
茨城・牛久市
~みんなが集う ママの古民家~

舞台は茨城県牛久市。巨大な立ち姿の牛久大仏が見守る自然豊かな集落に、去年の秋、地元の人々が集う憩いの場が出来ました。明治時代に建てられたと伝わる立派な古民家を改装した店でお客さんが食べているのは…うどん。主人公の片山文子さん(59歳)が始めたのは、そうめんのように細い長崎県・五島列島の郷土料理「五島うどん」の店です。現地の郷土玩具「ばらもん凧」から、店名を「バラモン太」と名付けました。古民家の前の広い庭にはドッグランも作り、犬たちが元気に走り回ります。
水戸市出身の文子さんは27歳で結婚、2人の娘が誕生しました。36歳の時に離婚し、シングルマザーに。製薬会社の販売促進の仕事をしながら清掃などのアルバイトを掛け持ちし、がむしゃらに働いた文子さん。家計が苦しい中、何とか長女を大学に進学させたものの、学費が払いきれなくなってしまいました。そこで昼間の仕事を続け、夜間に居酒屋を始めることに。明け方まで働き続ける日々が何年も続きましたが、なんとか娘2人を社会人として送り出しました。「これからは自分のためだけに最低限の生活費を稼ぎ、自分がしたいことをしよう!」と考え始めた文子さん。娘たちが飼い始めた2匹の犬たちに愛情を注ぐうち、ドッグランを作る夢を抱き、広い土地付きの古民家を見つけます。実は、庭をドッグランに整地した建設会社の社長・仁田さんが五島列島の出身。「故郷の五島うどんは美味しいよ」と教えてくれ、文子さんは古民家で五島うどんの店を始めることに。長年空き家だった家は荒れていましたが、自らの手で修繕し半年がかりで蘇らせました。そして去年11月、ドッグランと五島うどんの店『バラモン太』をオープンしたんです。
本場・五島列島から取り寄せる五島うどんは、椿油でのばしたコシのある細麺で
ツルツルしたのど越しが特徴。最もポピュラーな「地獄炊き」はうどんをアツアツの釜茹でで提供し、あごだしで作るつゆに生卵をからめて食べます。また、文子さん特製のチャーシューをドーンと乗せた「肉うどん」も看板メニューです。
店には様々な経歴を持ったご近所さんやパートさんが集まり、日々文子さんと心を通わせています。また娘たちも「これまでの恩返し」と文子さんを支えます。苦労を重ねながらも、明るく懸命に働いてきた文子さん。今ようやく、自分自身が輝ける場所を見つけました。これからもこの場所で、輝き続けて下さいね!



元々は農家の母屋だったという『バラモン太』の建物。購入した当初は壁や床もホコリにまみれ、障子もボロボロだったそう。文子さんは朽ちた畳を片付けて床板を敷き、砂壁を剥がして漆喰を塗りました。天井は娘たちと一緒に磨きあげ、柿渋を塗り込むと見事に蘇りました。こうして半年かけて風情ある古民家として生まれ変わった『バラモン太』。この静かで落ち着いた空間で味わう「五島うどん」がまた良いと評判です。
特製つゆや麺の茹で方などは、文子さんが本場・長崎出身の方から教わったもの。店の命のうどんつゆは、「あご(乾燥トビウオ)」を一晩水につけてとった出汁に醬油やみりんで味を整えます。さらに一手間かける工程があるのですが…「ここからはヒミツ」と文子さん。完成した秘伝のつゆは、あっさりして風味豊かな味わいが好評です。また、文子さんの得意料理、豚ロースで作るジューシーなチャーシューをたっぷりトッピングした「肉うどん」もボリューム満点で大人気。おにぎりがかなり大ぶりだったり、付け合わせの惣菜の種類がついつい増えてしまったりと、料理には文子さんの愛情が詰まっています。



これまでシングルマザーとして頑張り、長女・暉さんと次女・央子さんを育て上げた文子さん。働きづめで大変だった時期を経て、娘たちはそれぞれ社会人として巣立ち、活躍しています。忙しい週末には、母・文子さんの店に立ち手伝ってくれるお2人。自分たちの休日を返上しての、助っ人です。「ママの手伝いをするのが生活の一部!」と言う自慢の娘たちです。家族を支えるために、がむしゃらに働いてきた文子さんの背中をずっと見てきた暉さんと央子さん。幼いころは気づかなかったことが、大人になると段々見えてきたといいます。「こんな大変なことを今までこの人は一人でやってたんだ、すごく頑張ったんだなって。今はキラキラしていて、ママが喜んでいるのが私の一番の幸せ」と語る暉さん。いつの間にか大人になり、立派に成長した娘たちの言葉に、涙があふれる文子さんです。大変だった時代も今も、家族の存在が心の支えです。ドッグランを開くきっかけをくれたのも、娘たちが飼い始めたワンちゃん・トク子ときく子の存在。互いに支えあいながら、3人+2匹の楽しい日々です!



