● ● ● ● 5月7 ● ● ● ●

司会 吉澤 一彦 (テレビ朝日アナウンサー)
矢島 悠子 (テレビ朝日アナウンサー)
ゲスト 堀場綾技子(テレビ朝日セットデザイナー)

放送内容
美術セットの舞台裏
次々と生まれてくる人気ドラマ。このドラマづくりで、重要な役割をするのが美術セットです。
今回は、四月から始まった新番組「7人の女弁護士」の美術セット制作の舞台裏に密着、テレビ番組を影から支える美術の仕事をご紹介いたします。



スタジオ(1)

吉澤 堀場さんは、美術セットの仕事の面白さや重要さをどのようなところに感じていますか?

堀場 美術セットは、番組全体のイメージを決めてしまうほど重要な仕事。
セットデザイナーは、コンセプトを考え、イメージで平面図を描く。
それを大道具さんと一緒にセットという具体的な形にするが、特に新しいドラマがスタートする場合は、
そのセットが番組を方向づけるような役割をするので、やりがいがあるし、大変な仕事でもある。


VTR(1)

木曜よる9時から放送されている木曜ドラマ「7人の女弁護士」。
女性の味方、犯罪に泣く女性を救いたいをテーマに、主演の釈由美子さんをはじめとする、7人の女弁護士たちが難事件を次々と解決していくという話題のドラマです。

このドラマの重要な舞台となっているのが、7人の女弁護士たちが集まる事務所。
実はこのような大規模な美術セットが組まれているのです。ドラマのセットはどのように制作されていくのでしょうか。そのプロセスを追ってみました。

ドラマのセットは、専門の美術デザイナーが担当します。
ドラマのコンセプトやストーリーに基づいて、まずデザイナーがセットのイメージを作り上げます。

「7人の女弁護士」のセットデザイナーを訪ねました。
セットデザイン担当の北谷岳之さん51歳。北谷さんは、「恋人はスナイパー」や「着信あり」、さらに先月からスタートした金曜ナイトドラマ、「てるてるあした」など、数々のドラマの美術セットを手掛けてきたベテランデザイナー。今回のセットデザインのイメージはどのようにして生まれてきたのでしょうか?


● デザイナー・北谷さんの話
「建築雑誌とかで常に情報を入れといて、この番組用に噛み砕いて出すというようにしました。」
「メインのロケセットの表となるビルを見に行って、これなら中はこうだろうと。それにいろんな物を付随させました。」


銀座の松竹本社タワー。ドラマの中の弁護士事務所は、このビルのなかにあるという設定です。


●デザイナー・北谷さんの話
「あの枠の時間帯で釈さんが主役。しかもあれだけの女優陣が集まる番組。まず明るくしていくこと。そして、その裏には社会のなかで抑圧された女性たちの駆け込み寺的な弁護士事務所でありたいという趣旨があった。」


北谷さんの弁護士事務所のイメージ。色は、薄いブルーと赤。
それが木目調にマッチするように考えたそうです。天井は高く、明かりも色々な方向から採り入れるようにしました。さらに7人がバラバラにならないように、会議テーブルを中心におき、それぞれのデスクをまわりに配置。

美術セットの制作は、さまざまなスタッフが完全分業制で行います。
デザイナーの北谷さんが平面図に描いたイメージを、実際に具体的なかたちとして作り出すのが、大道具のスタッフ。デザインイメージやコンセプトを理解するために、入念な打ち合わせが続きます。

ドラマのセット撮影を明日に控えた3月18日、土曜日。埼玉県の草加にある工場では大道具スタッフの指示のもと大工さんたちが、実際に使用されるドラマのセットを制作していました。

ここで、セットの制作に加わっているスタッフは、およそ60人。
材料の木材の切り出しや、パネルの貼り付けなど、工場内はさながら建築現場のようです。

工場内の真ん中には青図が張られていました。この青図には、それぞれのセットについて、サイズや色など細かい指定が書かれています。スタッフはこの青図を、作業プロセスのなかで常に確認しながら進めていきます。弁護士事務所の本棚となるセット。木目をアクセントに明るいパステル調の色が塗られて行きます。

出き上がった時のイメージが分かりやすいように、実際に仮組みした状態で作業は進められていきます。
ドラマ撮影の初日は、明日。美術セットの制作作業は、決められた時間のギリギリまで続きました。


スタジオ(2)

吉澤 コンセプトを決める→デザインをする→大道具のスタッフが具体的な形にする。
ここまでの流れを見ていただきましたが、コンセプトが決まったあと、これをデザイン化するという作業はなかなか大変そうですが?


