長崎・長崎市外海(そとめ)地区
~家族の絆 海辺のパン屋さん~

今回の舞台は長崎市外海(そとめ)地区。『そとめベーカリー』を営む中野朋子さん(54歳)と夫の照巳さん(59歳)が主人公です。
埼玉県上尾市で生まれ育った朋子さん。高校卒業後は、家業の精密機器製造会社で働いていました。広告制作会社に勤めていた照巳さんとは知人を通じて知り合い、29歳で結婚。地元の埼玉県浦和市(当時)で新生活を始め、この頃、朋子さんは趣味でパン作りをスタートします。38歳で長女・英美さんが生まれ、幸せな日々を送っていましたが、夫の照巳さんが50歳のとき、潰瘍性大腸炎を患ってしまいます。体調は日々悪化し、仕事にも支障をきたすほどに。そこで、朋子さんは家計を助けようと猛勉強し、45歳で社会福祉士の資格を取得。紹介された沖縄の福祉施設に就職するため、家族で沖縄に移住しました。照巳さんは会社を辞め、家事や育児を助けます。しかし、朋子さんの負担は想像以上に大きく、心身ともに疲れ果てていきました。当時、ドライブをすると音楽を聴きながら泣き出すこともあり、照巳さんと英美さんは心配していたといいます。そんな朋子さんの心を癒してくれたのがパン作りでした。自家製パンを家族が喜んで食べてくれるのが嬉しく、パンを焼くことで自分も癒されていたのです。そんな時、朋子さんは知人から「長崎に来ないか」と誘われ、訪ねてみることに。教会の鐘の音や遠くの海に浮かぶ島々、そして美しい夕陽に心が洗われていきました。そして、“家族みんなが幸せになれる方法”を考えた結果、朋子さんは「ここでパン屋を開こう!」と決意。照巳さんに背中を押され、朋子さんは沖縄の福祉施設を退職、2018年に家族で長崎に移住しました。空き家を購入し、一階部分をお店に改装。2022年に夫婦で『そとめベーカリー』をオープンしたのです。
潮風と波の音が心地よい海辺の町にある『そとめベーカリー』。営業日は開店と同時に、焼き立てのパンを求め多くのお客様が訪れます。朋子さんと照巳さんは、お客様が「どのパンを買おうかな?」と楽しそうに悩む姿を見るのが幸せだといいます。15歳の長女・英美さんも接客のお手伝いをし「家族みんなが健康的な生活ができて嬉しい」と笑顔がこぼれます。『そとめベーカリー』を開業し、家族の絆を深めた中野さん一家の暮らしぶり、地域の方々との交流、そして家族思いの英美さんが迎えた中学校卒業式の様子を紹介します。



常に20種類以上のパンが店頭に並ぶ『そとめベーカリー』。常連客・濵口さんの庭で採れたキンカンを丸ごと入れた『金柑カンパーニュ』や、地元の中学校が栽培から販売までを手掛ける「外海中茶」を混ぜ込んだ「あんこ食パン」など、外海地区の食材も使ったパンも大人気です。営業日はいつも、老若男女さまざまなお客様でお店は大賑わい。地元の皆さんは「こんなに美味しいパン屋さんがここにできるなんて!」と嬉しそうです。これからも美味しいパンで、たくさんの幸せを生み出していってくださいね。



この日、家族で向かったのは、長崎駅前の広場。長崎市が主催するマルシェに参加します。今日は特別に、長女・英美さんの中学の友人である樹音さんもお手伝い。店頭には、金柑カンパーニュやあんこ食パンをはじめ、様々なパンが揃いました。マルシェがスタートすると早速、「パンいかがですか」と売り込む英美さんと樹音さん。『そとめベーカリー』は大盛況で、朋子さんと照巳さんも思わずにっこり。170個ほど用意したパンは全部、売り切れました。



夕食の買い出しに出かけた朋子さん。向かっているのは、お店の目の前の港です。手に持っているのは、大きなお皿。お目当ては、外海の豊かな海の幸です。実はこちらの直売店では、新鮮な魚を目の前で捌いて、マイバッグならぬ「マイお皿」で刺し盛りを作ってくれるんです。今宵は、英美さんの卒業祝い。伊勢海老やシマアジなどの豪華な刺し盛りが完成しました。家に戻ると家族3人で手巻き寿司パーティーがスタート。外海地区でしか味わえない海の幸に舌鼓を打ち、笑顔あふれる夕食となりました。



長女・英美さんが通う外海中学校。今日はいよいよ卒業式です。全校生徒は26人、そのうち3年生は、英美さんを含め8人。生徒会長を務める英美さんは、代表で答辞を読みます。こちらの中学校では、「答辞は長文が伝統」だそう。英美さん、およそ9分かけて読み上げます。同級生一人ひとりへの思い、そして家族への感謝の言葉。会場が涙で包まれます。心温まる、良い卒業式となりました。




そとめベーカリー
朋子さんと照巳さんが営むパン屋さん『そとめベーカリー』。しっとりモチモチ食感が美味しい、様々な種類のパンを楽しむことができます。
営業時間 午前10時~午後6時
定休日 火・水・木曜日
※問い合わせはSNSより