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2025年9月20日長月の参

長野・松本市奈川
~思い出の製材所 姉妹の薪窯パン~

今回の舞台は長野県松本市奈川。林業が盛んだったこの町にかつてあった、製材所。時代の流れと共に廃業しましたが、敷地には大量の材木が残されました。主人公の向井亜紀子さん(57歳)と、妹の圭子さん(55歳)は、父親が残した製材所の材木を燃料として再活用し薪窯のパン店をオープン。商店がない山の中で、地域の人々が集う場所として人気となっています。
向井家の次女、三女として生まれ育った亜紀子さんと圭子さん。父・清さんは故郷奈川の地で製材所を立ち上げ、母と共に切り盛りしていました。姉妹が子どもの頃は、大勢の従業員がいて賑やかだったといいます。しかし、職人の高齢化や林業をとりまく環境が変化し、製材業は衰退。それを補うため、清さんは建設業や不動産業を始めました。そんな中、圭子さんは調理師として独立、亜紀子さんが父の右腕として働くように。スキーブームの時代にはペンションも始めた清さん。亜紀子さんと圭子さんが手伝うことになり、この時に自家製パンが誕生しました。のちに亜紀子さんが結婚すると、夫が製材所や不動産などの家業を継ぐこととなります。しかしその後、父・清さんが病に倒れ、帰らぬ人に。2015年には製材所を廃業することになりました。姉妹は「残された材木をどうしようか…」と思い悩みます。そこで亜紀子さんが思いついたのが、材木を燃料にし石窯でパンを焼くことでした。「材木は建築用材にはなれなかったが、代わりに食べ物の命を生み出せるのであれば、父もきっと許してくれる」と。そして、かつて両親と暮らしていた家の台所を改装。納戸に石窯を手作りし、玄関を販売スペースに。こうして2021年に『製材所のパン屋』をオープンしました。亜紀子さんは薪窯でのパン焼きを、圭子さんはパンの開発や仕込みを担当しています。
湖を目前に望み、自然豊かな高原に佇む『製材所のパン屋』。営業日には50種類ほどのパンが店頭に並びます。信州名産のりんごや、季節の野菜、エゴマなどを使う創作パンは、圭子さんの自信作。スーパーへ行くにも車で30分以上かかるというこの地にパン屋さんが誕生したと、地元の人たちも大喜びです。営業日は多くのお客さんで賑わう店内。父・清さんを知る地域の皆さんも口をそろえて「きっと喜んでくれている」とおっしゃいます。そんな、あたたかな空気に包まれた『製材所のパン屋』は、着実に地域の憩いの場となりつつあります。

『製材所のパン屋』商品開発担当の圭子さんは、食べた人が「面白い!」と驚くようなパンを作りたいと考えています。例えば、長野特産のエゴマをすって小豆と合わせたあんこが入っている「エゴマあんぱん」。そして中にどっさりと3種類のチーズが入った「チーズフランス」は、割ったとき思わず感嘆の声が上がるほど具がたっぷり!さらに、マヨネーズとコショウで味付けしたスルメが入った「スルメプチ」などのユニークなパンも。他にスイーツも充実していて、地元で栽培されるそば粉を使ったお菓子「さな粉のかるかん」も密かな人気です。自然豊かな山の中にあるお店にもかかわらず、たくさんの種類から自分のお気に入りを選ぶ楽しさが味わえる、これもまた、『製材所のパン屋』の魅力の一つなんです。

この日、亜紀子さんと圭子さんは近所の「さとおばちゃん」こと、奥原さと江さんのお宅を訪ねました。さと江さんは50年ほど前から長年製材所で働いた経歴があり、現在なんと御年100歳。向井姉妹が子どもの頃から、その成長をずっと見守ってこられた方です。「製材所でパン屋を始める」と聞いたときは「こんなところでどうやってするんだろう?」と心配していたそうですが、今ではすっかり『製材所のパン屋』の大ファン。お店にもよく買いに来てくれるそう。さらに、さと江さんはいつも、息子さん夫婦と育てている家庭菜園の野菜をおすそ分けしてくれます。この野菜は亜希子さんと圭子さんが焼くパンの材料として欠かせないそうで、この日はカゴいっぱいのピーマンやトウモロコシを分けていただきました。

向井家は、かつて姉妹が働いたペンションの建物に暮らしています。夕飯は、調理師でもある妹・圭子さんが担当。ナスがたっぷりのったピザやホクホクのコロッケ、茹でたてのトウモロコシなど様々な料理が食卓に並びます。4年前、故郷に戻った亜紀子さんの長男・智さんは、パン屋さんの仕事を通じてこの地の見え方が変わったそう。「ここは不便な場所で、魅力といえば空気がきれいなことくらいだと思っていたけれど、今は奈川には本当にさまざまな良さがあって、改めて“こういう場所だったんだ”と実感できた」と話します。今では地域の伝統芸能の保存活動などにも積極的に参加しているそうで、息子のこんな変化も、うれしくてたまらない亜紀子さんです。

実は最近、しばらくお休みしてリニューアルをした『製材所のパン屋』。長年の間に生い茂ってしまった木々を伐採して、湖がきれいに見渡せるレイクビュー席を作ったんです。時間帯によって表情を変える空や山々が湖面に映り、気持ちの良い風が吹き抜ける特等席!店内ではドリンクの販売を開始し、お客様はこの絶景を眺めながら購入したパンやドリンクを楽しむことができるようになりました。
オープンして4年が経ち、改めて「昔の人たちの色んな思いや、この素晴らしい景色を守っていきたい」という気持ちがより強くなった亜希子さんと圭子さん。
これからも奈川の地で、みんなを笑顔にする美味しいパンを焼き続けてくださいね。
きっと、亡き父・清さんが家族を見守ってくれています。

楽園通信

製材所のパン屋

亜紀子さんと圭子さんが営む週末のみ営業のパン店。薪窯で焼き上げた、様々な種類のパンを楽しむことができます。商品が無くなり次第終了ですので、ご注意ください!

営業日 金・土・日曜
午前9時30分~午後6時
※お問い合わせはHPより