● ● ● ● 8月21日 ● ● ● ●

司会 吉澤 一彦 (テレビ朝日アナウンサー)
矢島 悠子 (テレビ朝日アナウンサー)

ゲスト 慶応大学大学院教授 金子郁容さん

【放送内容】
「観るテレビから発信するテレビへ」
総務省の調べによると、日本のインターネット人口は、7000万人を超えています。
そして、そのインターネットを通じて、さまざまな情報が発信されています。
そのなかでも、インターネットテレビとして、 地元に密着した情報を発信する、コミュニティメディアが最近、増えています。
今回は、見ることよりも、発信する側に立った人たちの活動を通じて、インターネットテレビの将来を考えていきたいと思います。

※参考…世帯普及率
(自宅の機器でのインターネット利用者がいる世帯)はおよそ55%)


Q. インターネットテレビって、そもそもどんなものなのでしょう?

○金子教授の話
インターネット上で 制作したビデオ等を配信するもの。
個人よりも組織的に活動している場合が多い。
地域メディアとしても将来的に大きな可能性がある…。



取材VTR [1] (活動紹介)

東京都世田谷区若林にあるインターネットテレビ局、世田谷テレビ。
ごく普通の住宅街の一角にギャラリーを無償で借り切って、生放送の準備が進められています。
世田谷テレビは、2002年11月開局。毎週、木曜日、夜7時30分から30分間、生放送をしています。
どのようにして放送しているのでしょうか。

市販されている家庭用ビデオカメラにノートパソコン。放送に使う機材はこれだけ!カメラマンとパソコンを操作する人。
スタッフが二人いればなんとか放送はできるのだそうです。

放送は、インターネットにアクセスできる環境があれば、世界のどこからでも放送を見ることができます。

情報を受ける側から、発信する側へ。
世田谷テレビは、市民の視点にこだわって情報を発信し続けてきました。市民もまた、その情報をとても身近なものと感じることが出来るようになり、地域メディアとしての可能性も大きく広がっていくことになるのです。
この世田谷テレビを3年前に立ち上げたのが大学職員の中山マサオさん。
どんな狙いがあったのでしょうか。

○世田谷テレビ主宰者 中山さんの話
世田谷テレビをつくった時の、夢や、目標は、発信側にまわった時に価値観が変わる。それを実現したかった。
発信側にまわるということを体験した時に、マスコミ側の情報よりも、この地域から発信されたものの方が、面白いし、楽しいし、それが本当だ、ということで価値観がかわるような瞬間がある。
街にいる人も、このミニメディアが発信したことが、面白いと思ったり、信用してくれるようになるといい。




Q. インターネットの発達によって、市民もこのような“手づくりの放送局”で情報を発信する側に立てるようになりました。自由に関わって、誰でも発信する側に立てる、というのもこの市民メディアの大きな特徴ですね。

○金子教授の話
新しい人の関係やネットワークを作り出していく普通のテレビは情報をただ受け取るという(受動的)なもの。
インターネットテレビをはじめとする市民メディアは、自ら情報を発信する(能動的)ということが一番大きな違いです。



取材VTR [2] (活動紹介)

人口80万人という都内最大の区、世田谷。世田谷テレビは、地域メディアとして どんな取材をしているのでしょうか。取材したこの日は、若林中央通り商店街の七夕祭り。 実は、この地域では高齢化が進み、若者との交流の場がほとんどないという問題を抱えていました。そこで世田谷テレビの中山さんたちは、このままではいけないと、 七夕祭りのお手伝いをする事にしました。

○世田谷テレビ 中山さんの話
Q.取材の狙いはどんなところですか?

