● ● ● ● 11月14日 ● ● ● ●

司会 吉澤 一彦アナウンサー
上宮 菜々子アナウンサー
ゲスト 高原 篤(テレビ朝日 美術制作センター)
熱田 大(テレビ朝日 制作技術センター)


【放送内容】
11月17日(水)から5夜連続で放送される、テレビ朝日開局45周年記念 スペシャルドラマ「弟」。昭和の大スター・石原裕次郎の波乱万丈の生涯を兄・慎太郎が描いたこのドラマ、日本全国そしてハワイまで大規模なロケーションを敢行。さらに兄弟が少年・青年時代を過ごした家や成城の裕次郎邸など、ドラマの中心となる舞台をテレビ朝日のスタジオに再現。今回はこのドラマのカメラと美術を担当したスタッフをスタジオに招き、制作の舞台裏をご紹介します。

テレビ朝日開局45周年記念 スペシャルドラマ「弟」のHPは こちら


壮大なスケールで描く超大作
  5夜連続、制作費15億円の超大作、テレビ朝日開局45周年記念 スペシャルドラマ「弟」。ロケーションもセットもかつてないスケールとなりました。

・セットを作りあげた、美術監督・高原 篤さんのコメント
「テレビ朝日のスタジオに、裕次郎さん・慎太郎さんが少年期から青年期まで過ごした逗子の家など、11ものセットを組みました。本物に可能な限り近いものを再現するため、家具なども時代考証に基づいて集めたり作ったりしました」


・カメラマン・熱田 大さんのコメント
「スタジオ撮影は、主にテレビ朝日新社屋にある第1スタジオで、ハイビジョンカメラ8台を使って行いました。屋外ロケは2台のハンディカメラを持っていきました。もちろん、私自身も全ての撮影に参加しました」


貴重なメイキング映像を交えながら、制作現場のスタッフならではのエピソードをお見せしていきます。
 
蒸気機関車の撮影 ~小樽にて~
  スペシャルドラマ「弟」のクランク・インは、2004年2月。石原兄弟が幼少期を過ごした小樽からスタート。石原一家が、戦争の影響で小樽を離れ、逗子へ移り住むための旅立ちのシーンは、小樽駅のホームで本物の蒸気機関車を使って行われました。走り出した蒸気機関車は、雪煙を上げながら山間の鉄路をひた走ります。 このシーンは、昭和18年頃の設定。スタッフはどんな工夫をして、その時代の雰囲気を再現したのでしょうか。

・カメラマン・熱田 大さんのコメント
「蒸気機関車の走行シーンは、実物を走らせて撮影しました。時代設定を考え、近代的建造物が映らない山の中を選びました。蒸気機関車のパワーが足りず、4輌編成の客車の後からディーゼル機関車で客車を押さなければ、坂をのぼることができませんでした。すると、どうしても赤い色のディーゼル機関車が映ってしまい、1日目のロケは失敗に終わりました。そこで、雪を待って2日目にもう一度チャレンジしたところ、蒸気機関車が舞い上げた雪煙が、赤いディーゼル機関車を隠し撮影に成功しました」
 
雪にまつわる苦労
  冬の北海道といえば、何と言っても雪。雪にまつわるエピソードには事欠きません。

・美術監督・高原 篤さんのコメント
「石原さん兄弟の父親の会社の設定で、小樽市役所を借りてロケーションを行ったのですが、ロードヒーティングが行き届いていて、表に全く雪が積もっていませんでした。そこで、市役所の方にお願いして、トラック数台分の雪を運び込んで頂き、時代の雰囲気を出すことができました」


“積もっている雪”と共に、あるいはそれ以上に演出を左右するのが“降っている雪”。小樽の石原邸から、渡 哲也さん扮する父親が、雪降る夜に車に乗って出かけていくシーンでは、車の外から、窓越しの父親の厳しい横顔をカメラがとらえます。静かにしんしんと降る雪が、荘厳な雰囲気を演出します。

・美術監督・高原 篤さんのコメント
「ここでは演出のために偽造雪を降らせています。これは、“エコスノー”といって、とうもろこしを原料にしています。以前はスチロールや洗剤を使っていたのですが、より環境に優しくということで、こちらを使っています。ところが、ひとつ難点があって、踏まれたり、温まってくると、溶けてベタベタ撮影機材などにくっついてしまうので、撤収・回収が大変なんです」


