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冬から連想する音楽会

投稿日:2024年02月10日 10:30

 今週は好評の「四季を感じる音楽会」シリーズの「冬」編。冬から連想する言葉を数珠つなぎにして、その言葉からイメージされる曲をゲスト奏者のみなさんに演奏していただきました。
 まずは「冬」といえば「雪」。「アナと雪の女王」より「レット・イット・ゴー〜ありのままで〜」を、石上真由子さんのヴァイオリン、大井駿さんのチェレスタ、中村滉己さんの津軽三味線でお届けしました。ふつうではありえない楽器の組合せから、独特の味わいを持った「レット・イット・ゴー」が誕生しました。津軽三味線が醸し出す和のテイストが効いていましたよね。日本の雪景色が目に浮かんできます。
 「雪」から大井駿さんが連想したのは「雪だるま」。曲はチャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」より「金平糖の精の踊り」。子ども時代に雪だるまを作って手がキーンとかじかんだ思い出から、チェレスタの音色をイメージしたといいます。チェレスタといえばこの曲。チャイコフスキーは当時まだ知られていなかったチェレスタの音色を耳にして、いち早く「くるみ割り人形」に取り入れました。バレエが人気作になったことからチェレスタも世界中に広がったといいますから、チャイコフスキーはこの楽器を広めた立役者といってもよいでしょう。
 中村滉己さんが「雪だるま」から連想した言葉は「孤独」。少し意外でしたが、説明を聞いて納得。人がいなくなった後の雪だるまって、孤独ですよね。そして「孤独」からイメージした曲が、上京したての孤独な頃に演奏していたという青森県民謡「ホーハイ節」。スカッと突き抜けるような声が爽快でした。
 石上真由子さんが「孤独」から連想した言葉は「人間」。孤独だった大学受験時代に、音楽を聴いて「人間」を感じたことからの連想です。そして「人間」からイメージした曲は、チャイコフスキーの「なつかしい土地の思い出」より「メロディ」。石上さんの伸びやかで温かみのあるヴァイオリンが郷愁を誘います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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役柄は声の高さで決まる!オペラの音楽会

投稿日:2024年02月03日 10:30

 今週はオペラの役柄と声の関係を探ってみました。オペラの世界ではもっぱら声の高さによって役柄が決まっています。多くの場合、主役は高い音域を担いますので、ヒロインはソプラノ、ヒーローはテノールの役になります。となると、そのライバルや悪役はコントラストをつけるために、より低いメゾソプラノやバリトンが歌うことになります。さらに低い声、男声であればバス、女声であればアルトになると、特殊な役柄を歌うことが多くなります。賢者や権力者、神様、老人、魔女など。
 プッチーニの「トスカ」ではヒロインの歌姫、トスカの役をソプラノが歌い、その恋人である画家の役をテノールが歌います。そして、悪役のスカルピアはバリトン。今回、大西宇宙さんがスカルピアを歌ってくれましたが、この役は数あるオペラのなかでも悪役中の悪役といえるでしょう。血も涙もない冷血漢で、このオペラを観るたびにムカムカしてくるのですが、そういう役にもプッチーニは見せ場を作ってるんですよね。ストーリー上は心底嫌なヤツなのに音楽で魅了してくるという……。悪役にもすばらしい音楽が用意されるところがオペラの魅力かもしれません。
 同じくプッチーニの人気作「トゥーランドット」では、流浪の王子役カラフが歌う「だれも寝てはならぬ」がよく知られています。フィギュアスケートでもおなじみですね。本来はテノールが歌う曲ですが、今回は実験的にバリトンで歌ってもらいました。やっぱりそこはかとなく悪役感が漂ってきます。
 バリトンが主役を務めることもありますが、その場合はアンチ・ヒーロー的な物語がほとんど。常軌を逸したプレイボーイを描く「ドン・ジョヴァンニ」(モーツァルト)、王を殺して王位を簒奪する「マクベス」(ヴェルディ)、大酒飲みの好色な老騎士の物語「ファルスタッフ」(ヴェルディ)など。どれも一癖も二癖もある役柄です。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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3曲でクラシックがわかる音楽会~モーツァルト編~

