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SixTONESとクラシックの音楽会

投稿日:2022年04月23日 10:30

今週はアイドルグループSixTONESのみなさんをお迎えして、クラシックの音楽家たちとのコラボレーションをお届けしました。ソリストにはチェロの宮田大さん、箏のLEOさんが登場。三ツ橋敬子さん指揮のオーケストラはヴァイオリンの林周雅さんをはじめとする気鋭の実力者ぞろい。SixTONESとの共演は豪華というほかありません。
 クラシック音楽のイメージについて、ジェシーさんが「ひとりでウイスキーを飲みながら間接照明を落とした中で聴く」と表現していたのが、おもしろかったですね。実際のクラシック音楽ファンはもっとカジュアルな姿勢で音楽を楽しんでいる人も多いと思うのですが、やはりクラシックには大人の音楽というイメージがあるのでしょう。
 演奏された4曲はそれぞれ異ジャンルとのコラボレーションならではの新鮮さにあふれていたと思います。「Everlasting」では、SixTONESのボーカルとまろやかな弦楽器の音色がきれいに溶け合って、透明感のあるハーモニーを作り出していました。
 「Lifetime」では今や世界的奏者として大活躍する宮田大さんがソリストとして参加。独奏チェロが加わることで、ぐっと奥行きのある音楽になっていたと思います。みずみずしいボーカルと深く豊かなチェロの音色が無理なく調和していました。曲中に織り込まれていたのはシューマン作曲の「トロイメライ」。曲名はドイツ語で「夢みごこち」といった意味です。原曲はピアノ曲集「子供の情景」なかの一曲で、子供そのものを表現したというよりは、大人の心の中にも残る子供心が描かれています。
 「Imitation Rain」では箏のLEOさんが共演。箏のきらびやかな音色によって、ぐっと華やかさが増していました。最後の「マスカラ」は宮田さん、LEOさんのソロも加わったゴージャスなアレンジで。SixTONESからオーケストラのひとりひとりまで、全員が輝く華麗なサウンドを堪能できました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ボーダレスなピアニスト角野隼斗を知る音楽会

投稿日:2022年04月16日 10:30

今週はボーダレスなピアニスト、角野隼斗さんの魅力に迫りました。角野さん、本当にすごかったですね。角野さんの音楽的な引出しの多さに驚かされっぱなしでした。クラシックあり、ジャズあり、独自の「シティ・ソウル」あり。楽器を弾けばトイピアノや鍵盤ハーモニカ、キーボード、アップライトピアノまで駆使して、次々と新鮮な音楽を披露してくれました。
 これまでもジャンルの垣根を越えて活躍するすぐれたピアニストはいましたが、角野さんはこれまでのだれとも違った独自の道を歩んでいると思います。そもそも彼の存在を最初に知ったのは、人気YouTuber「かてぃん」として。アカデミックな経歴もあって、いったいこれからどうするのだろうと思っていたら、あっという間にボーダレスな音楽家として活躍するようになり、しかも昨秋のショパン国際ピアノ・コンクールではセミ・ファイナリストに名を連ねました。これは経験としてはもちろんのこと、国際的に通用する経歴を得たという点で大きな意義があったと思います。
 つい数日前、ドイツのハンブルク交響楽団の演奏会に角野さんがソリストとして出演して、バルトークのピアノ協奏曲第3番を演奏しました。指揮は番組でもおなじみの鈴木優人さん。会場は伝統あるライスハレでした。オーケストラの公式サイトには角野さんのプロフィールも掲載されているわけですが、そこにはショパン・コンクール等での純粋なクラシックでの経歴のみならず、YouTubeでCateenとして人気を得ていることや、東京大学大学院情報理工学系研究科で学んだこと、フランスの有名なIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)で研究したことも記されていました。ドイツの聴衆もいったいどんな才能が現れたのかとびっくりしたことでしょう。
 「根底にあるのはクラシック」と語る角野さんですが、これからどんな方向に向かっていくのか、まったく予測が付きません。ワクワクしますね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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トランペット奏者たちが集まる休日

