バックナンバー

#950
2025年2月16日

第64回 テレビ塾
「熱戦のパリ五輪を振り返る」②
~日本中に感動をもたらしたスポーツの祭典の知られざる舞台裏~

【司会】山口豊(テレビ朝日アナウンサー)
    八木麻紗子(テレビ朝日アナウンサー)
【ナレーション】田中萌(テレビ朝日アナウンサー)
【出演】井奥 一樹(プロデューサー)
    小泉 貴子(ディレクター)
    秋山 圭一郎(報道デスク)
    住田 紗里(テレビ朝日アナウンサー)



前回は、徹底した「現場主義」、キャスティングの決め方、急きょ決まった中継の舞台裏、新しい試み“インフルエンサー・ポジション”について紹介しました。

今回は、報道デスクの仕事や、現地での食事事情などを紹介します。
<テレビ塾>
18歳以上の視聴者の皆様を対象に、テレビ朝日スタッフが
テレビの仕事・仕組みについて分かりやすくお話しする企画です。
リモートで開催されました。

― 報道デスクの仕事について ―

住田:
ここからは競技中継以外、報道情報番組のデスクの仕事という視点から
お話しいただきます。


~報道デスクの仕事 概要VTR~

NA:
オリンピックを盛り上げるため、報道・情報番組の取材や
調整を一手に担うのが報道デスクの役割です。

住田:秋山さん中継の手配など、ありがとうございました。
― 現地での苦労…日本とフランスの時差 ―

住田:
パリで苦労したことの一つに“時差”があります。
オリンピックの時は、現地はサマータイムでしたので、
日本とパリの時差は7時間ありました。
日本が7時間進んでいる中、秋山さん、
報道デスクとしてどんな苦労がありましたか?

秋山:
日本時間の午前1時から3時ぐらいの間に
メダルの獲得が決まる競技が非常に多かったので、
その直後からいろんな取材や中継が可能なのか…素材はあるのか…
VTRの原稿はこれで放送してよいのか…などのリクエストが
各報道・情報番組から次から次へときます。

日本で報道・情報番組が放送される時刻、
パリでは、前日の夜中から当日の昼過ぎなので、
取材の仕込みやVTRの内容を確認するにしても、
競技を担当しているディレクターも短い睡眠時間の中で動いているので
僕が連絡したり、LINEを投げても、すぐには確認できない状況でした。

一方で、報道・情報番組もいつになったら回答をくれるのかとなり
板挟みの中、悶々と1人スタッフルームで仕事を進めるのが
精神的に本当につらかったな
というのが苦労したことですね。

住田:
7時間の時差がある中での作業なので、秋山さんが稼働しているのは
パリ現地ではとんでもない時間でした。
みんな必要最低限の休みは取らなければならないので、
周りにあまり人がいませんでしたよね?

秋山:
スポーツのディレクターで取材の仕込みが間に合わなかった人が
1人か2人ぐらいで、僕はポツンと12時間ぐらい
スタッフルームにいました。


住田:中継を準備する上で、秋山さんが意識していることは何ですか?

秋山:
今回のパリ・オリンピックでは、テロ対策で厳重な警備体制、
円安での物価高、気温が40度近いパリでエアコンがなかったり、
セーヌ川の水質の問題であったり、女子ボクシングの性別の問題などが
日本でも大きく取り沙汰されたと思うんですけれども、
日本で話題になっていることと、パリ現地で実際に起こっていることは
ギャップというか、感じ方も違うところも正直ありまして、
パリ現地にいるからこそ、意味のある取材・中継を行い、
見ている人たちにも身近で体感していただけるようなことを
一番大事だと考えて、取り組んできました。


また、各競技を深く取材し続けているスポーツ局のディレクターが
普段から選手や家族と親密な人間関係から培ったものがある中で、
勝った時やメダルを獲得した時は、すごく取材がしやすいのですが、
万が一メダルが獲れなかった時、負けた時はカメラやマイクを
向けづらいという心理的なこともありまして、
そんな時こそ、報道局から派遣された記者ディレクターは
選手との関係性がスポーツ局のディレクターほどないので、
臆することなく、家族取材や監督やコーチなどの
周辺を含めた取材の声を拾っていけるという強みもあります。


