福島・飯舘村
~夫婦の夢 ふるさと味わう宿~
舞台は福島県飯舘村。亡き夫との夢を叶え、大切な故郷の魅力を伝える農家民宿を開いた渡邊とみ子さん(71歳)が主人公。
福島市出身のとみ子さん。高校卒業後は三重県にある縫製会社に就職。19歳のとき、お見合いをしたのが東京で大工をしていた飯舘村出身の福男さんでした。恋に落ちたとみ子さんは、21歳で3つ年上の福男さんと結婚。福男さんの実家で、洋裁の仕事をしながら新生活をスタートします。長男も生まれ、飯舘村の暮らしに馴染んでいきました。50代になった頃、村では特産品となる「カボチャ」を開発するプロジェクトが立ちあがります。メンバーに抜擢された、とみ子さん。責任感の強いとみ子さんは、プロジェクトの中心となって邁進しますが、慣れない作業で壁にぶつかることもしばしば。それを支えてくれたのが夫の福男さんでした。2人は活動を進めるうちに夢が膨らみ、「特産品のカボチャを楽しめる農家民宿を開いて、故郷・飯舘村の良さをみんなに伝えよう!」と同じ夢に向かって歩み始めます。そして2011年、ついに特産品のカボチャ「いいたて雪っ娘」が完成。「さあ、いよいよ」…という時、東日本大震災が発生したのです。原発事故で村は避難区域になり、2人も福島市内に身を寄せました。さらに福男さんにがんが見つかり「先の見えない避難生活と夫の病」でとみ子さんは心が折れそうになります。しかし福男さんは病と闘う一方で、避難先でも新たな畑を見つけるなど率先して作業。とみ子さんが「いいたて雪っ娘」を作り続けられるよう、力を注いでくれました。2017年、飯舘村の避難指示が解除されると、福男さんは夢の宿づくりのため、避難先から毎日、村に通いました。そしてとみ子さんも村での「カボチャ作り」を再開。ところが翌年、福男さんの容体が急変。まだ工事の途中でしたが、真新しい客室に2人で一晩を過ごし、福男さんは夢半ばで旅立ちました。その後、とみ子さんは、福男さんの母・ハツヨさんの介護の傍ら、宿を開くための準備をコツコツと進めます。こうして去年6月、とみ子さんは夫婦の夢をついに叶え、『古今呂(こころ)の宿 福とみ』をオープンしたのです。
「できない理由を見つけるのではなく、やるための方法を考える」。夫・福男さんが伝えてくれたことを胸に、しっかりと前を向き頑張る、とみ子さん。その姿は今、故郷・飯舘村の大きな力になっています。「雪っ娘カボチャ」づくりに宿の切り盛りと、日々走り続けるとみ子さんの暮らしぶり、そして仲間たちとの交流を紹介します。
故郷の古き良きものや今、身近にある田舎に帰ってきたような宿にしたいという思いが込められた屋号『古今呂の宿 福とみ』。最愛の夫・福男さんとの夢でもあった「愛する故郷の魅力を伝える宿」は去年オープンし、ついに念願が叶ったのです。亡き福男さんは「木の温もりが感じられるように」と客室を全面板張りで仕上げました。そんな宿では飯舘村特産のカボチャ「いいたて雪っ娘」の料理が楽しめます。皮が雪のように白いことから名付けられたカボチャ。果肉は、色鮮やかでギュギュっと肉厚なので煮崩れしないのが自慢です!とみ子さん曰く「糖度も高く、ポクポク感がありながらしっとり感もある」カボチャだそうです。
『古今呂の宿 福とみ』にお客様がやってきました。避難当時に知り合ったボランティアグループの皆さんで、すでに何度か泊まりに来てくれています。この日は「いいたて雪っ娘」の収穫日。宿のお客様にも体験してもらい、カボチャ作りの楽しさを分かち合います。夕食では「雪っ娘」入りのエビチリや飯舘村の郷土料理「凍み餅」など、とみ子さんの手作り料理が10品以上並びました!来てくれた方に「実家に帰ってきたような気持ちになってほしい」という思いから「福とみ」では宿のスタッフも一緒に食卓を囲みます。飯舘村のあったかい家族。ここはもう、みんなの故郷ですね。
この日は宿から車で15分ほどの山あいへ。とみ子さんにとって特別な場所です。ここは、夫の福男さんが見つけた絶景ポイントで、2人でよく話をした場所。ここに来ると、かつて福男さんがかけてくれた「お前はこの間、良くやって来た。誰が何と言おうと側にいる俺がそう言うのだからそれで良いだろう!」という言葉を思い出します。大変だった時、この言葉に救われたというとみ子さん。福男さんは今も、とみ子さんの背中を優しく押してくれています。
建材業者の長澤さんがやってきました。福男さんが信頼し、この宿をはじめ材木をいつも頼んでいました。30年ほど前から福男さんを兄のように慕ってきた長澤さんですが、実はとみ子さんに秘密にしてきた「思い出」があるとのこと。それは、亡くなる前、福男さんから「ちょっと見せたいものがある」と言われ、見せてもらったとみ子さんの「お見合い写真」でした。福男さんは当時から45年も大切にしていたんです。夫・福男さんが伝えてくれたことを胸にしっかりと前を向き、頑張るとみ子さんです。これからも生涯現役で走り続けてください!

古今呂の宿 福とみ
とみ子さんが営む農家民宿です。
詳細はHPをご確認ください。
基本宿泊料金(朝・夕食付き)1人 7,700円~
※宿泊は1日1組限定

いいたて村の道の駅 までい館
「いいたて雪っ娘」を使用したマドレーヌやジェラートを購入することができます。
営業時間:3月~10月 午前9時30分~午後6時
11月〜2月 午前9時30分~午後5時
定休日:毎週水曜
電話:0244-42-1080
いいたて雪っ娘マドレーヌ(6個入り) 702円
かぼちゃ畑の完熟ジェラート 486円