投稿日:2022年04月09日 10:30

ジャズ、ポップス、クラシック、どんなジャンルの音楽でも花形を務めるのがトランペット。今週はさまざまなジャンルで活躍するトランペット奏者のみなさんに集まっていただきました。当番組ではおなじみのエリック・ミヤシロさん、日本フィルのソロ・トランペット奏者のオッタビアーノ・クリストーフォリさん、東京吹奏楽団の守岡未央さん、バッハ・コレギウム・ジャパンで活躍するバロックトランペットの第一人者の斎藤秀範さんというそうそうたるメンバーが一堂に会しました。実に華やかな演奏でしたね。
 一口にトランペットといっても、ピストントランペット、ロータリートランペット、コルネット、フリューゲルホルン、バロックトランペット等、ずいぶんたくさんの種類の楽器があります。冒頭の「オン・ザ・サニー・サイド・オブ・ザ・ストリート」の演奏に楽器ごとの特徴がよくあらわれていました。輝かしい音もまろやかな音も出せるのがトランペット。ミュート奏法の多彩さもこの楽器の特色でしょう。
 トランペットは歴史の古い楽器です。古代より存在し、軍楽隊の楽器など実用的な役割を果たしていました。バロック音楽の時代になると純粋に合奏用の楽器としてトランペットが使われるようになります。この頃に使われていたのが、斎藤さんが演奏していたナチュラルトランペット。指でなにも操作せずに、口だけで音程を変えるというのですから驚きです。ただし、このままでは出せる音が限られていますので、19世紀初頭になるとバルブが発明され、トランペットの表現力は格段に高まりました。
 バルブの方式によってピストン・トランペットとロータリー・トランペットがありますが、一般的に目にする機会が多いのはピストン。でもオーケストラではロータリーが使われることも珍しくありません。特にドイツ語圏のオーケストラではロータリーが一般的。オッタビアーノさんは曲によって使い分けると言っていましたね。オーケストラを聴くときは、どちらのトランペットを使っているのか、注目してみてはいかがでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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春が来た音楽会

投稿日:2022年04月02日 10:30

今年の桜は平年より少し早めに満開を迎えているようです。東京は満開を過ぎて、桜の花びらが風に舞うようになりました。今週はこの季節にふさわしい多彩な春の名曲をお届けしました。
 やはり日本の春の曲となると、桜を題材にした曲が多くなります。日本古謡の「さくらさくら」から森山直太朗「さくら」まで、桜の花に春の情景を託した名曲は数知れず。桜が開花する時期は南は3月下旬、北は5月上旬くらいと、日本全国でもかなりばらつきがあります。その土地ごとに春の到来を実感させてくれるシンボルとして、桜ほどふさわしいものもないでしょう。
 クラシック音楽でも春を題材にした曲はたくさんあります。おそらく四季のなかでも春の曲がもっとも多いはず。今回演奏されたのは、メンデルスゾーンの無言歌集より「春の歌」。これは耳にする機会の多い曲ですよね。無言歌とは「言葉のない歌」の意。メンデルスゾーンが抒情的なピアノ小品を無言歌と呼んで以来、他の作曲家もこの題を用いるようになりました。人間の声で歌うようにピアノを奏でる、といったニュアンスが込められているわけです。小林愛実さんの流麗な演奏はまさしく無言歌の題にふさわしいものでした。
 石丸さんの歌唱による福山雅治「桜坂」では、春が到来して過ぎ去った恋に思いを馳せるという歌詞が歌われていました。曲調もしっとりとしていて、ノスタルジーを喚起します。こういった曲を聴くと、日本らしい春の音楽だなと感じます。クラシックの春の名曲の場合は、ヨーロッパの厳しい冬が終わってようやく春が来た喜びを表現した曲や、生命力にあふれた自然賛歌の音楽が大半だと思います。しかし日本では4月から新年度が始まるという事情もあり、春は別れと出会いの季節に重なります。喜びだけではなく、しばしば寂しさをにじませるのが日本の春。そんな様子が音楽からも伝わってきたのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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ブラスで楽しむディズニーの音楽会

