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#958
2025年4月13日

民間放送教育協会【日本のチカラ】前編

【番組司会】山口豊(テレビ朝日アナウンサー)
      八木麻紗子(テレビ朝日アナウンサー)
【ナレーター】田中萌(テレビ朝日アナウンサー)
【出演】吉永 みち子(民間放送教育協会 会長)
【VTRナレーション】石神 愛子(メ~テレアナウンサー)
          青山 友紀(山形放送アナウンサー)


民間放送教育協会が制作する「日本のチカラ」
その一部を紹介しながら、民教協の歩みについてお届けします



― 「日本のチカラ」とは ―
吉永:
その地域に根ざした文化やいろんな技術などを
継承して受け継いでいる人。大変厳しい地方の状況の中で、
新しい挑戦をしている人々。
そんな地域の宝のような人達に密着をしながら、
バイタリティー、エネルギーを伝える
教育ドキュメンタリーの番組です。



― VTR ―
ナレーション:
人々の想い、あふれる笑顔、紡がれる伝統…
心温まる物語を描く、教育ドキュメンタリー番組「日本のチカラ」
ダイジェスト版で紹介します


①<人工乳房で微笑みを~常滑焼「型」職人の挑戦~>
(2017年11月放送)

ナレーション:
約6万人が暮らす愛知県常滑(とこなめ)市
この町で生まれたのが1000年もの歴史を持つ常滑焼。
キメの細かい土肌が特徴で、使い込むほどに艶が出ます。
どうやって作っているかというと、
原料は“のた”と呼ばれる土と水を混ぜたもの。
大量生産するために生まれたのがこの石膏でできた型です。
それを作る会社が今回の主役です。
ナレーション:
マエダモールド。

常滑の伝統的な陶器の他に、トイレや洗面台といった
衛生陶器や複雑なデザインの人形など、様々な焼き物の形を作っています。

ここは会社の古い工場、
中に入ると…これはおっぱい?
陶器の形を作る会社がなぜ、おっぱいを作っているのでしょうか。

社長:前田 茂臣さん
   「
焼き物の仕事が減っていく中で、
何か自分たちの技術を新しいことで活かせないか
ということは常に思っていましたので、
そういった時に(テレビで)人工乳房のことを
知ったのが大きなきっかけになりました。」

ナレーション:
まずは3Dスキャナーを使って患者の体型を読み取っていきます。

ここからが工場長、末永さんの出番
粘土で乳房の原型を作っていきます。
工場長:末永 泰士さん

「ここをしっかりしておかないと、そのまま形に反映されてしまいますので」



ナレーション:
頭の中にあるイメージを微妙な力加減と繊細な指の動きで
形にしていきます。


工場長:末永 泰士さん
   「
衛生陶器とか急須ですね。曲線の多いものの作業で覚えたりとか、
目で見て覚えたりしています。」

ナレーション:
原型から作った型にシリコンを流し入れて固めていきます。
型から取り出すと立体的なおっぱいに。
縁の部分にある膜は厚さ1ミリ以下、
この薄さを出せるのは末永さんだけです。

この人工乳房に色を付けるのが事業部長の前田一美さんです。


人工ボディー事業部長:前田 一美さん
   「
ベタ塗りするとマネキンみたいな感じの色合いになってしまうので、
少しずついろんな色が重なり合って肌色になっているというか。
肌になじむということは、血色が良くて命がある乳房なので、
それをいつも意識して作っています。」

ナレーション:
マエダモールドの自慢の一つが、職人技を生かした周りの膜です。
専用の接着剤で肌に付けると薄く透けているので、
境目が分からないほど、肌となじみます。
水に濡れても取れないので、お風呂にも入れます。

乳がんの早期治療を促す意味でも、人工乳房が役立つと土井先生は話します。

湘南記念病院:土井 卓子 医師
   「
今までは“(切除は)嫌です”の一点張りだった方も多いんですよね。
それが“今は人工乳房もあります”と言うと、
受け入れが早くなって、治療の進みも良くなるということもあります。
取った後に、じゃ再建できますとか、人工乳房あります。
次の選択肢がないと説得のしようがないんですよね。

