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60周年記念企画①角野隼斗「ラプソディ・イン・ブルー」の音楽会

投稿日:2024年04月13日 10:30

 「題名のない音楽会」は今年放送60周年を迎えます。60周年を記念したシリーズ企画のキーワードは「ボーダーレス」。今週はその第1弾として、ボーダーレスな活動を展開する角野隼斗さんをお招きしました。
 角野さんといえば、先日、ソニークラシカルとワールドワイド契約を結んだと発表されて、大きな話題を呼びました。これは日本人演奏家としては五嶋みどりさん、樫本大進さん、藤田真央さんに続く4人目の快挙。秋にワールドワイド・デビューアルバムをリリースするということですので、角野さんに対する国際的な注目が一段と高まることはまちがいありません。
 そんな角野さんが選んだ曲は、ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」。これぞボーダーレスな名曲です。大ヒット曲「スワニー」によって人気ソングライターとして世を席巻したガーシュウィンですが、1924年に開かれた「アメリカ音楽の実験」と題されたコンサートで「ラプソディ・イン・ブルー」を発表すると、クラシック音楽界からも注目を集めます。この曲は「ジャズ風協奏曲」を書いてほしいという依頼から生まれ、当初はジャズ・バンドによって演奏されていたのですが、後にオーケストラ用にアレンジされて、クラシックの名曲の仲間入りを果たしました。しばしば「シンフォニック・ジャズ」の代表曲に挙げられるように、ジャズとクラシックの垣根を越えた最大の成功作のひとつと言ってもよいでしょう。初演から100年を迎えた今も、その新鮮さは失われていません。
 今回の演奏では、角野さんが「弾き振り」に挑戦してくれました。ピアノとオーケストラが向き合って、音の対話をくりひろげる様子は実にスリリング。即興を随所に差しはさんで、角野さんならではの冒険心と遊び心にあふれた「ラプソディ・イン・ブルー」が誕生しました。本当にカッコよかったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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本気でプロを目指す!題名プロ塾第4弾〜後編

投稿日:2024年04月06日 10:30

 今週は先週に引き続いて、葉加瀬太郎さんによる人気企画「題名プロ塾」第4弾後編をお送りしました。最終レッスンに進んだ渥美結佳子さん、成宮千琴さん、新美麻奈さんの3名が、「ボーカリストとのデュエット」に挑みました。課題曲は映画「リトル・マーメイド」より「パート・オブ・ユア・ワールド」。豊原江理佳さんのボーカルとの共演です。
 クラシックのヴァイオリンを学ぶみなさんにとって、ボーカルとの共演は新鮮な体験だったのではないかと思います。葉加瀬太郎さんのチェックポイントは「歌手を引き立てるオブリガート」と「自分が映えるオブリガート」の弾きわけ。オブリガート(助奏)とは、ここではメロディを引き立てる対旋律のことを指しています。
 最初に演奏したのは渥美結佳子さん。さわやかな演奏を披露してくれましたが、葉加瀬さんのアドバイスは「ずっと弾き続けるのではなく、弾かないところがあっていい」。休むところは休み、主役になったときはもっと目立ってよいと言います。アドバイス後の演奏は、ぐっと対話性が豊かになったように思います。
 2番手に登場した成宮千琴さんは、インパクト抜群。イントロ部分もカッコよかったですし、ボーカルが入った後も華麗な演奏で盛り上げてくれました。デュエットとしては饒舌かもしれませんが、よく練られていたと思います。まるでオペラの白熱する二重唱を聴いているかのよう。
 最後に演奏したのは新美麻奈さん。キリリとした端正なソロで、バランスよくボーカルに寄り添っていました。葉加瀬さんは新美さんの演奏にケルト音楽的なイメージを感じたと言います。素朴な民族音楽風のテイストを加えることで、一段と豊かな味わいが引き出されました。
 三者三様の魅力がありましたが、選考の結果、選ばれたのは新美さん! 音楽的な引き出しの多さが評価されました。番組でのデビューが楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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本気でプロを目指す!題名プロ塾第4弾〜前編