井奥:
競技の取材をしている中で、たまたま追いかけていた選手が会場の外で
家族にメダルをかけるところを撮れちゃった時、
中継番組の中で放送できる時間ではなかったりするので、
何とか報道・情報番組に入れて伝えてくださいと
秋山さんに相談して、放送していただくこともありました。


秋山:
中継と報道・情報番組で相乗効果を持って盛り上げて。
日本中が盛り上がったのが結果として表れているのかなと
思っております。

実際にパリで取材を続けた住田アナウンサーは、現場で感じた
ことを中継で、自分の言葉で色々伝えてくださいましたけども
意識したこととかいかがでしょうか?

住田:
とにかく現場で感じた事実をお伝えすることを
すごく大切にしていました。


日本の報道で言われていることと、現地で実際に街録(街の人に
インタビュー)をしたのですが、その時に出てくる話が全然違ったり
するんですね。

特に一番感じたのがボクシングの性別の問題についてです。

※ボクシング女子の性別論争
 国際ボクシング協会による性別をめぐる資格検査で不合格・失格となった選手が
 パリ五輪では国際オリンピック委員会によって出場が認められた


住田:
私は台湾の選手について取材をしたのですが
試合前に街の人に「どう思いますか?」とインタビューすると、
日本ではジェンダー問題として取り上げられていたと思うのですが、
現地の人達は、「彼女は女性として出ているんだから、
それでいいじゃない」、「彼女がベストを尽くせるように応援するよ」
という意見が大半でした。
日本とはギャップがあるので、どうやって私の言葉で埋めて
いくのかということを考えながら、「やはり事実をお伝えしたい」
思ったので、それを意識して中継をさせてもらいました。

秋山さんに日本との連絡をしていただいて、いっぱい迷惑をかけました。

秋山:
何度かオリンピックの現場には行きましたが、
今回のアナウンサーほど「仕事させてくれ」「こういうことをやりたい」
とアピールしてきた3名(寺川 俊平・桝田 沙也香・住田 紗里)は
今までに見たことない勢いだったので、
正直、今だから言えますけれども、本当に苦労しました(笑)

その思いが画面に出て、当初なかった構成の中でも、
自分の言葉でまとめて中継していたりすると
ちょっとドキッとするのですけれども、
現場ならではの肌で感じたことを
アナウンサーには中継していただいた
と思っております。

住田:本当にその節は大変ご迷惑をおかけしました(笑)


― パリ現地での食事事情・プライベートの過ごし方 ―


井奥:
パリ現地では簡単に日本食が手に入らないですし
作業をしている近くに食べるところが豊富にあるわけではないので、
レトルト食品やカップ麺とか食べたくなるんですよ。

美術スタッフにスタジオセット裏の壁に棚を作ってもらい、
カップラーメンなどを置いて、食べたいものを食べていくというような
生活をしていました。


秋山:
世界中のテレビ局のスタッフルームがある国際メディアセンターの
食堂にスタッフと一緒に食べに行った時の写真です。

ラザニアとコカコーラなんですけど、セットで3,800円でした。
いやー、もうビックリですよね。
ラザニアが3,000円でコカコーラが800円。
入れ物を返すと200円返ってくるので、僕はケチなんで、
すぐに入れ物を返して3,600円にしたのですが
井奥くんや小泉さんは記念に持って帰るために
「200円はケチらないよ」と言っていたと思います。

店によりますが、日本で食べたら1,000円くらいのランチだと
思うんですけど…。


住田:
私はとにかくパリにいる間はずっーと動いていたいと思って、
空き時間があると、行ってみたいと思っていた
パン屋さんとかケーキ屋さんに1人で行って、買ってきて、
取材の出発時刻のギリギリまで部屋で食べてました。
― 質問コーナー ―

住田:他局との連携はありましたか?

