木曜日

玉川徹が“ニュースに潜む疑問”を独自に追及

2018.03.22放送

最新の白血病治療“CAR-T療法”とは、そもそもどのようなものなの?

『血液がんに大きな効果が期待されている“CAR-T療法”』

◆今回取材させていただいた“CAR-T療法”の研究者          
名古屋大学大学院 医科学研究科 小児科学 高橋義行(たかはし・よしゆき)教授
そもそも総研ではこれまで様々な“最先端がん治療法”を取材してきました。しかし、それらはいずれも特定の部位にできる“固形がん”のためのもので、白血病のような“血液がん”には対応していませんでした。ところが今回、「CAR-T(カー・ティー)療法」という“血液がんに有効な治療法”の存在を知り、玉川徹さんは国内でその研究を進めている名古屋大学大学院にお邪魔しました。

お話を伺ったのは、名古屋大学大学院 医科学研究科の高橋義行(たかはし・よしゆき)教授。高橋教授によれば、CAR-T療法とは「体内の免疫細胞のひとつ“T細胞”を使ってがんを破壊する」というものだそうです。T細胞は本来なら「体外から侵入してきた細菌やウイルス、体内でがん化した細胞などを殺すもの」だそうですが、がんや白血病の患者の場合は「自分のT細胞では殺せないがんが発生してしまっている」のだといいます。そんなT細胞を、遺伝子操作で「がん細胞を殺せるもの」に変えたうえで投与する、というのがCAR-T療法なのだそうです。

患者の血液内から取り出したT細胞に、がん細胞を発見するレーダー役の「CAR(カー)」を発現する遺伝子を導入することで「CAR-T細胞」が誕生します。これを患者の体内に戻すと、これまで見逃していたがん細胞を免疫細胞が認識するようになって攻撃を加えるのだそうです。高橋教授によれば「患者に戻すT細胞のうち、50~60%がCAR-T細胞であれば十分な効果が期待できる」といいます。

CAR-T細胞は、体重1kgあたり「10万~100万個」を投与するといいます。T細胞というのは「倒すべき相手がいる間は増殖するが、敵と認識する存在がいなくなると徐々に減っていき、やがていなくなる」のだそうです。点滴で体内に投与されたCAR-T細胞は血液の中をパトロールしながら進み、白血病細胞を認識すると攻撃を加えるといいます。「白血病の場合、早ければ1カ月以内でがん細胞をせん滅できる」と高橋教授は語ります。

世界で初めて承認を受け、昨年8月からCAR-T療法が実用化されているアメリカでは「骨髄移植をしたが再発してしまった患者に投与したところ80~90%の人から白血病が消えた、という効果が出ている」そうです。この例は「リンパ球性」のものですが、白血病には「骨髄性」もあります。しかし、「改良を加えれば骨髄性白血病にも対応できるはずだ」と、いま世界中で試験が始まっているそうです。また、「白血病以外の血液悪性腫瘍(悪性リンパ腫、骨髄腫、多発性骨髄腫など)も、CAR-T療法でかなり治せるようになるのではないかという期待が高まっている」と高橋教授はおっしゃいました。

『CAR-T療法の日本での普及に尽力する高橋教授』

現時点では「1回の治療費が5000万円以上」と高額なCAR-T療法。そのため、実用化されているアメリカでも「骨髄移植後に再発した場合などの最後の手段」という使われ方しかできていないそうです。そこで高橋教授は「CAR-T細胞の作製方法を変えることで、効果を落とすことなくコストダウンを図る」という研究を行い、みごと成功させたといいます。それは、費用の高い“ウイルス”の代わりに“酵素”を用いる方法で、これによって遺伝子導入コストを「従来の10分の1以下」に抑えられるのだそうです。遺伝子導入コストが下がれば、治療費も大幅に下げられる可能性が大となります。「もしも治療費が安くなれば、現状の“最後の切り札”ではなく、骨髄移植の前に行うこともできる。化学療法と併用できるようになれば、骨髄移植の必要も、再発もなくなるかもしれない」と高橋教授は語ります。

「従来より安価なCAR-T療法の実用化」を高橋教授が急ぐ背景には、「過去に救うことのできなかった小さな命」があるといいます。3年前、名古屋大学病院に急性リンパ性白血病で入院してきた当時2歳の女児は、まだ乳児だった頃に発症し、父からの骨髄移植でいったん回復するも再発してしまったのだそうです。唯一の希望がアメリカで臨床実験中だったCAR-T療法でしたが、それを受けるには前金で1億5000万円が必要でした。募金で1億円以上が集まったそうですが、受け入れ側の事情や病状の悪化などによって、その女児は亡くなってしまったといいます。

それから2年後、亡くなった女児とよく似たケースの患者が入院してきた際、今度は中国に問い合わせて、こちらはCAR-T療法を受けることができました。それから1年半近くが過ぎていますが、再発は認められていないといいます。「自分たちにも技術はあるのに、まだ日本では使えない」という状況に歯がゆさを覚えた高橋教授は、1日も早い国内での実用化と普及を目指しているそうです。

名古屋大学では今月からCAR-T療法の安全性と有効性を確かめる実験を始め、実用化に向けた研究が進められているといいます。厚生労働省が2015年に導入した「先駆け審査指定制度」を活用した場合、「申請して認定されれば2年以内に承認申請することも不可能ではない」そうです。さらに、承認申請中にも治療が可能となる「拡大治験」という制度もできたので、「2年後に承認申請できれば、患者を治療しながら承認を待つことができる」と高橋教授は語っておられました。今回の取材を通じ、玉川さんは「すべての血液がんへの有効性が確立されること」を心から願ったそうです。