投稿日:2024年01月27日 10:30

 今週は新シリーズ「3曲でクラシックがわかる音楽会」のモーツァルト編。モーツァルトの天才性はどこにあるのか、鈴木優人さんに解説していただきました。優人さんが注目したのは短調の作品。モーツァルトの曲の大半は長調で書かれているのですが、数少ない短調の曲はとびきりの名曲ばかり。そんな短調の傑作を集めてみました。
 モーツァルトはたくさんのピアノ・ソナタを残していますが、短調の曲は2曲だけ。その内の1曲が、優人さんがフォルテピアノで弾いてくれたピアノ・ソナタ第8番イ短調です。ピアノ学習者の方には、この曲を練習したことのある方もいらっしゃるでしょう。とても悲劇的なムードで始まるのですが、さっと明るい光が差し込むようなところもあり、さまざまな表情が生まれてきます。短調と長調の間を自在に行き来しながら、陰影に富んだ音楽を作り出すのがモーツァルトならでは。
 オペラ「魔笛」の「夜の女王のアリア」では、限界を超えるような高音が求められます。「魔笛」で描かれるのはメルヘンの世界。こういったアリアから、夜の女王がふつうの人間とは違う存在だということが伝わりますよね。夜の女王は、娘が邪悪なザラストロにさらわれてしまったと主人公に助けを求めるのですが、やがて主人公はザラストロが賢者であることを知ります。そしてザラストロの神殿で試練を乗り越えることで、夜の女王の娘と結ばれます。物語の背景には夜の女王とザラストロの対立関係があり、前者を夜、闇、陰、後者を昼、光、陽のシンボルとして解釈することもできるでしょう。モーツァルトの音楽はこういった独特の世界観を反映しています。
 交響曲第40番ト短調はモーツァルトが晩年に書いた傑作です。晩年といっても、モーツァルトは35歳で世を去っていますので、まだ32歳と若いのですが、簡潔なモチーフからこんなにも豊かな感情表現を伴う作品が生まれるとは。これはもう熟練した巨匠の技というほかありません。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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クイズ!有名作曲家のひねりすぎた名曲の音楽会

投稿日:2024年01月20日 10:30

 今週は古坂大魔王さんと川島素晴さんのコンビによる「ひねりすぎシリーズ」をクイズ形式でお届けしました。有名作曲家の意外な一面に触れることができたのではないでしょうか。
 ハイドンの交響曲第94番は「驚愕」のニックネームで知られています。このニックネーム自体がある意味ネタバレとも言えるのですが、わかっていてもやっぱりびっくりするのが第2楽章。静かでゆったりとした曲調から突然、フォルティッシモの一撃が鳴り響きます。一般的に交響曲は4つの楽章で構成され、第2楽章には遅いテンポの穏やかな曲がくるもの。そのお約束を逆手に取った趣向なんですね。ハイドンはこういった聴衆を喜ばせる趣向が大好きな作曲家でした。
 サン=サーンスの名は組曲「動物の謝肉祭」でよく知られています。少年期より神童ぶりを発揮し、19世紀フランス音楽界で主導的な役割を果たしました。音楽以外の教養もたいへんに豊かだったそうですが、「動物の謝肉祭」を聴くとやや辛辣なユーモア・センスの持ち主だったのかなという印象も受けます。オッフェンバックの「天国と地獄」を超スローモーションバージョンにして「亀」と名付けたり、「ピアニスト」と題してあえてヘタに演奏させてみたり。ちなみにサン=サーンス本人は卓越したピアニストとして知られていました。若き日のアルフレッド・コルトー(後の大巨匠)に「君の楽器は?」と尋ね、コルトーが「ピアノです」と答えたところ、「その程度でピアニストになれるの?」と返した逸話が知られています。
 フランチェスコ・フィリデイは、1973年、イタリア生まれの現代の作曲家です。「錯乱練習第1番」では風船が破裂する音にドキドキしましたね。
 ハインツ・ホリガーは1939年、スイス生まれ。オーボエ、指揮、作曲、そのすべての分野で実績を残す音楽界の巨人です。ホリガーの「Psalm(プサルム)」は息だけで表現される作品。口から漏れる摩擦音や不規則な吐息、言葉にならない音から、閉塞感や切迫感が伝わってきました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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裸足のピアニスト〜アリス=紗良・オットの音楽会