井奥:
実はめちゃくちゃいろいろありました。
本当に協力的で“みんなで一緒に頑張ろうね”と。
例えば、セーヌ川で行われた開会式、初めて競技場を使わない取り組み
だったのですが、何カ所も何カ所も撮影場所がある中で
1局の少ないスタッフとカメラクルーで全部撮りきれるわけが
ないですよね。
そんな時にいろんな局で「ここはテレビ朝日が担当します」
「ここはフジテレビが担当します」みたいに別々で撮影し、
後で撮った映像をシェアして、みんなが使えるようにするなど
全局で協力することは結構多かったですね。


報道・情報番組などで、メダリストが各局にやってきて10分ぐらいの
インタビューをする場合、順番はどうやって決めるのかというと、
テレビ朝日だと「報道ステーション」の時間に選手が出演してくれることが
多かったのですが、
「生放送でやりたいんだけど」と伝えると、「生放送なら優先だよね」
と言って、各局がいろいろ気を使ってくれる。


逆に生放送で気にしてもらった分、順番を譲ることもあったりと
うまく連携したところは随所にあります。
小泉:
競技によっても違うと思うんですけど、卓球は本当に各局みんな仲良く
協力し合おうという体制がすごくて。
例えば、選手のお母さんがどこにいるか探していたら、
「あそこにいるよ」とか
共通のグループLINEを組んで、情報などを送り合ったりとか、
みんな協力的にやってましたね。


ただ競技によっては、ライバル関係みたいな時もありました。

井奥:
僕は日本に帰ってきてから、他局のプロデューサーとみんなで
打ち上げをしました。


― メッセージ ―

井奥:
スポーツという凄く大きなものに対して、我々ができることは、
本当に小さいことだと思っています。
1つの出来事を少しアングルを変えて見てみたらどうだろうかとか、
ちょっとしたスパイスを加えたりとか…

あくまでも主役は選手であり、スポーツそのものだと思っているので、
我々ができることはそういうことなんですけれども。

せっかく今日、皆さんに話を聞いてもらったので、
今日からスポーツを見る時は、現場はどうなっているんだろうと。
「すごく暑いのかな」「観客がいっぱいでどんな歓声なんだろう」など
想像しながら見てもらうことで、また1つ深い魅力が伝わるかなと
思いますし、我々が地道に小さなことでも伝え続けていることが
視聴者の皆さんに広がって、魅力に気づいて見る人数が増えていく中で
我々の仕事の役割も大きくなっていく、
そんないいサイクルができると
本当にいいのかなと思っていますので、こういう仕事に魅力を感じて
いただけたら嬉しいですし、ぜひそういう目線でこれからも
スポーツを見てもらえたらと思っています。
今日はありがとうございました。
小泉:
オリンピックは選手にとって4年に1度の大舞台。
スポーツに携わっている者からしても、歴史的な瞬間を伝えられる、
本当に大事なイベントだと思って、日々仕事をしています。

その瞬間に関われることをありがたいと思って、
今後も仕事をしていきたいと思っています
し、
テレビ朝日、今後も大きいスポーツイベントたくさんありますので、
ぜひ注目いただけたら幸いです。
今日はありがとうございました。
秋山:
現地に行けたスタッフは、世界一を決める競技や選手たちを
目の前で見られる幸せを本当にひしひしと感じて、時差のある中、
3週間以上、短い睡眠の中で、取材や中継に臨んでいます。
思い通りの展開にハマって手にした映像やインタビューを
中継や報道番組を通して他局よりも先んじて放送できるのは
本当に喜びに満ちた、やりがいのある仕事は他にはないと
僕自身感じています。

このテレビ塾を見られてる方が、少しでも興味を抱いて
近い将来、テレビ朝日のオリンピック中継や報道・情報番組を
見ていただける、または自ら望んでそういうところに
携わっていただければ、とても嬉しいことだと思っております。
ご清聴ありがとうございました。
― 第65回「テレビ塾」参加者募集 ―
「ABEMA NEWSの仕事とは?」
~インターネットと地上波の融合「新しい未来のテレビ」その知られざる舞台裏とは~
日時: 3月8日(土) 14:00~15:30
場所: Zoomウェビナーによるリモート開催
応募方法:「テレビ朝日 テレビ塾」 検索
お問合せ: 03 6406 5555(2月27日(木)応募締切)