舞台は、高知県の山間にある梼原町(ゆすはらちょう)。早期退職後、故郷で炭焼きをしながら暮らす前田栄一さん(65歳)が主人公です。南国市の自宅に暮らす妻のみち子さん(63歳)のもとには、週末に帰っています。
梼原町で生まれ育った栄一さんは、南国市の郵便局に就職。49歳で郵便局長に就任しますが、慣れないデスクワークにストレスが重なり、54歳で退職。久しぶりに訪れた故郷で目にした炭焼きの煙に、懐かしさがこみ上げてきました。親戚の窯で炭焼きを手伝ううちに、その奥深さにのめり込み、梼原町で週に5日、炭焼きを楽しむ生活を始めました。
炭焼き職人として第二の人生を謳歌する前田栄一さんを紹介します。
ハスの花托(かたく)を焼くことから始まった栄一さんの炭オブジェ作り。今ではトウモロコシやパイナップル、ミカン、イガグリ、紅葉、ラーメンなど、様々なものを炭にしています。形を保ったまま黒く光る炭のオブジェは、見ているだけで癒されます。
窯出し作業に取り掛かる栄一さん。窯の中には燃料用の木炭や竹炭、炭オブジェがびっしり。栄一さんは防塵マスクをして窯に入り、袋に入れた炭を外にいる幼なじみのタカちゃんに渡します。「炭焼きは一人では出来ない」。たくさんの仲間に助けられながら、炭焼きを楽しんでいます。
栄一さんは毎週、高知市で開催されている日曜市に出店しています。高知県の特産品が多く並ぶ中、ひときわ目を引くのは栄一さんの炭のオブジェ。初めてそれを見て驚くお客さんに、“待ってました!”と言わんばかりの笑顔で応対。お客さんが楽しむ様子が何よりもうれしい栄一さんです。
月に一度、南国市から栄一さんに会いにやって来る妻のみち子さん。到着すると、部屋の片づけに洗濯、掃除に追われます。みち子さんのサポートがあってこそ炭焼きを楽しめる栄一さん。言葉には出さないけれど、みち子さんにとても感謝しています。「亭主元気で“多少”留守がいい」。夫婦それぞれの時間を楽しんでいる前田さんご夫婦です。