僕らが撮影しているのは、通常のテレビに出ているような有名人ではない。
普通の人のあたたかさや人より優れているところをどういう風に見つけていくかが大切。

地元商店街、不動産屋の河井 大さん。河井さんは、世田谷テレビと商店街の橋渡しとなった人ですが、世田谷テレビの司会までするようになってしまいました。
どんな思いで参加したのでしょうか。

○河井大さんの話
みんな頑張って地域を盛り上げようとしているから。
若い人と商店街が関わっていないことが多かった。
若い人に参加してもらおうと思って。

世田谷テレビでは、七夕祭りの中で1時間のコンサートやイベントを行うことに。
世田谷テレビを知ってもらうには絶好のチャンス。
リポーター役の雪名マキさん。シンガーでもある 雪名さんは、世田谷テレビで司会を担当しています。

Q.世田谷テレビについて

○雪名マキさんの話
見学している人がその場で出演者になれてしまう 誰でも発信することができる。

○コンサートに参加した、モリモトヒデキさんの話
ただの宣伝とか、お金もうけではなくそれを超えたコミュニケーションの意識がある。

○河井大さんの話
世田谷テレビのホームページを見て一人でも二人でも地元に目を向けてもらいたい。このような商店街のイベントを知らない人もいるんで、 少しでも輪を広げてやっていこうと思っている。

生放送を翌週に控えた河井さんたちの打ち合わせが、若林駅前の喫茶店で行われました。河井さん、七夕祭りを次回の放送で詳しく報告することにしました。河井さんの要望を元に、中山さんが、映像の構成を考えていきます。

中山さんの自宅。撮影した映像をパソコンに取り込み、編集作業。みんなに早く見てもらいたい…。
そんな思いで編集作業はいつも夜遅くまで続くとか。
ちなみに放送や編集に使っているカメラやパソコンなどは中山さんの私物。
サーバーレンタル代も月に3万円ほどかかるそうです。

たとえ小さな話題でも、その地域に住む人にとっては 必要な情報なのかもしれない、と中山さんは考えています。発信を受ける側にもインターネットという気軽さが、その話題をより身近なものに感じてもらえるのでは?と。

生放送の日。
放送5分前になっても、司会の不動産屋さんの河井さんがやってきません。
ほとんど時間がないというのに、河井さん 余裕の表情。
皆の心配をよそに、河井さん無事到着。早速、打ち合わせが始まりました。
いよいよ、本番!番組に台本はありません。
テーマだけは放送直前に決めておき、それに基づいてのフリートーク。
河井さんは、当然先日の七夕の話。編集されたテープがデッキにセットされていますが、さて、どうやって放送にのせるのでしょうか。
なんと、中山さんはカメラをテレビモニターに向けそれを接写しました!
超アナログな手法!まさに手作りの放送局。

○世田谷テレビ 中山さんの話
あの人ができるんだったら、私も発信側に まわれるんじゃないかと、
思わせるような 小さなメディアがいいと思う。





Q. この小さなメディアの良さは、地域コミュニティーを研究なさっている
金子先生としてはどんなところにあると思われますか?

○金子教授の話
インターネットの特徴は個人と個人がつながっていること。
直接やりとりできる、それが強みである。
先日のイギリス、ロンドンで起きたテロの映像も、現場に居た市民が携帯電話で撮影したものが、BBCをはじめ、世界に向けて放送された。
世の中はグローバルなものだけではなく、中間的な存在のメディアが必要だと思います。
世田谷テレビは映像という手段を使って、上手く活動していると思います。
高度情報通信社会での豊かさは、“小さなコミュニティー型の組織”が沢山出来ること。
人々の多様なニーズに対応していくには、小さなまとまりがたくさんできることによって、豊かさにつながっていく。小さな村が町おこしの手段としてインターネットテレビを使うことも有効なのでは。





Q. 市民が情報を発信する立場に立った時に見えてくることはどんなことがありますか。

○金子教授の話
私たちは大きなニュース、たとえばワールドカップなど大きな出来事などに関心があるのは当然だが、それだけではなく、普段は身近なことにも関心がある。それだけではなく知る、観るだけではなく、自分で言いたいということがある。
世界に向けてというより、地元の街に向けて発信する。それが文字よりは動く映像があるほうが良い。
それが個人発信ではなく、グループである程度まとまって表現するということは、可能性として面白い。



取材VTR [3] (広がるネットワーク)