投稿日:2022年03月26日 10:30

今週はディズニーの名曲をブラス・サウンドでお楽しみいただきました。エリック・ミヤシロさんの趣向を凝らした編曲が本当にすばらしかったですね。
 一曲目は「アラジン」の「フレンド・ライク・ミー」。ブラスセクションを中心とした厚みのあるサウンドがゴージャスでした。そしてエリックさんのトランペットはスカッと突き抜けるような音色から、とろけるようなまろやかな音色まで自由自在。しびれました。
 「ヘラクレス」の「ゼロ・トゥ・ヒーロー」では、清水美依紗さんがパワフルでのびやかな声を披露。エリックさんもおっしゃっていましたが、あれだけ管楽器の人数が多い編成にボーカルで対抗するのは大変なこと。清水さんの魅力が全開になっていたと思います。
 以上の2曲はディズニーではおなじみのアラン・メンケンの作曲。この人あってのディズニー音楽と言ってもいいでしょう。
 続く「ミラベルと魔法だらけの家」より「秘密のブルーノ」は、リン=マニュエル・ミランダの作曲。ブロードウェイ・ミュージカルで成功を収め、「モアナと伝説の海」以来、ディズニーでも活躍の場を広げています。この曲は何人もの登場人物が同時に対話しているところがおもしろいですよね。ついロッシーニなど、コミカルなイタリア・オペラの重唱の場面を連想してしまいます。これを器楽だけで表現してしまうのが、エリックさんのアレンジのマジックです。
 最後は「モンスターズ・インク」と「Mr.インクレディブル」のメドレー。「古き良き時代のジャス」のような「モンスターズ・インク」は大御所、ランディ・ニューマンの作曲。一方、「Mr.インクレディブル」はマイケル・ジアッキーノが作曲。5拍子の名曲「ミッション・インポッシブル」へのオマージュのような曲調がたまりません。こちらもエリックさんのトランペットが爽快でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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あの神童たちの今!世界に羽ばたくニュースターの音楽会

投稿日:2022年03月19日 10:30

今回はかつて番組に出演した「神童」たちの現在の成長ぶりをご覧いただきました。大人にとって数年前の出来事はつい最近のことのように思えますが、「神童」たちはその間に大きく成長します。大人と子供の時の流れの違いを痛感せずにはいられませんでした。
 チェロの上野通明さんはジュネーヴ国際音楽コンクールのチェロ部門優勝を果たした新星です。幼少期をスペインのバルセロナで過ごしただけあって、バルセロナ出身のガスパール・カサドが作曲した無伴奏チェロ組曲を演奏してくれました。カサドは作曲家であると同時に、世界的な名チェリストとして広く知られていました。ピアニストの原智恵子と結婚したこともあり、日本と縁の深い音楽家でもあります。上野さんがカサドの作品を演奏するのは必然といってもよいかもしれません。
 ヴァイオリンの中野りなさんとピアノの谷昂登さんは、それぞれ7年前と6年前に番組に出演して、現在は高校生。ともに日本音楽コンクールで昨年第1位を獲得したホープです。このコンクールで脚光を浴びた若手が、何年か経った後に著名な国際コンクールで上位入賞を果たしたり、大舞台で活躍したりといったケースはよくあること。たとえば10年前の2012年ですと、ピアノ部門の第1位が反田恭平さんと務川慧悟さん、声楽部門の第1位が藤木大地さんでした。こういった結果を見るにつけ、才能ある人は着実に頭角を現すものなのだと感じます。
 中野さんが演奏したのは20世紀のハンガリーを代表する作曲家、バルトークのラプソディ第1番。バルトークが「今いちばん好きな作曲家」なのだとか。いずれバルトークの協奏曲なども聴いてみたくなります。谷さんが選んだのはラフマニノフの「音の絵」第5番。「音の絵」とは不思議な題名ですが、作曲者の頭の中にはどうやら曲ごとに絵画的な情景がイメージされていたようなのです。しかし、そのイメージがどんなものかは明かされていません。谷さんの力強い演奏から、どんな絵が目に浮かんできたでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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題名のない音楽会年鑑2021 後編