堀場 監督さんや技術照明スタッフなどとコミュニケーションをとりながら進めなくてはいけないので大変です。
しかし、大道具の担当者によって、デザイナーのイメージを越えるものができると喜びは大きい。みんなで作り上げる面白さがある。



VTR(2)

午後3時。
草加の工場で美術セットが完成しました。
「7人の女弁護士」のセット制作を担当する大道具チーフの松本 寿久(としひさ)さん。ギリギリまで作業が続いていたため、時間の余裕がありません。
セットのパーツにもれがないか、確認しながら出来上がったものから、次々とトラックへと積みこみます。
今回使用するセットは、大型トラック4台分とかなりの量です。

明日のドラマ収録スタートは、お昼の12時。撮影まで24時間を切りました。
スタジオにセットを運びこんだあとは、「建て込み」というセットの組み立て作業が待っています。
午後4時。セットを積み込んだ大型トラックが工場を出発。
六本木のテレビ朝日に向かいます。午後6時、テレビ朝日に到着。

すぐに運んできたセットを降ろします。
しかし明日使用する予定のスタジオでは、他の番組の収録が行われているため、セットをスタジオ入れる事が出来ません。
大道具倉庫や地下駐車場に一時保管します。

午後9時、
美術控え室では松本チーフの指示のもと、美術セット「建て込み」の打ち合わせが始まりました。
「建て込み」は、他の番組の収録終了後に行うため、時間が限られています。
短い時間の中、効率よく作業していくためには、スタッフ全員が青図を元に、「建て込み」の段取りなどをしっかりと把握しておくことが重要なのです。

「建て込み」に重要な青図。平面図と側面図の組み合わせです。
全ての作業が、この青図に沿って進められます。

深夜の12時をまわった頃、「愛のエプロン」の収録終了、セットの撤収が始まりました。この日は3時間のスペシャルだったため、大掛かりなセットを使用。
撤収にもかなりの時間がかかりそうです。

午前2時、
収録が終わってから2時間もかけて撤収作業がようやく終了しました。
セット「建て込み」作業の開始です。まずは青図を元に、デスクフロアや所長室、廊下などの床にあたる部分にロールカーペットを敷き分けていきます。

午前2時40分、
保管されていたセットが次々と運びこまれてきました。

弁護士事務所の「建て込み」は、通常の建築物とは作り方が違っていて、まず天井を組むことから始まりました。
ワイヤーで吊るされた「バトン」と呼ばれる昇降棒に、セットの天井部分が取り付けられ、それを慎重に吊り上げていきます。
その後、事務所内の各部屋の仕切りや本棚、窓などが、青図を元に建て込まれていきます。
午前4時、「建て込み」が始まって2時間。大分部屋らしくなってきました。
セットデザイナーの北谷さんが、「建て込み」の進行具合を確認にやってきました。
真剣な表情で作業を見守ります。


● デザイナー・北谷さんの話
「新規セットの建て込みなので、必ず来る。どんなアクシデントがあるかもしれないから。」


午前7時。建て込み開始からおよそ5時間、ようやく弁護士事務所のセットが完成しました。
ここまでのプロセスのなかで、セットデザイナーの北谷さんが一番大変だったことは…。


● デザイナー・北谷さんの話
「監督は撮影のしやすさとか、芝居優先で考えますよね?僕はやはり絵(映像)の方から入っていきますから。こういう絵の中で、皆を動かしてみたいという思いがね。その辺りがお互いかみ合うまで時間が掛ります。」


セットの「建て込み」は完成。しかしこれではまだ空き家みたいなもの。
大道具スタッフのあとを受けて、部屋の飾りつけを担当する小道具のスタッフたちの出番です。セット裏には使用される小道具が次々とスタンバイ。
小道具の配置図にそって、ロッカーやデスク、テーブル、チェストなどが運び込まれてきます。

セット作りがはじまって7時間経過。ここには多くの書籍類が用意されていました。
弁護士事務所らしく、判例の資料書籍や裁判に関係する専門書が、次々と本棚におかれていきます。膨大な数の法律関係の書籍。
これで弁護士事務所の雰囲気が出来上がってきました。

さらに各弁護士のキャラクター設定に合わせてデスクの上に小道具が並べられていきます。現代のオフィスにも欠かせないパソコンもそれぞれのデスクへ配置されていきます。


出来上がった7人の女弁護士の事務所。
野際陽子さん扮する所長室からは、仕切られたガラス越しに部下6人の動きがよくわかるようになっています。
光をふんだんに採り入れた壁面は、明るい事務所にしたいというデザイナーの北谷さんのこだわり。

釈由美子さんは、駆け出しの弁護士役。まだまだ勉強中です!といったデスクの雰囲気。
ぬいぐるみがいっぱいは、南野陽子さん扮する田代千春のデスク。
川島なお美さんの役はバツイチで子どもが一人。


● デザイナー・北谷さんの話
「おおまかな色分けはした。所帯持ちとか、古株だとか、新人だという程度に。」
「その中で、彼女たちがこういう風にこだわっているということは番組が進むごとに加えていこうかと。」


ドラマのもうひとつの重要な舞台となる法廷セットの「建て込み」。
法廷内の壁となるパネルが次々と組まれてきます。さらに裁判官席、検察席、弁護人席や傍聴席などが運びこまれてきます。

デザイナーの北谷さんは、法廷のセットづくりは、東京地方裁判所を参考にしました


● デザイナー・北谷さんの話
「実際に東京地裁に行って見てきた。メモは許されているので、その範囲でメモ。」
「法廷にも大小あるが、その中で一番使いやすい大きさは、この位かなと決めた。役者さんか゜動きやすい距離間などを計って、カウンターなどを多少つめたり大きくしたりしている。」