投稿日:2024年01月13日 10:30

 今週はドイツのミュンヘン出身のピアニスト、アリス=紗良・オットさんをお招きしました。ドイツと日本にルーツを持つアリスさんは、クラシック音楽界で早くから注目を集め、世界各地で意欲的な活動を展開しています。これまでに来日公演も多数行っていますので、ライブでお聴きになったことのあるかたもいらっしゃるかと思います。クラシックの老舗レーベル、ドイツ・グラモフォンの専属アーティストとして、さまざまなアルバムをリリースしてきました。
 古典から現代まで多彩なレパートリーに挑むアリスさんですが、独自の切り口を持ってプログラムを組み立てるのがアリスさんの魅力。特にアルバム「エコーズ・オブ・ライフ」にはその特徴がよくあらわれています。ショパンの「24の前奏曲」の合間にさまざまな現代曲がおりこまれているのです。これら現代曲には、今回演奏してくれたチリー・ゴンザレスのようなジャンルを超越した音楽家の作品もあれば、20世紀の前衛を代表するリゲティだったり、映画音楽の巨匠ニーノ・ロータや、日本の武満徹の作品も含まれていて、時代も地域も実に多彩。それでいて、アルバム全体がひとつの作品のように感じられるのが、おもしろいところでしょう。
 今回は、そのチリー・ゴンザレスの前奏曲とショパンの前奏曲「雨だれ」が続けて演奏されました。「雨だれ」は有名な曲ですが、先にチリー・ゴンザレスを聴くことで、また普段とはちがった新鮮な気持ちで聴くことができたのではないでしょうか。チリー・ゴンザレスの前奏曲は、バッハの平均律クラヴィーア曲集第1巻の前奏曲ハ長調に触発されています。実はショパンもバッハの平均律クラヴィーア曲集に触発されて前奏曲集を書きました。両曲にはバッハという共通項があるんですね。
 アリスさんは「雨だれ」を自然へのオマージュととらえ、「暗い雲と嵐が襲って来るけれど、嵐が去った後に現れるのは、もとの世界ではない」と語っていました。短い小品のなかにとても大きなドラマが描かれていたと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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世界で活躍するトップピアニストたちから届いた!ニューイヤーメッセージ 2024

投稿日:2024年01月06日 10:30

 今週は世界各地で活躍するトップピアニストたちからのニューイヤーメッセージを演奏とともにお届けしました。辻井伸行さんはハワイから、反田恭平さんはウィーンから、角野隼斗さんはパリから、ドイツに留学中の亀井聖矢さんは一時帰国中の日本からメッセージを寄せてくれました。さらにアイスランドのヴィキングル・オラフソンさんが来日公演の合間を縫って登場! 豪華メンバーがそろいました。
 辻井さんが演奏したのはカプースチン作曲の「8つの演奏会用エチュード」より第1曲「プレリュード」。カプースチンはジャズの語法とクラシックの形式を融合させた独自の作風で知られる作曲家です。躍動感があって、カッコよかったですよね。
 角野隼斗さんはアイルランド民謡「ダニー・ボーイ」をアップライトピアノで演奏。といっても、普通のアップライトピアノではありません。ハンマーと弦の間にフェルトをはさんで、柔らかく幻想的な音色を作り出していました。
 ヴィキングル・オラフソンさんは、世界がもっとも注目するピアニストのひとり。古典にも現代作品にも取り組み、創造的な視点から作品をとらえ直す新世代の旗手です。ワールドツアーではバッハの傑作「ゴルトベルク変奏曲」を演奏して絶賛されました。「ゴルトベルク変奏曲」は全曲で1時間をゆうに超える大曲なのですが、その最初と最後に演奏されるのが、今回の「アリア」。いわば音楽の旅の出発点でもあり終着点でもあるような曲と言えるでしょうか。簡潔ながらもバッハの魅力が凝縮されていました。
 亀井聖矢さんが演奏してくれたのはリストの「ラ・カンパネラ」。鮮やかな技巧とパッションが一体となった見事な演奏で、思わず「ブラボー!」と叫びたくなります。
 反田恭平さんが選んだのはショパンの「猫のワルツ」。ショパンといえば「小犬のワルツ」が有名ですが、「猫のワルツ」もあるんですね。なるほど、言われみれば途中の部分で鍵盤の上を猫がはしゃぎ回っているような? 楽しくて華やかなワルツでした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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題名のない音楽会の“クリスマス・パーティー!”

