● ● ● ● 4月15日 ● ● ● ●

司会 吉澤 一彦 (テレビ朝日アナウンサー)
島本 真衣 (テレビ朝日アナウンサー)
ゲスト 水越 伸 (東京大学大学院情報学環 准教授)

【放送内容】

「番組作りを通してメディアを学ぶ〜民放が取り組むメディアリテラシー実践プロジェクト〜」

2006年度“民放連”日本民間放送連盟 の「メディアリテラシー実践プロジェクト」の報告会が行われました。
1999年から、メディアリテラシー向上に取り組み始めた民放連ですが、今回のプロシェクトでは、
放送局と中高生が協力して、3分のテレビ番組作りに取り組みました。今回は、その様子を、ご紹介します。


スタジオ1

吉澤)
プロジェクトについて、伺う前に、この番組でも度々取り上げてきましたが、
「メディアリテラシー」の意味と意義について?

水越)
テレビというメディアの仕組みはどういうものなのか。
そこから受け取る情報をどうとらえればよいのか。
自分たちでも映像表現するにはどうしたらよいのか。
メディアをひもとくことによって情報の送り手と受け手の理解を深める。

吉澤)
では、このプロジェクトの意義について

水越)
民放連に20局の応募があって、その中から青森放送、中国放送、
テレビ長崎の3局が選ばれました。その3局がそれぞれ取り組み、
子どもたちと一緒に番組作りに取り組むことで、子どもたち、テレビ局ともに大きな気づきがある。


VTR(1) 青森放送

青森放送のプロジェクトは、昨年8月から12月までの長期にわたり、
3つの高校の三チームが参加、週一回のワークショップとして進められました。
指導は、青森放送のスタッフを中心に、地元弘前大学の学生や
青森県総合社会教育センターがサポート。
プロジェクトの中心となったのは、青森放送の山内千代子アナウンサーです。

水越先生たちがプロジェクト全体をサポートしました。
視点を変えることで、固定されたイメージが変化する、違った視点で物事を捉えるという
<発想の柔軟性>を養うことができるのです。
ハンカチ王子こと斉藤祐樹選手をイメージした模擬記者会見。
生徒たちは、新聞や週刊誌など色々なメディアの記者になって取材をしています。
それにより、それぞれのメディアにより取材テーマが違うことを学ぶものです。
同じ記者会見を取材したのにも関わらず、発表内容は全く違うものになりました。
これは、読者のギャップの違いによるものなのです。

プログラム後半は、いよいよ番組作りの基本。
青森放送のスタッフが、現場の経験を交えて講義しました。
受講者はどんなことを学んだのでしょうか、ある生徒のノートを見せてもらいました。
企画のもとを探すことから、番組が完成するまでのプロセスやドキュメンタリーの
テーマの決め方など、実践的な内容が盛りだくさん。
これが、実際の番組にどう生かされるのでしょうか?
女生徒5人が参加した青森明(あけ)の星高校の放送部では、創立間もない
「東奥学園野球部」を取材することにしました。

この企画を考えた当初は、弱小野球部が勝利に向って努力する姿を紹介するつもりでした。
最初の絵コンテには、一勝もできないまま卒業する3年生の無念の涙と、
想いを受け継ぐ後輩たちとの握手でエンディングを迎えています。
別の絵コンテ。女子マネージャーと野球部員のロマンスがテーマです。
彼女の愛を支えに甲子園を目指す、高校生らしい清清しい恋愛をイメージしていました。

取材対象の野球部への事前取材を行わないまま、生徒たちはテーマを決めてしまいました。
そこで青森放送の藤田さんから企画を立てたらリサーチが大事。
リサーチを終えたら企画を練り直すことが大切だということを教わりました。
アドバイスをもらった生徒たちは、実際に野球部を調査すると、新たな発見がありました。
取材する前は女子マネージャーだと思っていたのが、取材に訪れてはじめて
男子マネージャーだということがわかったのです。
彼女たちはその男子マネージャーに注目しました。

ワークショップでは学んだことをメモする「振り返りシート」があります。
撮影のアドバイスや、取材対象への迫り方などのアドバイスが記しています。
さて、いよいよ撮影。これがどう生かされたのでしょうか?

そして、撮影本番の日。
青森明の星高校の生徒たちが、東奥学園高校を訪ねました。
事前取材する前は、屋外の野球場での練習だと思っていたのが、室内だったり思わぬことの連続。
いよいよメインのインタビューですが、試行錯誤の連続、
撮影もなりふりなど構っていられない。・・・大奮闘でした。

番組は、弱小野球部を支えるマネージャー菊池さんの野球と野球部に対する
熱い思いが伝わる作品となりました。

青森県立大湊高校の男子生徒は、同じ高校生のロックバンドの活動を取り上げました。
彼らの姿から夢を追いかける素晴らしさを伝えようとしたものです。
撮影現場では、台車を使うなど自分たちで一工夫。
自分で作ってみて初めて、作る側の立場や狙いに気付いたようです。

スタジオ2

吉澤)
水越先生は、一緒に指導されていて、青森放送の取り組みは
どうお感じになりましたか?

水越)
青森放送の山内さんがメディアリテラシーという本質をよく理解し、
とても精力的に行っていました。 そのほかにも青森社会教育センターの
スタッフや弘前大学の先生、学生がサポートしていました。

島本)
次は、テレビ長崎のプロジェクトをご紹介します。
水越先生、こちらはどんな取り組みでしょうか?