つまり、治療に関しての説明はできても、
感情論になってしまうと私たちは説得のしようがなかったんですね。
それが次の選択肢を提示することで、
患者さんは納得してくださる方も増えてきてますね。」


ナレーション:
マエダモールドが始めた新たな挑戦、おっぱいの次は…鼻に耳。
病気やけがで体の一部を失った人のために、
エピテーゼを作る取り組みを始めています。


工場長:末永 泰士さん
   「
すごい難易度が高くなってくるので、部位が変われば変わるほど
挑戦する気持ちがすごい大事だと思うので…」


人工ボディー事業部長:前田 一美さん
   「
治すことはできないんですけれども、
その人が少しでも豊かに生きられるような、
将来が明るくなるようなものを作りたいと思っています。」



― VTR感想 ―
山口:本当に前向きなメッセージが伝わってくるんですけれども。

吉永:
常滑焼の型づくりを今までずっと稼業として代々続けてきたものが、
時代の変化によって、生き延びることが難しくなった時に
「じゃあ何ができるだろう」と諦めないで考えていたということですよね。

― VTR ―
②<なりたい自分になるって決めたんだ!~夢見る 車いす女子~>
(2020年6月放送)

車いす女子:渋谷真子さん
   「
皆さんこんにちは、現代のもののけ姫こと真子です。
今日は普段、車いすになって初めて気づいたことなんですけど、
坂道を上るのがめちゃくちゃ大変だってことに、
車いすになってから感じて」

ナレーション:
2年前までイケイケギャルで山をかけるマタギだった渋谷真子さん。
今は下半身麻痺のリアルな生活を動画で配信する車いすユーチューバーです。

真子さんはこれまで70本以上の動画を投稿、
チャンネル登録者数は6万8000人、
総視聴回数は1,400万回以上(2020年6月3日 現在)

お父さんは山形でも数少ない、かやぶき職人です。


渋谷真子さん
   「
仕事の面とか尊敬できるし、それこそ何でも作れるし、
なんでもやってくれるからすごいなって思ってるけど」

父:一志さん
   「子どものためなら命を懸けて」

ナレーション:
この日は友人がインタビュアーとして撮影に参加します。
加藤 愛彩さん
昨年末、グアムに二人で旅行した同じ年の親友です。この日のテーマは…

渋谷 真子さん
   「
今日は私が下半身麻痺になってから、ずっと不安というか疑問というか、
悩んでいたセカンドバージンについて、お話していこうと思います。」
ナレーション:
真子さんの動画の特徴は、障害者が抱えるデリケートな悩みを
包み隠さずさらけ出すこと
この動画は脊髄損傷患者の大きな悩みの一つ、
排泄障害について伝えたものです。
自らの体験を踏まえ投稿したところ、
視聴回数は370万回1100件を超えるコメントが。

渋谷 真子さん
   「
個人的には歩けなくなったよりも、そっちの方が本当に嫌で、
排泄障害を持ったというものが嫌なんですよね。
周りが知っていれば、失敗してしまった時の自分の心がすごい傷つくのか、
そういうものとして理解してくれてる人たちがいることで
ちょっと救われるのかというのが、多分全然違ってくるなって思ったので…」

ナレーション:
真子さんは平成3年、3人兄弟の末っ子として生まれました。
実家が民宿を営んでいたためか、人見知りせず、
お客さんの前でおどけたり歌ったりすることが大好きな女の子でした。

高校卒業後、地元の会社に7年間勤めた後、真子さんは一念発起。
父のもとで、かやぶき職人を目指したのです。

26歳。新しい夢に向かって大きく舵を切った真子さん。
事故はその矢先のことでした。


渋谷 真子さん
   「
作業をしている時に自分で誤って、屋根のへり
約3メートルくらいの高さから斜めに落ちちゃったので」

父:一志さん
   「
“もう足、歩けないね”なんて、自分から言ってた。
俺が夢を摘み取ってしまったような気持ちになって、その頃は…
それから立ち直るまでは、はっきり言って大変だった。」