世田谷テレビには「若林放送局」とは別に、「松陰放送局」があります。 局長は渡辺チエリさん。
「松陰放送局」は不定期放送ながら、女性らしい視点で働く女性支援、子育て支援をテーマにした情報を発信しています。
松陰放送局は、トーク番組が中心。
渡辺さんは、この日、松陰神社にある美容院を訪れました。こちらのお店が女性に対してキメ細かい気配りをしていることに注目。ぜひ紹介しようということになったそうです。
この日の司会を務めるのが、小林ちえみさん。小林さんは、以前「松陰放送局」のゲストで出演、今回は初の司会役。渡辺さんはディレクターに。
この手づくりのテレビらしい柔軟さがよいところ。

○渡辺さんの話
Qどんな取材になるのでしょうか?
ただ座ってトークを収録するよりも、少し動きを取り入れて 撮影したほうが面白いと思う。

渡辺さんが注目したのは、小さな子供をもつ女性や、働く女性に対する、マスター未央さんのこまやかな気配り。授乳スペースや、小さな子ども用のキッズスペースも設けられている点。トークの中身を確認して、いよいよ本番です。時間は,30分。
カメラマンは、司会の小林さんのご主人がお手伝い。
司会者の小林さんが、ヘアトリートメントをしてもらいながら、「レスト」のくつろぎに対するこだわりや、女性に対するやさしい気配りについて、話は進みました。

○渡辺さんの話
当初考えていたイメージ通りにいった。
いつもはメールで打ち合わせをして本番に臨むが今回は話をしたりコミュニケーションの時間がとれたので私たちのやりたい事が伝わって映像に撮ることができた。

世田谷線 上町駅。
ここに、障害者や高齢者のお手伝いをするNPO法人「たつなみ会」があります。
社会福祉に力を入れているこちらも、実は世田谷テレビと深いつながりがありました。

○たつなみ会 石田さんの話
以前、たつなみ会のシャッターの事で、世田谷テレビが来てくれた。
当時シャッターが汚かったので、誰かボランティアで絵を描いてくれませんかと。

2年前の夏。汚かったシャッターに、皆でペイントをするというもの。
このイベントをしかけたのが、中山さんと世田谷テレビでした。

今回、中山さんたちが訪れたのは、その「たつなみ会」が新しくスペースを作ったので、そこを世田谷テレビとしてうまく活用できないか、と相談されたからです。中山さんは、ここを世田谷テレビの第3の放送局として活用してみたらどうかと提案。
そこでとりあえず、月に1回放送局として利用するというとになり、8月1日、「上町放送局」が誕生しました!

「上町放送局」の局長は、これまでカメラマンとして裏方に徹していた“いくお”さんが担当することになりました。 上町放送局オープンを知らせる、手作りの看板も、地元の大学生ボランティアが作ってくれました。「上町放送局」のテーマは、バリアフリー。
このテーマには、健常者から身障者、子供から老人まで、誰ひとりわけへだてなく、テレビを通じて情報を発信していこうという熱い願いがこめられています。

○中山さんの話
今は小さな放送局が3つですが、
5年、10年かかろうとも、将来、これが「大きなうねり」になることが僕の夢です。

Q. 「世田谷テレビ」をはじめとする、地域メディアとしての可能性や活用法について。

○金子教授の話
アメリカでは、「ソーシャルベンチャー」と呼ばれる、社会性のある動きが出てきている。
たとえば、ホームレスの避難施設を作ったり、HIV患者を支援したり、不登校の子の番組を作る、このように格好良さと社会性を融合させたりしていけば、もっともっと、地域を巻き込んだ形で色々出来るのではないか。





Q. 市民メディアがマスコミとの違いを出していくには、ソフト面が重要になってきますね。

○金子教授の話
市民メディアとしてのソフト。
一番大事なのは編集です。インターネットテレビも一般の人の目に触れるわけですから、情報をある程度分かりやすく伝えるためには、最低限の編集技術が必要になってくる。





Q. インターネットのメディアとして、誰もが参加できる、誰もが見えるという点では、
将来にはさまざまな問題点も出てきそうですが?

○金子教授の話
マスメディアと比較すると、規制やルールがない。
プライバシーの問題や映像の著作権の問題ある。
情報を発信することは誰も規制出来ない。しかし、発信者自らのルール作りは必要ではないか。


※番組ではテレビをご覧の皆さまからの お問い合わせやご要望 をお待ちしております。

次回の放送は、9月4日(日)の予定です。