小樽ロケが終わり、根室へ移動する前夜から、北海道は記録的な大雪と寒波に見舞われました。100人近くのスタッフ・キャストは列車で、機材や美術品などを乗せた車輌は、500キロの道のりを強行移動。列車は早朝6時に出発し、途中何度も停まりながら21時に根室へ到着。十数台の車輌は、通行止め区間を迂回しながら、翌朝9時に無事到着。丸1日かかりました。

ようやく到着した根室の撮影現場。ところが、またしても、海岸の撮影予定場所には雪がなかったのです。高波で打ち上げられた砂で、雪が埋め尽くされていました。ここでは、父親の会社の貨物船が座礁して炎上するという、物語のなかの大切なシーンを撮影します。エキストラの数も多く、撮影日をずらすわけにはいきません。そこで、トラックで雪を砂浜にピストン輸送しました。トラックから降ろした雪を、美術・技術スタッフから監督まで総出で運び、広い砂浜を雪で埋めていきました。

・美術監督・高原 篤さんのコメント
「極寒の地なので、防寒具はしっかり用意していたが、雪運びと爆破シーンを前にした気分の高揚で汗ダクになり、結局、袖を通さなかった」


・カメラマン・熱田 大さんのコメント
「慎太郎さん・裕次郎さんの子供時代を演じた子役たちが演じるシーンでは、あの寒さのなか、長時間外での撮影を続けることはできないので、一発OKで撮影するために、綿密にプランを立てた」
 
壮大なセットでの撮影
  ロケもスケールの大きなものでしたが、スタジオ撮影もこれまでにない大掛かりなものとなりました。兄弟が少年時代から青年時代までを過ごした逗子の石原邸のセットは、テレビ朝日で一番大きな第1スタジオ(約250坪)いっぱいに組まれました。

美術監督・高原 篤さんのコメント
「この家は、現存していないので、その時代に近い家を現地で探し回り、より実物に近いものを作りあげました。また、家具、調度品や数々の小物にもこだわって、映像に深みを持たせるよう、努力しました」 「撮影期間中、他の番組もこのスタジオを使うので、スタジオいっぱいのセットを4回建て込みました。父と兄弟の入浴シーンのために、檜風呂もセットの中に作りました」


・カメラマン・熱田 大さんのコメント
「実物の家の構造に近いので、カメラ同士が写り込まないよう、動きを決めるのが難しかったが、立体感のある画が撮れた。特に、中庭がしっかり作りこんであって、ここから部屋を望むところなどは、普通のセットでは撮れない立派なものだと思う」 「幼少期の兄弟が家の中を駆け回るシーンでは、8台のカメラを使って、1階から2階までノンストップで撮影しました」
 
迫真の演技を支えるスタッフの工夫
  逗子の石原邸の石原家のセットで、身長180センチを超える役者さんが大暴れしています。これは、慎太郎(長瀬 智也)と裕次郎(徳重 聡)の兄弟喧嘩のシーン。2人がもみあってから、母親(高島 礼子)が喧嘩を止めにバケツで水をかけるまで、台本にして4ページほど。役者さんの演技を大切にする監督は、この長いシーンの芝居を止めず、一気に撮影するプランを示しました。壁、ふすまや家具にぶつかり、セットを壊しながらの演技、失敗は許されません。

・美術監督・高原 篤さんのコメント
「テレビドラマのセットは、基本的な構造は木材とベニヤでできていますので、大きな男性が派手に暴れると、ガタガタ揺れたり、穴が開いたり、倒れたりしてしまいます。そこで、取っ組み合う場所に補強対策をしました。しかし、役者さんがぶつかっていくところは、軽量のバルサ材を使用し、逆に壊れやすくして安全を確保しました」


・カメラマン・熱田 大さんのコメント
「一回で決めなければならないシーンなので、本番2週間前に同じセットで、長瀬さん・徳重さん・高島さんと入念にリハーサルを行いました。複数のカメラ同士がお互いに映り込まないように、役者さんと要所要所で動きの範囲を決めておきました。目いっぱい取っ組み合っているように見えて、難しい注文にしっかり応えてくれました。さすが、プロだと感心しました」