投稿日:2022年03月12日 10:30

今週は2021年度の音楽界を振り返る「題名のない音楽会年鑑2021」の後編。前編では若き才能の躍進ぶりをお伝えいたしましたが、後編では偉大な音楽家たちとの別れ、そして話題を呼んだアニメソングを特集しました。
 昨年9月に世を去ったすぎやまこういちさんの代表作といえば、「ドラゴンクエスト」シリーズの音楽を挙げないわけにはいきません。すぎやまさん自ら指揮をした「ドラゴンクエストI」の「序曲」は貴重な映像。「ドラクエ」シリーズ全体のテーマ曲ともいえる名曲ですが、最初にファミコンで「ドラゴンクエストI」がリリースされた時点では、このようなオーケストラサウンドをゲーム機で実現することは不可能でした。ハードウェアの制約から、現実に鳴っていたのは「ピコピコ音」と呼ばれる電子音のみ。しかし、作曲者の頭の中にあったのは、今回の東京交響楽団のようなフルオーケストラのサウンドです。おそらくプレーヤーの多くも頭の中で雄大なサウンドを想像していたのではないでしょうか。「ドット絵」と呼ばれるグラフィックスもそうですが、当時のゲームはプレーヤーのイマジネーションをいかに刺激するかという点に、クリエーターたちの創意が凝らされていたように思います。
 12月に逝去した丸谷明夫先生も忘れることのできない名指導者でした。長年にわたり大阪府立淀川工科高校吹奏楽部を指導し、番組にもたびたび出演してくださいました。全国に多くのファンを持ち、ときにはプロの吹奏楽団の指揮台にも立つなど、これほど日本の吹奏楽文化の豊かさや厚みを感じさせてくれる指導者はいませんでした。
 アニメソングの世界からは次々と名曲が誕生していますが、なかでも人気を呼んだのが劇場版「鬼滅の刃」無限列車編の「炎」。番組では荒井里桜さんのヴァイオリン・ソロを中心に、日本の若手トッププレーヤーたちが集まったぜいたくなアンサンブルで「炎」をお届けしました。アニメソングの枠にとどまらず、長く愛される曲になりそうです。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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題名のない音楽会年鑑2021 前編

投稿日:2022年03月05日 10:30

今週は2021年度の音楽界を振り返る「題名のない音楽会年鑑2021」前編。コロナ禍に翻弄された音楽界ですが、それでも2021年度は話題の豊富な一年だったと思います。
 なによりも大きなニュースはショパン国際ピアノ・コンクール。第2位の反田恭平さん、第4位の小林愛実さんをはじめ、日本勢の健闘ぶりが目立ちました。特に反田さんは日本人としては1970年の内田光子さん以来となる過去最高位の第2位。反田さんがコンクールの第2位について「パスポート」と表現していたのが印象的でした。世界中のどこのコンサートホールであれどこのオーケストラであれ、「ショパン・コンクール第2位のピアニスト」には必ず敬意を払ってくれるでしょう。
 これまで番組で反田さんが演奏してくれた場面はどれも懐かしいものばかり。「カルメン幻想曲」の切れ味の鋭さには改めて驚かされます。
 小林愛実さんの「今まで生きてきた中でいちばん濃い一年」という言葉にも実感がこもっていました。小林さんは前回のショパン・コンクールでファイナルまで進出していただけに、今回それを上回る第4位入賞を果たしたことには大きな意味があると思います。小林さん、反田さん、藤田真央さんの3人の共演によるグリンカの「ルスランとリュドミラ」序曲はゴージャスの一語。原曲のオーケストラ版以上に華やかな雰囲気がありました。
 エリザベート王妃国際音楽コンクールもトップレベルのコンクールとして知られています。このコンクールにはさまざまな部門があるのですが、2021年は5年ぶりにピアノ部門が開催されました。そこで務川慧悟さんが第3位に、阪田知樹さんが第4位に入賞しました。たまたまショパン・コンクールと開催年が重なり、しかもどちらでも日本人が上位入賞を果たしたわけです。さらにミュンヘン国際音楽コンクールのヴァイオリン部門第1位に岡本誠司さん、ジュネープ国際音楽コンクールのチェロ部門第1位に上野通明さんが輝き、昨年度はまれに見る入賞ラッシュの一年になりました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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タイトルを新解釈!もしもの音楽会