投稿日:2023年12月23日 10:30

 今週は音楽で楽しむクリスマス・パーティー。ゲストのみなさんにプレゼント曲を持ち寄っていただきました。どれもこの時期にぴったりの曲でしたね。
 出口大地さん指揮東京フィルが最初に演奏したのは、チャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」より「トレパーク」。クリスマスイブに起きる不思議を描いたのが「くるみ割り人形」。毎年クリスマスシーズンになると世界各地の劇場でこのバレエが上演されます。
 石丸幹二さんのプレゼント曲は、映画「美女と野獣」より「ビー アワ ゲスト(おもてなし)」。ディズニー映画には欠かせないアラン・メンケンの作曲です。石丸さんの輝かしい声が、ぐっとパーティー気分が高めてくれました。
 角野隼斗さんのプレゼント曲は久石譲作曲の「人生のメリーゴーランド」。映画「ハウルの動く城」のテーマ曲です。ピアノと鍵盤ハーモニカを同時に演奏する角野さんならではのスタイルが楽しかったですね。しかも厚みのあるオーケストラのサウンドも加わって、実にゴージャスでした。
 家入レオさんのプレゼント曲は、同じく久石譲作曲の「君をのせて」。映画「天空の城ラピュタ」の主題歌です。家入さんののびやかで透明感のある声が曲調にぴったり。やはりオーケストラが加わると壮大です。
 おしまいに演奏されたのは、アメリカ軽音楽の巨匠、ルロイ・アンダーソンの「そりすべり」でした。ルロイ・アンダーソンといえば「トランペット吹きの休日」や「シンコペイテッド・クロック」「タイプライター」など、ウィットに富んだ楽曲で知られるヒットメーカー。「そりすべり」ではスレイベルによる鈴の音、トランペットによる馬のいななき、ムチの音が使われていました。本来この曲はクリスマスを題材にした曲ではなかったのですが、多くのミュージシャンがクリスマス・アルバムに収録したことから、クリスマス名曲の仲間入りを果たしました。この時期はお店のBGMとしてもよく耳にしますよね。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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2023年を彩った名曲をふり返る音楽会

投稿日:2023年12月16日 10:30

 いよいよ今年もあとわずか。今回は「ドラマ」「アニメ」「スポーツ」「SNS」の4ジャンルで話題を呼んだ音楽を集めて一年を振り返ってみました。
 ドラマ部門から選ばれたのは、連続テレビ小説「らんまん」の主題歌、あいみょんの「愛の花」。毎朝この曲を耳にしていたという方も多いことでしょう。フルートのソロとストリングスが中心となったアレンジで、音色は透明感があって爽やか。やさしくのびやかな旋律に淡いノスタルジーが漂っていました。
 アニメ部門からはYOASOBIのAyase作詞作曲「アイドル」を。TVアニメ「【推しの子】」のオープニング主題歌として人気を博しました。これは納得の選曲でしょう。子どもたちの間でも大流行になりました。ボーカルに代わってサックスが活躍するアレンジでしたが、少し大人びたテイストも入っていて、カッコよかったですよね。
 スポーツ部門は布袋寅泰作曲の「BATTLE WITHOUT HONOR OR HUMANITY」。もともとは映画「新・仁義なき戦い。」のテーマ曲として書かれた楽曲ですが、今年はテレビ朝日系「2023 World Baseball Classic」の中継で使われて、ふたたび脚光を浴びました。古坂大魔王さんのお話にもあったように、この曲は2003年に公開されたクエンティン・タランティーノ監督の映画「キル・ビル」のメインテーマにも使われて一世を風靡しました。これから戦いが始まる場面にぴったりの緊迫感があって、スポーツシーンにもよく似合います。オルガンとドラムをフィーチャーしたアレンジは、重厚でありながらもシャープで鮮烈。原曲のエレキギターとはまた違った迫力がありました。
 おしまいは「新しい学校のリーダーズ」による「オトナブルー」。首振りダンスをまねして踊る動画投稿が大流行して、TikTokでは楽曲を使用した動画総再生回数が34億回を超えたとか。今の時代ならではの流行の形です。昭和歌謡風の曲調に応じたアコーディオンによるアレンジが、曲にぴたりとはまっていたと思います。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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フィギュアスケートの見方が変わる音楽会