通常はこのセットだけでも、十分にひとつのドラマが出来てしまいますが、今回は、この他にも10個のセットが作られました。慎太郎さん・裕次郎さんの邸宅も特別に中を見せて頂き、忠実に再現しました。
 
名作映画のシーンを再現
  裕次郎さんは、数々の名作映画を遺しましたが、スペシャルドラマ「弟」の中でも、皆さんの記憶に残るシーンが再現されています。演技からカット割りまで、オリジナルに基づき、忠実に再現されています。特に、「嵐を呼ぶ男」のドラム演奏シーンのセットはかなり大掛かりなものになりました。

美術監督・高原 篤さんのコメント
「昔の映画なので、セットの図面などの資料が現存していません。そこで、スチール写真や、映画のビデオを止めてプリントして、そこに映っている人物から大体のセットの寸法を割り出し、モノクロならば色も想像して、図面におこしていきました。この作業を、デザイナーさんたちが根気よくやってくれました。出来上がりを見て、今から50年近くも前に「よくこんなセットを造ったものだ」と感心させられました」


・カメラマン・熱田 大さんのコメント
「裕次郎さんのファンの記憶に残っているシーンですから、そのイメージを壊したくなかったので、プレッシャーがありました。撮影前に作品をよく見て、スクリーンとテレビ画面との画角の違いを計算に入れ、カメラアングルを研究しました。ファインダーを通して徳重さんの演技を見ていると、次第に本物の裕次郎さんに見えてきました」
 
時代を再現する工夫
  スペシャルドラマ「弟」で描かれるのは、戦前から昭和62年頃まで。当時の時代背景を映像で表すには、さまざまな苦労がありました。例えば、東京へ出る慎太郎を裕次郎が見送るシーン。ホームへと近づいてくる湘南電車の撮影を、当時の車両が今も残る大井川鉄道で行いましたが、色が湘南ブルーから赤に塗り替えられていたのです。

・美術監督・高原 篤さんのコメント
「塗り替えて元に戻そうか?ラッピングしてしまおうか?などと悩み、社内で相談したところ、CGで色を変えられることがわかった。ワンフレームごとに色を塗り替え(テレビの映像は1秒30フレームの連続した静止画で構成されている)、見事な紺色をした湘南電車が画面に現れたときは、正直、感動しました」


小樽の高台にある石原邸から見下ろす景色を撮影すると、マンションやビルが写り込んでいます。これもCG加工により戦前の風景になりました。逆に、第2次世界大戦中のシーンでは、沖に当時のアメリカの軍艦を出現させました。現在の映像技術には、裕次郎さんもビックリ、というところでしょうか。

・美術監督・高原 篤さんのコメント
「ロケ先では、様々な障害に遭遇しました。このドラマはある意味では時代劇なので、その時代にあってはならないもの、例えば、自販機、コンクリートの電柱、近代的な建物・車などの処理に頭を悩ませました。特に、海岸での撮影が多かったのですが、どこへ行ってもウインドサーフィンやジェットスキー。これには参りました。どいてくださいというわけにもいかず、CG班の仕事に委ねました」
 
豪華出演陣を迎えて
  スペシャルドラマ「弟」では、慎太郎、裕次郎兄弟だけでも、年代を分けて10人の俳優たちが演じています。渡 哲也さんは、父親・潔と慎太郎の二役を見事に演じています。晩年の裕次郎役には、三浦 友和さん、 松坂 慶子さん演じるまき子夫人が優しく寄り添います。若き日のまき子役には、仲間 由紀恵さん、2人の出会いの頃を彷彿とさせます。この他、豪華出演陣が迫真の演技でお見せします。

年代ごとのキャストの詳細は こちら

・美術監督・高原 篤さんのコメント
「小樽の石原邸のセットを組んで、初めて渡 哲也さんをお迎えしたとき、「いいセットだと、役者もやりがいがある」と言って頂いたり、逗子の慎太郎邸のセットでは、池内 淳子さんに「このセットを前にすると、身が引き締まる」と言って頂きました。美術冥利に尽きます。」


・カメラマン・熱田 大さんのコメント
「裕次郎さんが亡くなる間際に、まき子夫人と電話で昔の恋文を読むシーンを撮っていたとき、その迫真の演技に、不覚にもファインダーを覗く目に涙が滲んできました」
 

次回の放送は、12月5日(日)の予定です。