長野・佐久市
~故郷の宝 はたおり宿~

江戸時代から続く呉服店を廃業し、佐久市の各家庭で受け継がれてきた「うち織り」を残したいと、宿を始めた岩崎泰治さん(66歳)が主人公です。
長い歴史がある『岩崎呉服店』の末っ子として生まれた泰治さん。子どもの頃から着物に親しんで育ち、千葉の大学を卒業後、後継ぎとして佐久市に戻りました。そして、泰治さんが40歳を過ぎた頃、『岩崎呉服店』に糸を買いに来ていたおばあさんが亡くなり、自宅にある機織り機を処分すると聞いた泰治さん。「処分するのはもったいない!是非、引き取らせてほしい」と申し入れました。
明治時代から昭和のはじめ頃にかけて、養蚕業が盛んだった佐久市。農家のお母さんたちは、売り物にならない繭から糸を紡ぎ、家族の為に機織り機で着物を織っていました。それぞれの家庭で織るから「うち織り」。そう呼ばれていた機織りは、高い技術力や着物の美しさが評判となっていきました。
呉服店を営んでいた泰治さんは「うち織りの着物は、売り物にはならないが、受け継がれてきた技術力や歴史的な価値はすごい。この機織りを残していかなければ」と思うようになりました。60歳を過ぎ、「岩崎呉服店」を廃業した泰治さん。第二の人生は「うち織り」を残す活動をしてきたいと、2022年に機織り体験ができる『伝統文化体験の宿 つたや』をオープンしました。宿では、機織り体験だけではなく、先人たちの暮らしに思いをはせながら、薪割りやかまどご飯、藍染め、囲炉裏を囲んで食べるジビエ鍋や川魚など、昔ながらの生活を体験することができます。
呉服店の主から宿の主に転身した泰治さん。宿を手伝ってくれている明るい仲間と共に、「うち織り」を残していく活動を紹介します。



この日のお客様は、「昔ながらの暮らしを体験してみたい」と、群馬県からやってきた仲良しグループ。初体験の機織りでは、古い機織り機に興味津々。苦戦しつつも「楽しい」と思わず笑顔が。お待ちかねの夕食では、囲炉裏を囲んでジビエ鍋や、川魚を囲炉裏で燻した「焼き枯らしのお茶漬け」などを頂き、お腹いっぱいになりました。「機織りを実際に体験できたのが良かった、もっといろんな色で織ってみたい」と、お客様からの嬉しいお言葉も。泰治さんの「うち織りを残していきたい」という想い、ちゃんと伝わってます。



宿の経営は、心強い仲間がいつも助けてくれています。この日は、明るく元気な仲間と一緒に、宿の料理にも使う味噌づくりです。「なんかほっとけない!」「泰治さんの人柄が良いのよ!」そんな仲間からの言葉に泰治さん、ちょっと照れ臭そう。たっぷり仕込んだ1年分のお味噌は、土間でしっかりと寝かせます。半年後の完成が楽しみです。



この日、泰治さんが向かったのは、機織り機を引き取って欲しいという依頼があったお宅です。佐久市で生まれ育った鈴木和子さん、94歳。和子さんのお母さんは、機織りが上手で、普段着からハレの日の着物まで、機織り機でたくさん織ってくれたそうです。
母親との思い出が詰まった機織り機を見送る和子さん、「この機織り機も世に出てよかったと喜んでるわ。“ありがとよ”って言ってるのが聞こえる。」と嬉しそうです。泰治さん、大切に使っていきましょうね。



機織り機で、草花と願い事を織り込んで作る、とってもかわいらしい「花筏」。この日は、家族ぐるみのお付き合いをしている鈴木さんと春木さん両親子と一緒に、「花筏」を川に流しました。「佐久のおばあちゃんたちの“うち織りの技術”を後世へ残していきたい」そんな願い事を「花筏」に込めた泰治さん。これからも心強いお仲間と一緒に、故郷・佐久市を盛り立てていきましょうね!




伝統文化体験の宿 つたや
泰治さんが営む宿。機織りをはじめとした、昔ながらの生活を体験することができます。
1日1組限定(※土曜泊のみ)
2~6人まで利用可
HPより問い合わせをお願いします。