
東京・あきる野市
~縁つなぐ ゆっくり農園~

舞台は、自然が豊かでのどかな空気が流れる東京都あきる野市。4年前、この町で自然栽培での野菜作りを始めた石川敏之さん(64歳)が主人公です。江戸東京野菜を始め、全国の伝統野菜、そして最近では海外の品種も栽培しています。農薬や肥料を使わない栽培法のため雑草も目立つ畑ですが、入口にある『ゆっくり農縁』と書かれた看板が目印です。そんな敏之さんが目指しているのは“半農半X”の暮らし。自給を目的とした野菜作りが半分と、得意なことや個性を活かした仕事をするのが半分、そんな生活を理想としています。
神奈川県川崎市出身の敏之さん。若い頃から食品や環境問題に興味があり、大学卒業後は団体職員となり食料品販売の仕事に就きました。転機が訪れたのは50代の頃。ブータンなど海外の旅で、自然と共に生きる人たちに出会った敏之さんは、「食べ物」に強い関心を持つように。また、食べ物にまつわるドキュメンタリー映画で「江戸東京野菜」を知った敏之さん。東京にも伝統野菜が残っていて、日本全国にはそうした貴重な種が沢山あると知りました。そこで「自分も固定種・在来種を作りたい!」と考え2017年、あきる野市に農地を借りて野菜を育て始めたんです。
今、敏之さんの暮らしは“半農半X”のうち“半X”をゆっくり増やしているところ。例えば、伝統野菜や食文化の知識を広めたいとドキュメンタリー映画の上映会を定期的に開催。また、1人で店を営む友人の弁当店の配達仕事を手伝ったり、ご近所の養蜂家に頼まれ、防護ネットに身を包んでの採蜜作業にもチャレンジ中!これからも敏之さんは『ゆっくり農縁』の名の通り、日々土を耕してはスローな時間を楽しみつつ、沢山の方とのご縁をつないでいきます。



敏之さんは伝統野菜を中心に育てていますが、「カーボロネロ(黒キャベツ)」や「チコリー」など、海外の品種も栽培するようになりました。何故かと言うと…。イタリアンレストランのオーナーなど近所の知人から「こんな野菜が欲しい!」といったリクエストにどんどん応えて栽培していったから。気づけば今や畑には100品目もの野菜が!ジャガイモやトマト、ナスなどは様々な種類を育て、ハーブ類も豊富にある、少量多品目の農園です。近頃は敏之さんの野菜が評判となり、市内のパン屋さんやイタリア料理店などへ納品もしています。そんなお店には必ず顔を出してランチを楽しむ敏之さん。「自分が育てた野菜が料理になって出てくると嬉しい!」と満面の笑みでした。



この日は“半農半Xの”“半X”の活動です。ご近所の養蜂家・犬飼さんと仲良くなった敏之さんは、去年から採蜜の手伝いを頼まれ、定期的に参加しています。早朝4時半、防護ネットをかぶり始まった作業。蜂の巣箱が沢山置かれた圃場から、たっぷり蜜が詰まった巣枠を取り出して回収していきます。「農業の心得があるからセンスがある」と、敏之さんのことを認めスカウトしてくれた犬飼さん。しかしこの日、敏之さんはまぶたをミツバチに刺され、腫れ上がるというハプニングが発生!びっくりしましたが、併設されている『みつばちファームカフェ』で、蜂蜜がたっぷりかかったジェラートを食べて、犬飼さんとの交流を楽しみました。頑張ったおかげで、フジの花の香りが立ち上る蜂蜜が沢山収穫できました。



敏之さんが野菜作りを始めて4年。『ゆっくり農縁』の野菜のファンも増えてきました。そのうちの1人が、墨田区のイタリアンレストランのオーナー中島さん。毎週車であきる野市の畑に通っては、店の食材となる野菜を自ら収穫。「味が濃く、大地の味がする」と敏之さんの野菜に惚れこんでいらっしゃいます。「ニンジンは…バーニャカウダ!ネギは、ピザ」と収穫し味見しながら料理のイメージをどんどん膨らませていく中島さん。畑では敏之さんから野菜が育つ過程の話や特徴などを聞き、お客さんにそのストーリーもお伝えしているそうです。中島さんのお店『笑がおItalian』では、元気な野菜たちが、ピザとペペロンチーノ、バーニャカウダの食材に大変身、お見事です!



月に一度、神奈川県相模原市へ出向く敏之さん。これまで独学でやってきた野菜作りですが、自然農法の新たな知識を得たいと参加している活動があるんです。それが『ハタサロ』。“畑で考え、学ぶサロン”の略で、敏之さんは会を主宰する塚本さんに誘われて参加することに。ハタサロの舞台となる畑を提供してくれているのが、サッカーコーチから農家になった経歴を持つ通称“長谷川コーチ”です。自然農法で、雑草を一年がかりで堆肥にしたりと土づくりにこだわる長谷川コーチ。その畑の土は驚くほどふかふかです。収穫したラディッシュがあまりに大きく育っていて参加者の皆さんも敏之さんもびっくり。敏之さんも「どうしたらこんな土を作れるの」と興味津々でした。今後は月に一回開かれる「ハタサロ」の活動に参加し、知識を増やしながら多くの人と交流を深め、ご縁をつないでいきます!

ゆっくり農縁
主人公・石川敏之さんの畑『ゆっくり農縁』では、
知人のみに野菜を販売しています。
一般の方への販売は行っていませんのでご了承ください。