投稿日:2024年03月30日 10:30

 今週は葉加瀬太郎さんによる大人気企画「題名プロ塾」第4弾の前編をお送りしました。最終レッスンで選ばれた塾生1名は番組からのデビューが約束されているこの企画、これまでにも林周雅さん、堀内優里さん、ミッシェル藍さんの3名が合格して、現在活躍をくりひろげています。
 前編となる今回は、クラシックの名曲を原曲としたそれぞれジャンルの異なるポップスを5人の塾生のみなさんに演奏していただきました。クラシックとはまた違った演奏スタイルが求められることが、葉加瀬さんのアドバイスからよく伝わってきましたよね。
 渥美結佳子さんが演奏したのはロック版「ペール・ギュント」。原曲はグリーグ作曲の「ペール・ギュント」の「山の魔王の宮殿にて」です。渥美さんの鮮やかな演奏が、葉加瀬さんのアドバイスによって、一段と大きく羽ばたいたように感じました。
 ディキシーランド・ジャズ版「威風堂々」を演奏したのは成宮千琴さん。原曲はエルガーの代表作です。葉加瀬さんのアドバイスでメンバー全員と向き合って演奏することで、ぐっと対話性の豊かな演奏になりました。
 カントリー版「カルメン」を演奏したのは田中杏佳さん。歯切れのよい軽快な演奏でしたが、葉加瀬さんが求めたのはテヌートを基本とした演奏。ムードが一変して、リラックスしたテイストが生まれました。
 モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」はしっとりしたバラード版で。新美麻奈さんの演奏は深みのある豊かな音色が印象的でした。休符の扱いを大切にして、歌うように弾くという葉加瀬さんのアドバイスで、さらに味わいが増しました。
 スウィング・ジャズ版「白鳥の湖」を演奏したのは木村元美さん。葉加瀬さんの弓を弦から離さないで休符を表現するというアドバイスで、音楽の推進力が増しました。
 最終レッスンに進んだのは渥美結佳子さん、成宮千琴さん、新美麻奈さんの3名。はたしてだれが選ばれるのか、次回が楽しみです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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もうすぐ60周年!私の音楽人生に影響を与えた名演の音楽会 後編

投稿日:2024年03月23日 10:30

 この4月で60周年を迎える「題名のない音楽会」。前回に引き続き、第一線で活躍する音楽家たちのみなさんに番組の思い出と、もう一度見たい名演について語ってもらいました。
 葉加瀬太郎さんがもう一度見たい名演に挙げたのは、少年時代の憧れの存在だったという坂本龍一さんの出演回。1984年放送の黛敏郎さんとの対話シーンがありましたが、当時坂本龍一さんは32歳の若さ。YMOの散開直後でした(当時、YMOはグループの「解散」と呼ばずに、あえて「散開」という言葉を使っていました)。東京藝術大学大学院修了作品の「反復と旋」が演奏されていましたが、いわゆる「現代音楽」と呼ばれるモダンな書法が用いられていたのが印象的です。
 角野隼斗さんが挙げたのは、久石譲さんが新日本フィルを指揮したジョン・アダムズの「ロラパルーザ」。ジョン・アダムズは現代アメリカの作曲家で、ポスト・ミニマルミュージックと呼ばれる反復的なスタイルを特徴としています。オーケストレーションも巧みで、その主要作品はベルリン・フィルをはじめ世界中のオーケストラによって演奏されています。現代の作品ですが、おそらく今後レパートリーとして定着して、新たな「クラシック音楽」になることでしょう。
 廣津留すみれさんがもう一度見たい名演に挙げたのは、デイヴィッド・ギャレットの「熊蜂の飛行」。カッコよかったですよね。デイヴィッド・ギャレットは一世を風靡したヴァイオリン界のスーパースター。ロックスターのような風貌でありながら、鮮やかなヴァイオリンのテクニックで聴く人を魅了します。
 山田和樹さんは、山本直純さんの指揮台の高さを変える実験企画を、子どもながらにおもしろいと思ったと言います。そんな実験精神が引き継がれたのが、2016年放送の「指揮者のわがまま音楽会」。山田さんはオーケストラの配置をばらばらにしてプロコフィエフの「古典交響曲」を指揮してくれました。既存の常識を疑う姿勢は、クラシック音楽の世界でも大切なことなのかもしれません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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もうすぐ60周年!私の音楽人生に影響を与えた名演の音楽会 前編

