トーク(1)
吉澤:
しかし、すごい数のテープですね。一体何本くらいあるのでしょう?
石川:
21年分ですから、およそ5000本はあるのではないでしょうか。
吉澤:
それにしても、こんなに狭いところでどうやって放送するんですか?
石川:
カメラは固定で、デッキやミキサーを操作しながら 二人でずっと立ってやります…
VTR(1)
世界一小さなテレビ局、「西軽井沢ケーブルテレビ」は、石川伸一さんが、
町民共通の関心事を取り上げる、テレビ局を作ろうと、21年前にスタートさせました。
スタッフは、責任者の石川さんと、カメラやリポーターもこなす、小泉和子さんの2人。制作から放送まで2人で行います。
石川さんが、この小さなテレビ局を立ち上げたきっかけは、当時の御代田町議会の議会運営と、その実情を広く町民に知ってもらおうと思ったからです。
町に対する思いが人一倍強い石川さんは、この21年間、町議会の模様を放送し続け、また選挙の際は、開票速報を伝えるなど、町のメディアとして欠かせない存在となりました。
開局当時から続いている人気番組は、月曜を除く毎日よる7時からの生放送「御代田トゥデー」。
その日街で起きた出来事を伝える情報番組。
いつも番組冒頭で、石川さんが時事ネタついて語る辛口なトークが街の視聴者に受けています。
人々の暮らしとひとつになって情報を送り続けることで、開局時には加入者わずか10件が、現在では約2800世帯、なんと町の全世帯の8割が加入。
そのほかにも企画コーナー「明治生まれの人に聞く」や、ブラジルへ移住した御代田町出身者を追いかけ、なんとブラジルロケまで敢行!
御代田町役場。この日は、定例議会です。ところが、傍聴席には人がほとんどいません。だからこそ、自分の街の行政にもっと関心を持って欲しいと、石川さんは議会放送にこだわってきたのです。
この日の議題には、町のシンボルである浅間山を
もっとアピールしていこうということや、町に巡回バスを走らせてはどうかという提案が出されました。
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石川さんの話
「夢のある町に。そういう質問を楽しみにしている」
議会は、最初から最後まで全てを収録していきます。
メモをとる石川さん。議事の内容や問題点のポイントを、番組の中で紹介していくためです。
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議員たちの話
「質問も無責任なことを言えなくなった。」
「本当は放送して欲しくないこともあるが、そこがいいとこではないか。」
「町の人も、議員さんの質問の仕方も変わった。」
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石川さんの話
「放送は、全部する。平等にする為、編集はしない。それがありのままでいいのではないですか。」
今回収録された町議会は、生放送「御代田町トゥデー」の中で石川さんのコメントを交え、
まずニュースとして放送されました。
さらにこの町議会の映像は、約1ヶ月間、毎日ノーカットで繰り返し放送されます。
議会放送を町の人はどう受けとめているのでしょうか。
温泉を営んでいるお宅。外出があまりできないために、町議会の中継が大切な情報源になっているそうです。
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おかみさんの話
「為になる。私たちの知らない町の様子がよくわかる。」
今度は三世代が同居しているお宅を訪ねてみました。
こちらも町議会の中継を家族でよく視聴しているそうです。この日は、議会で提案された巡回バスの話が家族の話題に。息子さんの学校まで40分もかかるそうで、バス導入に期待を寄せています。
小さな町のメディアは、生活に深く関わった情報を伝えることで人々の暮らしの中にしっかりと根を張ってきたのです。
トーク(2)
吉澤:
町議会の反響は、どうですか?
石川:
町議会中継の反響は大きい議員も変わった。
昔は、考えられない議会をやっていた。どんなビジョンがあるのか知りたかった。
それを、町のみんなも知りたいだろうと思った。昔は、町議会にメディアが入ることは全くなかった。よく呼ばれて、叱られた。
一番視聴率がいいのは、7時からの生番組。キー局は、裏番組。
月曜日は、放送が休みの日。今日は寂しかったと言われることもある。
VTR(2)
西軽井沢ケーブルテレビの一日を追いかけてみました。
石川さんたちが、毎日欠かさずに行っているのが車を使って町内を巡る、ネタ探し。見慣れた町並みの中から意外な発見があるかもしれないからです。
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石川さんの話
「待っていてもダメ。何もない時にこそ出ていると色んな事に目がいく…。」
○小学生とのやりとり
「みんな友達、小さい時からずっと撮り続けているから。」
石川さん、バラの花を見つけたようです。
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石川さんの話
「見てみようか 黄色はあまり見たことない」
小さな草花にも心が動きます。取材というより、石川さんの人柄でしょうか…。
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石川さん、住人に声をかける
「コンチワ!しばらくだね!」
いきなり取材開始!町の人全員に出演していただく!これが「西軽井沢ケーブルテレビ」が目指していることです。
この日は、中学生のスポーツ大会の取材へ。
今日は全て屋内の競技。会場は、7か所。全てまわる予定です。
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石川さんの話
「友達が戦っている姿が見えない。友達はこんなにすごいんだ、というところを見せてあげるのが我々の仕事なんです。」
県大会の地区予選に、地元・御代田中学校が出場。男子バスケットボールの会場。
石川さんたちの取材は、どうやら試合の報告だけではなく、もっと大きな意味があるようなのです。
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石川さんの話
「色んなイベントで使われる。成人式にも使う。
(成長日記のようなものですか?)「記録係だから。」
試合の途中ですが、他の会場の撮影もしなければならないので、急いで移動。
次は、車で15分ほどの会場で行われている男子バレーボールの試合。
戦績を見て、落胆する石川さん。
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石川さんの話
「明日、残れないナ。激励する!見ててご覧!勝っちゃう!」
いてもたってもいられず生徒たちの激励に!
