は「五嶋龍の音楽会」。ヴァイオリニスト五嶋龍さんを改めて知っていただくために、「現代音楽」「同世代」「ゲーム音楽」「練習」「ユンディ・リ」「アップデート」というキーワードに即して、6曲がとりあげられました。これまでに番組を通じて龍さんが出会った音楽家たちや楽曲について、龍さんがどんなふうに考えているのか、とてもよく伝わってきたのではないかと思います。
久石譲さんの作曲と指揮、龍さんのヴァイオリンによる番組オープニング・テーマ Untitled Musicを、久しぶりにフルバージョンで聴くことができましたが、やっぱりいい曲ですよね。フレッシュで、勢いがあって、心が浮き立つような音楽です。龍さんのイメージにぴったりではないでしょうか。
龍さんと同世代の音楽家との共演を聴けるのも、この番組ならではの楽しみ。龍さんは「普段の生活では同世代の音楽家たちと接しあう機会はまったくない」のだとか。若くして国際的に活躍する音楽家にとっては、共演者はずっと年上ということがほとんど。日本の同世代を代表する気鋭の演奏家たちとの共演は、大きな刺激を与えてくれるにちがいありません。
ハーバード大学卒、空手三段、幼少時から脚光を浴びるヴァイオリニスト。そんな龍さんのプロフィールからすると、実はゲーム好きだというのが意外ですよね。ゲームを語るときの龍さんの熱さは本物です。「ハマるゲームは製作者が心を込めて作ったゲーム。そういったゲームはすばらしい作品であり、アートでもある」というのが龍さんの持論です。
本日の最後に登場したのはイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番。龍さんが司会となってこの番組で最初に演奏した楽曲で、選曲にも照明効果にも龍さんのアイディアが反映されています。古典の引用からはじまりながら、独自の音楽世界を作り出すこのイザイの作品ほど、龍さんの「音楽に対する視野・視点をアップデートする」という姿勢を体現した曲もないでしょう。ただ新奇さを追い求めるのではなく、見慣れた光景が違ったものに見えてくるような視点の転換を迫る。これはまさに過去の大作曲家が行ってきたことでもあり、その積み重ねがクラシック音楽の歴史になっているともいえます。その意味では、龍さんのおっしゃることは音楽家の本道そのものだな、と感じました。

  • mixiチェック

バッハをめぐる音楽会

投稿日:2015年10月04日 09:30

今月より新司会者として国際的に活躍するヴァイオリニスト、五嶋龍さんを迎えてリニューアルされた「題名のない音楽会」。その第1回がついに放映されました!

5代目司会者となる五嶋龍さんは番組歴代最年少の27歳。フレッシュな雰囲気が伝わってきましたよね。

番組は暗闇のなかでヴァイオリンを奏でる五嶋龍さんの姿ではじまりました。初回を迎えるにあたって、いちばん最初に流れる楽曲をどれにするか。ここで龍さんが強く希望したのが、イザイ作曲の無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番でした。

自身も名ヴァイオリニストであったイザイは、ヴァイオリニストにとっての聖典ともいうべきバッハの「無伴奏ヴァイオリン・ソナタとパルティータ」全6曲にちなんで、6曲の無伴奏ヴァイオリン・ソナタを書きました。バッハの名曲から約200年の時を経て誕生した、20世紀の傑作です。

このイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番、冒頭はバッハの無伴奏パルティータ第3番の引用から始まります。一瞬、「あっ、バッハが始まったのかな!?」と思わせておいて、実は作曲者はイザイ。奔放な楽想から、やがて古い聖歌に由来する「怒りの日」のメロディが浮びあがってきます。いわば、温故知新の姿勢から生まれたのがイザイの楽曲です。番組中で龍さんが「伝統音楽のアップデイト」を番組の目標に挙げていましたが、イザイがこの曲で行なったのはまさにそのアップデイトだったんですね。

そして、20世紀にバッハの精神をよみがえらせた作曲家といえば、ストラヴィンスキーもそのひとり。彼の「バッハにかえれ」のスローガンは、時代の空気をあらわす標語ともなりました。それまでの重厚長大で濃厚なロマン主義に代わって、簡潔で明快な作風から斬新な作品を生み出そうという姿勢は、ヴァイオリン協奏曲にもあらわれています。

番組の最後に演奏されたのは、久石譲さん作曲の新オープニング・テーマ。久石さん自身の指揮で、龍さんとの共演が実現しました。複雑なリズムが駆使されていて、溌剌としてカッコよかったですよね。曲から受けるイメージは人それぞれでしょうが、私は都会の雑踏のなかをさっそうと歩く若者の姿を思い浮かべました。

次回からはこの曲がオープニング・テーマとして最初に演奏されます。早くもう一度聴いてみたいと思いませんか?

  • mixiチェック

フォトギャラリー

フォトギャラリーを詳しく見る≫