投稿日:2024年03月16日 10:30

 「題名のない音楽会」はこの4月で60周年を迎えます。今回と次回にわたり、第一線で活躍する音楽家たちのみなさんをお招きして、番組の思い出ともう一度見たい名演について語ってもらいました。
 高嶋ちさ子さんは2001年の「期待の若き音楽家たち」に初出演して以来、48回にわたって出演。これまでに高嶋さんならではの楽しい企画がたくさんありました。高嶋さんがもう一度見たい名演として挙げたのが、2018年放送の2CELLOS「スムーズ・クリミナル」。2CELLOSはYouTubeをきっかけに一世を風靡したデュオです。チェロのデュオでこんなにカッコいい音楽ができるのかという新鮮な驚きがありました。
 反田恭平さんは子どもの頃から番組を見て、視聴者参加企画に出演し、大人になってピアニストとして番組に帰ってきました。こんなことがあるんですね。反田さんが思い出に残る回として挙げてくれたのは、青島広志さんがハイドンに扮して大活躍をする回。交響曲第94番「驚愕」第2楽章にある聴衆をびっくりさせる仕掛けが解説されていました。ジョーク好きのハイドンにふさわしい楽しい趣向でした。
 作曲家の服部隆之さんのお話で印象的だったのは、番組はオーケストラの指揮を学ぶ貴重な機会だったということ。だれよりも作品を熟知している作曲家が自作を指揮をするのはごく自然なことですが、一方で作曲家も経験を積まなければ十分な指揮ができないことに気づかされます。服部さんが挙げた名演は、2007年放送のミシェル・ルグランと羽田健太郎の共演による「シェルブールの雨傘」。演奏中の羽田さんの至福に満ちた表情と高揚感あふれる音楽がすばらしいかったですよね。
 箏奏者のLEOさんのもう一度見たい名演は、現代邦楽の第一人者として箏の世界を切り拓いた沢井忠夫の箏と歌(!)による「ラブ・ミー・テンダー」。こんな映像があったとは。びっくりしました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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みんなで奏でる!ドラえもん交響楽(シンフォニー)の音楽会

投稿日:2024年03月09日 10:30

 今週は現在公開中の『映画ドラえもん のび太の地球交響楽(シンフォニー)』とのコラボレーション企画をお送りいたしました。映画では「音楽」をテーマに、ドラえもんとのび太くんたちが大冒険をくりひろげます。
 石丸幹二さんも「ワークナー」役で声で出演。オペラ口調で話す役柄なのですが、オペラの大作曲家ワーグナーをもじっているんですね。ほかにもベートーヴェン風の「ヴェントー」、モーツァルト風の「モーツェル」、滝廉太郎風の「タキレン」といった作曲家にちなんだ名前の登場人物が出てきます。
 歌姫ミーナ役の声優を務めるのは芳根京子さん。この映画をきっかけに全国から参加者を募集して結成された子ども楽器隊「ドラドラ♪シンフォニー楽団」といっしょに、フルートを演奏してくれました。曲は「夢をかなえてドラえもん」。元気いっぱいに演奏する子どもたちの姿を見ると、元気がわいてきます。
 映画では、のび太くんが苦手なリコーダーを練習しているところに、不思議な少女ミッカがあらわれます。そこで今回の収録では、客席のみなさんにリコーダーを持参してもらい、栗コーダーカルテットといっしょに「リコーダーの課題曲「白鳥のエチュード」」を演奏していただきました。子どもたちにとっては学校の授業でおなじみのリコーダーですが、大人にとっては懐かしい楽器。もうすっかり指使いを忘れてしまったという方も多かったことでしょう。なんと、東京交響楽団のみなさんもリコーダーで参加してくれました。大人数で吹いたリコーダーの音色はすごく爽やかで温かみがありますね。
 ミッカ役は平野莉亜菜さん。透き通るような清澄な声がすばらしい! おしまいの「地球交響楽〜1楽章」では、作曲者服部隆之さん自身の指揮のもと、東京交響楽団の重厚なサウンドに、平野さんの歌、栗原正己さんのリコーダー、林周雅さんのヴァイオリンなど、さまざまなソロが加わって、雄大な楽想を堪能させてくれました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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小林愛実が“即興曲”を弾く音楽会