投稿日:2022年02月26日 10:30

今週は曲名と中身が異なった名曲を集めて、タイトルから新解釈してみました。「お祭りマンボ」「東京ブギウギ」「マツケンサンバ」「お嫁サンバ」「恋のロンド」などなど、どれも特定のリズムや音楽形式を連想させつつも中身は別。でも、本当にそのタイトル通りの曲にしたらどうなるのか……? そんな素朴な疑問から実現したのが、ブギウギ化された「東京ブギウギ」と、マンボ化された「お祭りマンボ」。なんだかものすごくカッコいい曲に生まれ変わったように感じたのですが、いかがでしたか。和風なような無国籍なような、レトロなような新しいような、不思議なテイストがありました。
 ボレロは舞曲の一種ですが、ふたつの系統があることから、しばしば混乱を招きます。クラシック音楽の世界でボレロといえば、なんといってもラヴェルの「ボレロ」が有名。ここで言うボレロとはスペイン舞曲の一種で、「もとは舞曲セギディーリャのテンポをゆるめ、優美さを加えたもの」(「新編音楽中辞典」より)。3拍子の舞曲です。ところが、キューバ、プエルトリコ、メキシコなど、ラテン・アメリカ大衆歌謡にもボレロと呼ばれる音楽があり、こちらは4拍子。そこで、もしもラヴェルの「ボレロ」が南米のボレロだったらと想像して、南米のリズムにアレンジしたのが今回の演奏です。いろいろなリズムの移り変わりを楽しめるカラフルな「ボレロ」で、ラテン的な心地よいムードが漂っていました。
 「ダンシング・クイーン」はスウェーデンのコーラス・グループABBAが1976年にリリースしたヒット曲。日本でも大ブームを巻き起こしました。この曲をさらにパワーアップさせるため、世界中から踊りのクイーンが集まったという設定で、サンバ、フラメンコ、ウィンナ・ワルツ、盆踊りの要素が盛り込まれました。どんなダンスでもフレキシブルに受け入れてしまう「ダンシング・クイーン」。やはりこの曲はダンスの女王です。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クセが強いのにクセナキスの音楽会

投稿日:2022年02月19日 10:30

今週は今年生誕100年を迎えた作曲家、ヤニス・クセナキスの音楽をお届けしました。クセナキスは20世紀後半を代表する作曲家のひとり。アテネ工科大学で土木工学を学び、あの有名な建築家ル・コルビュジエのもとで技師や設計士として働いたという経験の持ち主です。1958年のブリュッセル万博ではフィリップス館の設計に携わっています。従来の作曲家たちとはまったく異なるバックボーンを持ち、数学的なアイディアをもとに独創的な音楽語法を作り上げました。
 数学を駆使した曲を書いたというと、聴く人を遠ざけるような難解で冷たい音楽をイメージするかもしれないのですが、お聴きいただいたように、実際の作品はとてもハートに訴えかける力の強い音楽です。どんなに複雑なプロセスで曲が書かれていようが、どんなに難しい超絶技巧を要求しようが、聴衆の魂を揺さぶる何物かがなくては、作品が時代を超えて生き残ることは難しいでしょう。今回の3曲、「カッサンドラ」「ディクタス」「オコ」、いずれの作品にも耳を捉えて離さない強靭な生命力が宿っていました。
 ギリシャ人のクセナキスには、ギリシア神話を題材とした作品がたくさんあります。そのひとつが一曲目の「カッサンドラ」。カッサンドラは悲劇の予言者として知られています。アポロンに愛され、予言の能力を授かったにもかかわらず、求愛を拒んだことから怒りを買い、予言が決して信じてもらえない呪いをかけられてしまいます。トロイの滅亡を正しく予言したのに、だれもカッサンドラの言葉に耳を貸さず、破滅への道を歩んでしまう。よく、耳が痛いけれど正しいことを言っている人のことをカッサンドラにたとえることがありますが、真実が見えるからこその悲哀というものがあると思います。そんな切なさが、クセナキスの音楽からも感じられたのではないでしょうか。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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