明るい文子さんに魅かれ、『バラモン太』には個性豊かな仲間が集います。毎日うどんを注文してくれるのがお隣の警備会社の皆さん。同じ頃に起業し、こちらも同じく五島列島の凧から『ばらもん警備保障』と名付けたそうです。社長の小野寺隆秋さんをはじめ警備会社で働く皆さんは、文子さんが古民家を改装して店を開くまでをずっと温かく見守ってくれました。事務担当の宗田亜子さんはスイーツ作りの名人。店の新作メニューのアイデアや試作にも力を貸してくれます。ランチの忙しい時間には、地域の女性たちがパートとして手伝ってくれます。宮内有希子さんの実家は農家で、よく野菜の差し入れをいただきます。そのおかげでセットにつくおかずのメニューが増える日も。他にも中根博美さん、田舎暮らしがしたいと牛久市に移住した“藤井ちゃん”こと、藤井美智子さんもパートさん。藤井ちゃんは時々お客さんにもなり、地元の活性化に励んでいる仲間たちが一緒に来店します。そんな方々とすっかり仲良くなった文子さん。皆さんとの交流が今楽しくてしょうがないんです。



休日、文子さんはいつも店に来てくれる仲間たちの元を訪ねます。まずやってきたのは地元に昔沢山あった「ヤマユリ」の保存活動をしている桜井さん。森を整備し沢山のヤマユリを植えました。良く見るとぽつぽつと蕾がつき、文子さんも感動。ヤマユリは8月に開花予定、可憐な花を見るのもまた楽しみですね!続いては長沼さんの営むりんご園に。余分な実を採る摘果の作業を初めて見た文子さん、思わず「もったいない!」。またブルーベリー狩りも人生初という文子さん、「こんなに大きいの!甘いの!?」と興奮しながら味わいました。最後に訪ねたのは、藤井ちゃんが仲間と暮らすシェアハウス!藤井さんの友人、大工の郡司さんが古い呉服店を改装して、地元の活性化に携わる5人の仲間が住んでいます。20代から70代の5人が暮らし、台所やダイニングルームは共有、個室は、それぞれの個性が出ていてユニークです。また、卓球女子の藤井ちゃんは最近、ここにみんなが楽しめる卓球場を作りました。実は文子さん、卓球体験も初めて!「楽しい!今が青春です」と大はしゃぎ。これまで働き詰めの人生でしたが、まもなく60代を迎えるこれからは、初めてがいっぱい。どうか青春を謳歌してくださいね!



牛久大仏
地元の人々に愛されている大仏様は、全長120m、1995年のギネス世界記録にも登録されています。大仏様の胎内には写経などの展示があり、最上階では牛久市内を一望できます。また、季節ごとに彩る庭と園内のきれいな景色も楽しめます。
電話 029-889-2931
拝観時間 平日 午前9時30分~午後5時
土・日 午前9時30分~午後5時30分
(*10月~2月は午前9時30分~午後4時30分)
拝観料(大仏胎内を含む全ての拝観・セット料金) 大人(中学生以上)800円
子ども(4歳~小学生)400円
(庭園のみの拝観) 大人500円
子ども300円



バラモン太
長崎・五島列島の郷土料理「五島うどん」の店。
文子さんが一人で営んでいるため、ドッグラン利用料も含めすべて券売機でのチケット制です。店内はお水やお茶など、お客様のセルフサービスでお願いします。忙しい時にはお待たせすることもありますので、ご了承下さい。
古民家の前の庭にはワンちゃんたちが自由に遊べる広いドッグランが併設されています。愛犬と共にゆったりした時間をどうぞ!
営業時間 午前11時~午後4時
定休日 木曜
五島うどん 700円、 地獄炊き 900円、肉うどん 800円
ドッグラン 1匹 300円、2匹 500円