北谷さん、セットのチェックで、裁判官席のテーブルにキズを見つけました。
どうやら、運ぶ途中で傷めたようです。
北谷さんから、大道具の松本チーフに修理の指示が出ました。出来上がったセットでは監督との最終確認。
法廷内の照明のセッティングが始まりました。ところが!
撮影まであとわずかというところで、トラブル発生!
法廷セットの天井の切れ込みの位置が悪く、照明器具を吊るす昇降棒を降ろす事が出来ないようです。
結局、法廷の壁の位置をずらすことに。
次回からは、セットの幅を急きょ広げることになりました。
今回は、とりあえず脚立を使って照明器具をつるすことに

午前11時50分。リハーサルの開始まで、あと10分。
時間ぎりぎりまで作業が続きます。


スタジオ(2)

吉澤 スタジオでセットを組み立てる、「建て込み」という作業をご覧いただきましたが、正にここでも時間との戦いですね。

堀場 テレビのスタジオは、色んな番組が使うので、限られた時間のなかで、毎回建て替えたり、バラしたりの繰り返しになる。
吉澤 その限られた時間のなかで作業を進めるために、工夫をなさっているようなことはありますか?

堀場 セットのパーツをなるべく少なくする。これで効率良く作業ができるような工夫をしている…。
矢島 いよいよ撮影がはじまりますが、美術スタッフの仕事はこれで終わったわけではなく、実は、まだまだ続くんです!



VTR(3)

お昼の12時。撮影が始まりました。
主演の釈由美子さん、初めてのセット撮影は法廷での弁護シーン。
リハーサルが始まります。監督が出演者たちに演技指導しながら、撮影する技術スタッフたちがカメラの位置やアングルなどの決定、カット割りの確認をしていきます。

大道具担当の松本さんたちの仕事は「建て込み」が終わったあとも続きます。
リハーサルの合間をぬって、壁に色を足していく松本さん。
大道具のスタッフたちは、さらに細かい部分をチェックしたり、修正を重ねていきます。

カメラの位置や動きが決まるとカメラリハーサルの開始。
松本さん、スタジオモニターに映し出される映像を見ながら、セットをチェックしていきます。
法廷内の柵に小さな傷。たとえわずかな部分も修正。
紙ヤスリでみがき直します。

そして、次の日、
“7人の女弁護士たち”の事務所のシーンの撮影。7人の女弁護士たちが揃うのは今日が初めて。


○ 川島なお美さんの話
「すごい立派な事務所ですね。今日はセット撮影が初めてなんで、ちょっとここで生きてる感じを出していきたい。」


出演者たちは、セットを見まわしたり、自分のデスクを確かめたりと、初めて目にする自分達の“職場”に興味しんしんの様子。
デザイナーの北谷さんに美術セットはどうあるべきかを伺いました。


● デザイナー・北谷さんの話
「セットが“立ちすぎては”いけないと思います。役者さんがお芝居しやすくするのが、セットの役目ですから。役者さんがセットに入ってきて「ああ、良いセットですねぇ」って感情を持つことだけでもずい分違うと思います。」
「役者のテンションを上げられるものでありたい。多分そうなると思いますよ。」


いよいよ本番が始まりました。 大道具の松本チーフもモニターを見つめながら、ホッとした表情。 そんな美術スタッフの影の力にも支えられ、木曜ドラマ「7人の女弁護士」 快調にスタートです!


VTR(4)

吉澤 セットを組み立てたあとも、美術スタッフの仕事は終わらないんですね。

堀場 撮影に入っても、ずっとフォローしていきます。

吉澤 北谷さんが、美術セットの役割は、立ちすぎてはいけない。役者さんのテンションを上げられるものでありたい、と語っていましたが、堀場さんは、セットデザイナーとしてどんな美術セットが 理想ですか?

堀場 理想とする美術セットは…見えない部分にもこだわっていく…

吉澤 きょうご覧になった方は、これからドラマの見方が少し変わるかもしれませんね。今日はありがとうございました。



《第468回放送番組審議会からの報告》
4月21日に開催された放送番組審議会では、「クイズプレゼンバラエティーQさま!!」について審議されました。
「クイズプレゼンバラエティーQさま!!」は、 2004年10月に深夜のバラエティーとしてスタート。
ゴールデンタイムのスペシャル番組では幅広い視聴者の支持を集め、高い視聴率を記録しています。
次のような意見がでました。

視聴率は良いが、ものづくり自体の劣化を感じる。
作り方を考えてもっと深い内容の番組にして欲しい。
芸人が弱点をさらしたり、普段は見せない“素”を見せることで視聴者が救われた気分になるのが魅力。
リアリティの危うさという魅力で視聴率が取れているが深夜帯の放送だからこそ許される部分が大きい。
ゴールデンでは問題があるのではないか。

番組では、テレビをご覧の皆さまからのお問い合わせ、ご要望をお待ちしています。

次回の放送は、5月21日(日)の予定です。