投稿日:2024年03月02日 10:30

 今週は演奏家が名曲に題名をつけて演奏する好評シリーズ企画の第6弾として、ピアニストの小林愛実さんをお招きしました。小林さんは2021年のショパン国際ピアノ・コンクールで第4位に入賞。同じコンクールで第2位に入賞した反田恭平さんと結婚し、出産を経て、ステージに帰ってきました。
 今回、小林さんが選んだ3曲は、すべて「即興曲」です。クラシック音楽の世界で「即興曲」といえば、主にロマン派の時代に好まれた性格的小品(キャラクター・ピース)の一種で、即興的な性格を持った小品を指します。実際に即興をするのではなく、決まった形式を持たない自由な発想で書かれた作品という意味合いなんですね。
 その即興曲の分野で名曲を残したのがシューベルト。小林さんはシューベルトの即興曲Op.90-2に対して、「7歳の思い出」と名付けました。これは小林さん個人の思い出にちなんでいるわけですが、ピアノ学習者の方には、7歳とは言わずとも、発表会等でこの曲に思い出を持っている方も少なくないことでしょう。
 ショパンの「幻想即興曲」も広く親しまれている名曲です。「即興曲」の前に「幻想」と付いていますが、これは作曲者の死後に他人が付けた題名です。クラシックの名曲ではよくあることですが、他人が付けた題名がそのまま定着しました。小林さんがこの曲に付けた題名は「オルゴール」。オルゴールのふたを開けて感じる懐かしさに、作品に込められたショパンの祖国への思いを重ね合わせたところからの連想でした。たしかにこの曲にはノスタルジーを感じます。
 3曲目はシューベルトの即興曲Op.142-2。小林さんが付けた題名は「包まれて」。これはよくわかりますよね。冒頭のメロディから聴く人を包み込むような優しさが伝わってきます。出産後は「どの作品を弾いても子どものことを思い出してしまう」と語る小林さんの言葉通り、慈愛に満ちたシューベルトでした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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第32回出光音楽賞受賞者ガラコンサート

投稿日:2024年02月24日 10:30

 今週は第32回出光音楽賞受賞者ガラコンサートの模様をお届けいたしました。出光音楽賞は1990年に「題名のない音楽会」の放送25周年を記念して制定された、すぐれた若手音楽家たちに贈られる賞です。今回の受賞者はピアノの亀井聖矢さん、阪田知樹さん、ソプラノの森野美咲さんの3名でした。
 亀井聖矢さんはまだ22歳という若さながら、今もっとも勢いのあるピアニストとして熱い注目を集めています。今回は数あるピアノ協奏曲のなかでもいちばんの傑作と亀井さんが語るプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を演奏してくれました。この曲はプロコフィエフならではのモダンでアグレッシブなテイストに、リリシズムやユーモアが渾然一体となっているところが魅力。亀井さんの切れ味鋭い演奏から、作品の多面的な魅力が伝わってきました。
 森野美咲さんが選んだ曲は、リヒャルト・シュトラウスのオーケストラ伴奏付きの歌曲「明日!」と「アモール」の2曲。「明日!」はシュトラウスが結婚の記念に妻となるソプラノ歌手のパウリーネに贈った曲だけあって、とても甘美な曲です。一方、「アモール」とは愛の神キュービッドのこと。翼が燃えてしまい、泣きながら羊飼いの娘に飛び込んだら、娘に恋の炎が燃え上がった……というウィットに富んだ恋の歌です。森野さんの柔らかく豊かな声を堪能しました。
 阪田知樹さんが演奏したのは、ラヴェルの「左手のためのピアノ協奏曲」。ラヴェルは2曲のピアノ協奏曲を書いています。両手のために書かれたピアノ協奏曲ト長調は多くのピアニストが好む人気曲であるのに対して、「左手のためのピアノ協奏曲」は、阪田さんの言葉にもあったように、傑作のわりにはあまり演奏されません。戦争で右腕を失ったピアニストに依頼されて、ラヴェルは左手のみで弾ける作品を書いたのですが、曲想は両手の協奏曲以上に雄大で荘厳です。阪田さんの輝かしく力強いソロが最高にカッコよかったですよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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名前を覚えてもらえない作曲家の音楽会~学校で習ったのに編