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激励する石川さん
「頑張れよ!中継するから!しっかり撮ってやるから!」
「しっかり撮ってやるから!」石川さんらしい愛情のこもった言葉です。
さらにコートの中にまで入って行き、檄をとばす石川さん。熱い人なんです!
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石川さんの話
「燃えさせる言葉がいい。おじいちゃん、おばあちゃんが見ているよ、とか。」
御代田中の第3試合が始まりました。前半は接戦の展開。
応援の甲斐なく、第一セットを落としてしまいました。
スポーツ大会の撮影を終了させた石川さんが、次に姿を見せたのは美術館。
今日は新しい作品展の取材です。文化の発信地である美術館の魅力をより多くの人に知ってもらいたいという石川さんの思いが込められています。
次は「御代田トゥデー」の人気コーナー「場所当てクイズ」用の撮影。
町の中の特徴ある景色、撮影している場所の地名を視聴者に電話で答えてもらうという、小さな町ならではのクイズ。
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石川さんの話
「当たらないように、ワンカットで。」
地元の人には分りそうな景色ですが、大丈夫ですか?
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石川さんの話
「こりゃあ、当たんない!自信ある! これは町民との戦いだから!」
撮影を終えた二人は、夕方に局へ戻り、今日行われた大会の結果を中学校に確認。
試合途中で会場を後にした、男子バレーボール部は結局2対0で負けていました。
取材してきた映像は、すぐに放送できるようにダビングして準備します。
二人だけで支えている放送局。石川さんも小泉さんも、キャスター、カメラマン、
ディレクターと、ひとり何役もの仕事をこなしていきます。
先ほど撮ってきた「場所当てクイズ」の映像も準備完了。
実は、番組には曜日によって、小学生から大学生まで、特別キャスターがいます。
この日は小林彩那(あやな)ちゃん。小学4年生。
学校であった出来事を中心に、子供ならではの視点でトーク。
まもなく、午後7時。毎日、生放送で伝えている「御代田トゥデー」の
時間になりました。番組の冒頭はいつものように、その日あった印象的な出来事を、
石川さんなりの切り口で、町の人にメッセージを発信。この日はW杯について。
続いては、あやなちゃんが探してきた小学校での話題。
さらに、取材に出かけた御代田中学校の試合結果と、番組はテンポよく進行していきます。
あやなちゃん担当のお天気コーナー。もちろん、地元のお天気。
小さな放送局ならではの放送が続きます。
そして「場所当てクイズ」のコーナーへ。
「場所当てクイズ」の常連さんがいるというのでちょっとお邪魔しました。
クイズは、どんな風に答えるのでしょうか?
なんと!ご夫婦でそれぞれが電話を持ってスタンバイ!電話が繋がりました!
しかし一発回答とはいきません。
地域密着クイズが、住民との大切なコミュニケーションに一役買っているようです。
西軽井沢ケーブルテレビの活動は、街と、そこに暮らす人たちへの愛情に満ちあふれています。
御代田町の子供たちの成長や、後世まで残したい貴重な自然や生き物、
町が移りゆくさまなど、常に対話を交えながら、撮り続けてきました。
その集大成のひとつとも呼べるのが、成人式で流される思い出の名場面集。
「町の記録係」を自負する石川さんたち。西軽井沢ケーブルテレビは、
幼稚園、小学校、中学校と、子供たちの成長を記録し続けてきました。
そのなかのひとり、里見佳代子さん。
11年前、里見さんが成人式の時の映像です。その里見さんが、現在結婚して、
3歳の子供のお母さんになっているというので訪ねてみました。
里見さんを子どもの頃から撮り続けてきた石川さんは、今、息子の光太くんの成長記録を撮っています。
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里見佳代子さんの話
「子供が大きくなったね」と言われると御代田町の皆さんに育ててもらっている気がしてすごく嬉しい。」
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石川さんの話
「みんな撮り続けてきた。
里見さんとは特にいい関係だったから…」
世界一小さなテレビ局は、これからも人と町を撮り続けます・・・。
トーク(3)
吉澤:
地域に密着したメディアとは、幅広い世代から支持されることが大切ですね。
石川:
一番楽しみなことは、我々が見続けてきた子供たちがどうゆう故郷にしてくれるかということ。
吉澤:
21年間の蓄積がある西軽井沢ケーブルテレビ。
さて、これからどのようにしていこうと思っていますか?
石川:
今は地域のニーズにあった放送局となっているが、自分たちの町を忘れないことがケーブルテレビ局の真髄であり、原点だから、どんどん新しいことにチャレンジしていきたい。
ありがとうございました。
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