水越)
5日間の短期集中で番組を作りました。
「さるく博」のイベントに連動して長崎紹介をテーマとし
3分間18カットというルールで制作しました。


VTR(2) テレビ長崎

テレビ長崎のメディアリテラシー実践プロジェクトは、
5日間で集中して 番組を作るものでした。

夏休みの8月初旬、一般公募で選ばれた中学・高校生22人は、
中高一緒、男女混合4グループに分けられ、チームがつくられました。
これに、地元の長崎県立大学の学生たちなどが参加し、番組作りは始まりました。
番組制作のテーマは、この時期、開催されていた「さるく博」です。
これは、街全体を会場に、歴史や風物を紹介しようというイベント。
水越先生も駆けつけ、番組作りのアドバイスをしました。

番組作りが始まりました。
チームサーファー。こちらのチームがテーマに選んだのは、
九州一古い喫茶店「つる茶ん」 創業80年以上の老舗です。
人気メニューは、長崎名物「トルコライス」
生徒たちは、「さるく博」に参加しているこの店をテーマにまとめようとしたものです。

撮影は順調に進みましたがが。
突然、店の人から予定にないリクエストが出ました。
料理を食べるシーンも撮って欲しいというリクエストです。
リクエスト通り、食べるシーンを追加撮影し、これがのちの課題となりました。
しかし、生徒達は編集時に必要な要素を取捨選択して
食べるシーンをカットすることにしました。

完成した番組では3分と言う短い時間を生かすための
生徒たちのアイディアがありました。ひとつの画面に4つに分割した画面を入れることで、
多くの映像を見えることができました。文明堂のCMテーマ曲を使うのにも、
子供達は著作権が必要だということを知りました。

そのほかにも主人公の生徒が「さるく博」のコースでもある出島にタイムスリップする
というドラマ仕立てのものや、長崎の台所、長崎新地中華街でリポーターが
名物を探しながら、案内するというものなどが制作されました。

スタジオ3

吉澤)
テレビ長崎の増田さんが言っているように、教える側にとっても、
これは「自分にとってテレビを問う」いい機会になるように思いますが?

水越)
制作者は日ごろの業務に追われかちですが、子供たちと一緒にになって
番組を作ったことによって、初心を思い出す良い機会になった。

吉澤)
こちらのチームは、中学高校一緒で、男女混合という編成だったということですが?

水越)
年代を混合させることによって、制作過程でもお姉さんお兄さん的な関係で
下の人間の面倒をみる、接することになるところが良い。
作品の良し悪しでなく、作品をつくる過程がメディアリテラシーの学びという考えから。

吉澤)
現場で、生徒さんたち苦労していたようですが、ご覧になっていて気付かれたことは?

水越)
著作権の話でも、文章だけの勉強では絶対に理解できない部分がある。
身をもって体験できたことが、子供たちにとって得がたい経験だったのでは。
アポなしでいきなり取材先に訪れ、取材を断られたり、話し合いがまとまらず
リーダーがトイレに1時間も雲隠れしてしまうなどさまざまな苦難や事件を乗り越え番組を作った。

島本)
最後に中国放送の取り組みをご紹介します。

VTR(3) 中国放送

中国放送では、8ヶ月という長期のプロジェクト。
中学2チーム、高校2チームが「私たちの広島」という共通のテーマで、
3分の番組を作りました。

特徴は、平均年齢60歳のOBが指導にあたり、それに、広島経済大学の学生がサポートしました。
中国放送の作品の特徴は、すべて街頭インタビューを敢行をしたこと。

中学生が作った番組「わたしたちの夏ヒロシマ」では、
被爆地に生まれ育った彼ら自身の目線で、戦争について大勢の人に
インタビュー結果を構成した硬派な作品です。

「WE LOVE CARP」という作品は、地元プロ球団カープに対する
地元ファンの熱狂振りを紹介し、建て替えられる広島市民球場の新球場への期待で
まとめています。

高校生が作った作品「他校を知りたい」では、広島市内の高校生ったちに
気なる他校をアンケートし、1位となった高校にその理由を調べにいくという、
高校生ならではの視点の番組でした。

スタジオ4

吉澤)
中国放送のプロジェクトについていかがでしたか?

水越)
8ヶ月という期間は少々長かったかなという印象がありました。
中国放送は指導者が平均年齢60歳という放送関係OB主体のプロジェクト。
それに地元の広島経済大学がサポート役として参加した。
生徒の作品は4本。生徒が自由な発想で作品をつくっていたのが印象的。

面白い取り組みとしてはこのプロジェクトのために局の中に、
子供達が自由に利用できる部屋を作ってしまったということ。
子供たちに取り付く暇を与えたということが、画期的な試みだったと思います。

吉澤)
3つのプロジェクトに対する先生の評価は?

水越)
それぞれ地元の人達と協力しながらプロジェクトを進めていったということは、
とても大きかったと思います。 メディアの送り手、受け手が相互に交流し理解をより
一層深めていけば、 昨今、問題になっているようなことはなくなっていくと思います。


番組では、テレビをご覧の皆さまからのお問い合わせ、ご要望をお待ちしています。

次回の放送は、4月29日(日)の予定です。