投稿日:2024年02月17日 10:30

 今週は「名前を覚えてもらえない作曲家の音楽会」の第2弾「学校で習ったのに」編。曲は知ってるけど、作曲家の名前が出てこない……。そういうことって、よくありますよね。
 「ボレロ」の作曲家ラヴェルの名前を覚えていたのは50人中7人。少ないといえば少ないですが、でも大健闘ともいえるのでは。ラヴェルは20世紀前半のフランスを代表する作曲家で、カラフルなオーケストレーションが特徴的です。
 「白鳥」はサン=サーンスの人気曲。組曲「動物の謝肉祭」のなかの一曲です。サン=サーンスはラヴェルの一世代前のフランスの作曲家で、交響曲第3番「オルガン付き」など、多数の傑作を残しています。名前を覚えてくれていたのは50人中6人。大健闘です。
 「威風堂々」を作曲したのはイギリスのエルガー。この曲は以前からテレビCMでひんぱんに使われています。エルガーの曲は「威風堂々」といい「愛のあいさつ」といい、なぜかCMで好まれる傾向があります。近年では入学式、卒業式の音楽としても使われます。エルガーとわかった方は50人中4人。もう少し多いかと思ったのですが……。
 運動会でおなじみ、「トランペット吹きの休日」の作曲家はルロイ・アンダーソン。アメリカ軽音楽の巨匠と呼ばれ、「そりすべり」「タイプライター」「ワルツィング・キャット」など数々の名曲を残しました。こちらの正解者は50人中2人のみ。まさに曲はだれでも知っているけど、作曲家の名前は出てこない典型だと思います。難問でした。
 最後の「ラデツキー行進曲」も運動会でよく使われます。ヨハン・シュトラウス1世の作曲と答えられたのは50人中1人のみですが、無理もありません。なにしろ息子のヨハン・シュトラウス2世のほうが有名なので、つい混乱してしまいます。ウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートでは毎年アンコールに息子の「美しく青きドナウ」が演奏され、次に父親の「ラデツキー行進曲」が演奏されて幕を閉じます。もっぱらお正月と運動会で耳にする名曲といってもいいかもしれませんね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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冬から連想する音楽会

投稿日:2024年02月10日 10:30

 今週は好評の「四季を感じる音楽会」シリーズの「冬」編。冬から連想する言葉を数珠つなぎにして、その言葉からイメージされる曲をゲスト奏者のみなさんに演奏していただきました。
 まずは「冬」といえば「雪」。「アナと雪の女王」より「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」を、石上真由子さんのヴァイオリン、大井駿さんのチェレスタ、中村滉己さんの津軽三味線でお届けしました。ふつうではありえない楽器の組合せから、独特の味わいを持った「レット・イット・ゴー」が誕生しました。津軽三味線が醸し出す和のテイストが効いていましたよね。日本の雪景色が目に浮かんできます。
 「雪」から大井駿さんが連想したのは「雪だるま」。曲はチャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」より「金平糖の精の踊り」。子ども時代に雪だるまを作って手がキーンとかじかんだ思い出から、チェレスタの音色をイメージしたといいます。チェレスタといえばこの曲。チャイコフスキーは当時まだ知られていなかったチェレスタの音色を耳にして、いち早く「くるみ割り人形」に取り入れました。バレエが人気作になったことからチェレスタも世界中に広がったといいますから、チャイコフスキーはこの楽器を広めた立役者といってもよいでしょう。
 中村滉己さんが「雪だるま」から連想した言葉は「孤独」。少し意外でしたが、説明を聞いて納得。人がいなくなった後の雪だるまって、孤独ですよね。そして「孤独」からイメージした曲が、上京したての孤独な頃に演奏していたという青森県民謡「ホーハイ節」。スカッと突き抜けるような声が爽快でした。
 石上真由子さんが「孤独」から連想した言葉は「人間」。孤独だった大学受験時代に、音楽を聴いて「人間」を感じたことからの連想です。そして「人間」からイメージした曲は、チャイコフスキーの「なつかしい土地の思い出」より「メロディ」。石上さんの伸びやかで温かみのあるヴァイオリンが郷愁を誘います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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