
滋賀・日野町
~心をつなぐ 金継ぎ工房~

滋賀県日野町で築240年の古民家に暮らし、金継ぎ工房を始めた川村のり子さん(57歳)と、支える夫・トム ヴィンセントさん(55歳)が主人公です。
のり子さんは東京都出身。美大を卒業し、店舗のディスプレイデザインや美術雑誌のライターなどの仕事をしていました。一方、イギリス出身のトムさんはロンドンの美大で学び、その後アメリカに留学。28歳の時に日本へ移住し、自治体などのPRを手掛けるクリエイティブディレクターとして働いていました。そんな2人は仕事をきっかけに知り合い結婚。再婚同士の2人は愛知県豊田市で暮らしていましたが、新しい生活の場として「歴史と文化のある町の古民家で暮らしたい」と考えるようになります。そして、移住先として偶然見つけたのが日野町の古民家。そこは、かつて造り酒屋をしていた近江日野商人の本宅でした。2人はこの古民家を一目で気に入り購入、2017年日野町に移住しました。
移住後、のり子さんは趣味だった金継ぎを本格的に学びたいと、京都の金継ぎ教室に1年間通いました。その後、友人や知人から「金継ぎを是非教えて欲しい」という声が多く寄せられ、2019年自宅離れを改装し『藤村本家 漆・金継ぎ工房』を開きます。『藤村本家』とは、近江日野商人だった前住人の屋号。特別に許可をもらい工房名にしました。工房では金継ぎ教室の他、修復の依頼も受けています。
「金継ぎ」は割れたり欠けたりした器などを漆で修復し、金粉で装飾する日本古来の技法です。のり子さんは「金継ぎは“金”が目立つが、本来“継ぐ”ことが本筋。後の人にモノを繫いでいくことが大切」と語ります。
歴史深き日野町の古民家に暮らし、日本古来の金継ぎを始めたのり子さんと支える夫・トムさんの日常。そして、町おこしに取り組む仲間たちとの交流を紹介します。



のり子さんとトムさんが一目惚れした、近江日野商人の本宅だった古民家。玄関から土間続きの台所には井戸や釜戸が残るなど、かつての暮らしぶりが垣間見えます。また、座敷は中庭を囲むように設けられ、まるで旅館のようです。「部屋数はわからない、前に数えたけど忘れた(笑)」とトムさん。この大きな古民家で、現在は次男・直二朗さんと3人で暮らしています。



金継ぎは器などの破損状態によって修復の仕方が変わります。割れた破片は、米の粉と漆を混ぜた「のり漆」などで接着。破片が無い場合は、漆に土を混ぜた「錆漆(さびうるし)」で成形します。その後、漆を数回塗り金粉を蒔き、漆でコーティングして完成です。工程ごとの乾燥時間も含めると、およそ2ヶ月から3カ月かかります。金継ぎ教室の生徒さんは「壊れたモノを金継ぎすると、以前よりもっと好きになる」と話していました。



一仕事終え、のり子さんが向かったのは近所の酒屋さん。お目当ては地元ブランドのクラフトビールです。トムさんと酒屋の6代目・田中さん、醸造家のショーンさんが地元の祭りで意気投合。「祭りに合うビールを作ろう!」と立ち上げたクラフトビール工房です。目印はラベルの“ヒノシシ”。実は日野の神社に伝わる神の使いがイノシシなので、それをモチーフにしたのだそうです。日野町を愛する男3人の熱い思いが込められたビールです!



金継ぎの依頼品の中には、ちょっと変わったモノもあります。この日修復していたのは、なんと招き猫!のり子さんが東京で暮らしていたときに通っていた飲み屋さんの招き猫で、欠けた右足と左耳の修復を頼まれたのです。耳に金粉を蒔き磨くと、招き猫が少し微笑んでいるように見えました!「店に帰って、また沢山のお客さんを見守るんだよ」と、のり子さんとトムさんも笑顔でした。



HINO BREWING
トムさんと仲間が立ち上げたクラフトビール工房です。
各種クラフトビールは酢屋忠本店とインターネットで購入できます。
詳しくは「HINO BREWING」のホームページをご覧ください。
量り売り(500ml) 800円~
瓶ビール(330ml) 1本 600円~
※量り売りは酢屋忠本店で金曜と土曜日、正午~午後8時



藤村本家 漆・金継ぎ工房
のり子さんが営んでいる金継ぎ工房です。
金継ぎ教室の他、陶磁器、ガラス、木製品などの修理依頼も受け付けています。
詳しくは「藤村本家 漆・金継ぎ工房」のホームページをご覧ください。
不定休
※金継ぎのオンライン教室も開催中