渋谷 真子さん
   「
本当にいろんな人から聞かれますけど、言うほど落ち込んではないです。
落ち込んだか、落ち込んでないかって言われたら、落ち込みましたけど、
すごい、みんなが想像するほどは落ち込んでなくて…」


ナレーション:
底抜けに明るい真子さんですが、ブログには心の奥にある想いが…


真子さんのブログより

もう屋根には登れない。自分の原点の山にタケノコや山菜を気軽に採りに行けない。
好きな人の隣をヒールを履いて歩くこともできない。
当たり前のことが、一瞬でできなくなった。
そう考えたら涙が溢れた。

でも泣くのは今夜だけ。朝になったらまた前を向く。

私は車いすで過ごすことになっても、誰よりも楽しいと思える人生でありたい。

ナレーション:
真子さんは週2回、近くのリハビリ病院に通い、歩行訓練を続けています。

渋谷 真子さん
   「
夢の中で歩く夢をまだまだ見るんですよね。
その時、これが現実なのか夢なのかそういう考えもなく、
その時はその夢の中を楽しんだ後に目が覚めて、
ああ、そうだよな、あれは夢だったんだなみたいな。
はい、動きませんみたいな。
でもやっぱり目覚める度、目覚める度、ちょっと今日は神経が通ってるかなとか。
変化があるかなと、動かしてみようっていう気持ちはあるので
あー、動かないか、みたいな…。」

ナレーション:
それでも真子さんは笑顔で前に進みます。次の目標はなんと!

渋谷 真子さん
   「
めちゃくちゃ欲を言うと、映画とかドラマとかが楽しそうで、
女優として演技、イケメンの人とのキスシーンとかヤバくない(笑)
やりたいね。あったら面白いなって思います。」

― VTR感想 ―
八木:
本当に出てくださっている方からもパワーを感じます。
あと、このドキュメンタリーを制作している人も、
本当に心を込めて作っているんだなっていうのを感じました。


吉永:
ただこんなことで上手くいきましたよっていうことではなくて、
彼女も「歩けなくなってしまった」って明るく語ってらっしゃるけど、
やっぱりそこを乗り越える力というものを目の当たりにして見ると、
私たちが弱音を吐いていることがちょっと恥ずかしくなったり、
自分でも何か考え方を変えるとか見方を変えるとか、
そう思ったら何かができるんじゃないかというような
希望につながっていくのかなという感じが、やっぱり画面から受け取れますよね。

― 「日本のチカラ」を制作する“民間放送教育協会”とは? ―
吉永:
長い歴史のある組織でして、昭和42年に文科省の認可を受けて、
教育の機会均等と振興という放送が、それにどんな寄与ができるだろうか
という志を持った局が全国で33局集まりました。
テレビ朝日だけではなくて、系列を超えて
各エリアの放送局が参加してくださっています。
いろんな局の文化も違いますし、面白い組織だと思います。

さきほどのVTRにあった真子さん、山形放送が制作をしました。
山形放送はテレビ朝日系列ではなくて、日本テレビ系列の放送局なんです。
ここで作った番組を関東エリアではテレビ朝日が放送するということです。

また例えば静岡の方でしたら、ここはTBS系列の静岡放送さんが放送するという、
そういうように系列を超えてとNHKと系列以外で全国をネットできるというのは、
この放送網だけなんです。



― 「日本のチカラ」伝えたいことは? ―
吉永:
人間が本来持っているはずの力というものが、
今はすごく早く諦めてしまったり、所詮ダメなんだよって思っちゃう方が
楽な場合もきっとあるかと思うんです。
でも実際に厳しい状況の中でも頑張っている人の姿、その人の言葉、
その周りの状況っていうようなことを知ることによって、
もう一度、消えてしまったかもしれない力を呼び戻すことができたりするという、
人間の強さというものを伝えられるドキュメンタリーで
ありたいと思います。