投稿日:2023年12月09日 10:30

 今週はグランプリファイナルの開催に合わせて、町田樹さんをお招きしてフィギュアスケートと音楽の結びつきについて解説していただきました。町田さんは2014年世界選手権で銀メダルを獲得し、現在は國學院大學の助教としてフィギュアスケートをはじめとするスポーツ文化を研究しています。
 町田さんいわく、音楽に込められた思想や感情も表現するのがフィギュアスケート。フィギュアスケートは音楽を表現するアートフォームのひとつだと断言します。おもしろかったのは、フィギュアスケーターのリンク上の動きを記した舞踊譜「フィギュア・ノーテーション」。こういう記譜法があったんですね。想像よりもずっと細かなところまで記されていることに驚きました。過去の名演技と音楽の関係についての町田さんの解説を聞くと、そこまで選手たちは突きつめた表現をしていたのかと、目から鱗が落ちた思いがします。
 本来、フィギュアスケートでは録音された音楽に合わせて選手が演技をするわけですが、当番組では演技の録画に合わせて音楽家たちが演奏するという試みを行っています。今回はピアニストの小井土文哉さん、ヴァイオリニストの辻彩奈さんが見事な演奏を披露してくれました。ふつうであれば、音楽家は自分なりのテンポや表現で楽曲を演奏しますので、既存の映像に合わせて曲を演奏することはあまりありません。それでも、おふたりとも選手たちの演技を汲んだうえで、映像にふさわしい情感豊かな演奏をしてくれたように感じました。
 町田さんのお話に出てきた「二段階選曲論」も興味深かったですね。演技曲を選ぶ際、まずはどの作品にするか、次にだれの演奏を選ぶかを二段階で考えるというのですが、これは音楽ファンにとってのクラシックの楽しみ方と同じでしょう。まずは曲の魅力を知るところから始まって、次に演奏による違いに関心が向くというプロセスとそっくりだと思いました。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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未来への扉!ニュースターの音楽会2023

投稿日:2023年12月02日 10:30

 今週は期待の若手音楽家をいち早くご紹介する新シリーズ企画「未来への扉!ニュースターの音楽会2023」をお届けしました。シリーズ第1弾は指揮者の出口大地さん。2021年にハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門で優勝して一躍脚光を浴び、以来、各地のオーケストラに客演して好評を博しています。
 国際コンクールで優勝したこともさることながら、出口さんの場合は優勝後に東京フィルの定期公演に大抜擢されたことで、ぐっと注目度が高まったように思います。なにしろオーケストラにとって定期公演はもっとも重要な演奏会。東京フィルの定期公演のラインナップを見ると、実績豊富な世界的指揮者の名前がずらりと並んでいます。そんなラインナップのなかに出口大地さんの名前が入ったのですから、どれほどオーケストラから期待されているかわかろうというもの。
 出口さんは東京フィルのデビューにあたって、全曲ハチャトゥリアンの作品を並べたプログラムを用意しました。日本でそのようなプログラムを聴く機会はほとんどありません。人とは違ったプログラムで勝負したことも、出口さんへの関心を高めることにつながったことでしょう。東京フィルは若きマエストロを盛り立てようと熱演し、演奏会は大成功に終わりました。今回はその出口&東フィルコンビが番組に登場して、相性のよいところを披露してくれました。
 出口さんは左手に指揮棒を持つ点でも異彩を放っています。客席から見ても「あれ?なにかヘンだな」と感じるのでは。左手に指揮棒を持つ指揮者はかなりの少数派。世界を見渡してもパーヴォ・ベルグルンドとドナルド・ラニクルズくらいしか思いつきません。
 ハチャトゥリアンのエネルギッシュな「剣の舞」、暗い予感にあふれた「仮面舞踏会」のワルツ、どちらも情熱的で見事な演奏でした。おしまいはブラームスの交響曲第2番。これほど壮麗なフィナーレもありません。爽快でした。

飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

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