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#949
2025年2月9日
第64回 テレビ塾
「熱戦のパリ五輪を振り返る」①
~日本中に感動をもたらしたスポーツの祭典の知られざる舞台裏~
【司会】山口豊(テレビ朝日アナウンサー)
八木麻紗子(テレビ朝日アナウンサー)
【ナレーション】田中萌(テレビ朝日アナウンサー)
大海 吾郎
【出演】井奥 一樹(プロデューサー)
小泉 貴子(ディレクター)
秋山 圭一郎(報道デスク)
住田 紗里(テレビ朝日アナウンサー)
【VTR】松岡 修造(キャスター)
安藤 萌々(テレビ朝日アナウンサー)
八木麻紗子(テレビ朝日アナウンサー)
【ナレーション】田中萌(テレビ朝日アナウンサー)
大海 吾郎
【出演】井奥 一樹(プロデューサー)
小泉 貴子(ディレクター)
秋山 圭一郎(報道デスク)
住田 紗里(テレビ朝日アナウンサー)
【VTR】松岡 修造(キャスター)
安藤 萌々(テレビ朝日アナウンサー)

<テレビ塾>
18歳以上の視聴者の皆様を対象に、テレビ朝日スタッフが
テレビの仕事・仕組みについて分かりやすくお話しする企画です。
リモートで開催されました。
テレビの仕事・仕組みについて分かりやすくお話しする企画です。
リモートで開催されました。
- 井奥:
- このチームみんなで大事にしてきたのは、“現場主義”です。
今日は現場主義について、お話ししたいと思います。




<キャスティングの決め方>
- 井奥:
- 準備の第1段階は、キャスティングです。
松岡 修造さんをメインとして内田 篤人さん、
安藤 萌々アナウンサーという報道ステーションのスポーツコーナーと
大きく関わる出演者を中心としました。
各競技にはスペシャリストの解説者のみなさんに力をお借りし
現地と東京でパリ五輪の様子を伝えていただきました。
自身の深みのある経験を語ってくださるアスリート出身の
キャスターであることを重視しました。
また、取材者として選手に寄り添っていただける方
選手が考えている心の内に秘めたことを聞き出し、
伝えていただける方を選びました。
小泉ディレクターは中継ディレクターとして、また
卓球の取材も担当したのですが、
解説者の平野さんはどんな人ですか?

― 卓球の解説者、平野 早矢香さんはどんな人?
- 小泉:
- 何回も卓球会場の現場へ同行させていただいたのですが
とにかく選手からの絶大な信頼を感じました、
試合前の練習は、我々では絶対に声をかけられないような緊迫感、
緊張感があるのですが、
平野さんを見つけると選手が寄ってくる。
そこで今のコンディションについて“ちょっと右腕が張ってる”とか
“このスマッシュが調子いい”
などの情報をこちらが聞くまでもなく、平野さんに語ってくるんです。
我々はそれを聞いて、カメラマンに伝え、意識した撮影をすることが
でき、現場で本当に何回も助けられました。
絶大な信頼を誇る平野さんだからできたことだと思います。
― 放送種目の変更について ―
これはゴルフの男子になります。
松山英樹選手の銅メダル獲得の瞬間を伝えることができたのですが、
当初は、中継が決まっていなかった種目なんです。
各局が、どのような種目を放送するかというのは事前に決まっているの
ですが、準決勝や決勝に日本人選手が残るかどうかは分からないですよ
ね。
やっぱり日本の選手の活躍を日本の放送局として国民に届けることが大
前提としてあるので、
日本人選手が残らなかった場合は、他の種目の放送を検討しても良い。
という独特のルールがありまして。
このゴルフの最終日の枠に、我々はバドミントンと体操の中継を
予定していたのですが、残念ながら日本人選手が敗退してしまったので、
松山 英樹選手のゴルフをお伝えしたいということを検討して中継する
に至りました。
ただ、ゴルフの試合は4日間あるので、例えば1日目が調子良くても
2日目に調子を落とすことはもちろんありますし、
松山選手が活躍するかどうかはわからない。
そんな状況の中、数日の間に決めて中継の体制をつくり、
どういう伝え方をしていくかなどを急ピッチで仕上げていきました。
結果、我々の願いも実り、銅メダル獲得の瞬間をお伝えすることが
できました。
一つの成功体験かなと思いますので、
そこにどういった苦労があったかのをお伝えします。
― VTR:当時のゴルフ中継の裏側 ―
- ナレーション:
- どんな表情で現れるか、その瞬間を捉えるべく
会場入りを長時間張り込み続け、リポートを撮影。
さらにこちらは試合直前練習、
練習の様子を背負って中継を行いました。
- 松岡:
- リオ、東京、3つ目ですよ。
正直言ってゴルフがフィットするかどうかと疑問視された。
完全にフィットしていますね。
何といってもこのギャラリーと選手たちがすごいことになっていますよ
ね。
- 安藤:
- スター選手たちが来て、大きな拍手がここまで聞こえてきました。
松山選手の最終日、いよいよです。
- 小泉:
- (VTRを流しながら)
このように試合前はもちろんなんですけど、試合が始まっても
リポートを随時入れ込みました。
会場が背景になるところや、お客さんがたくさん入っている様子が
伝えられる場所を、とにかく18ホール歩き回って探しました。
撮ったらすぐに移動して、生放送なのでいつリポートが来るか
わからないので、とにかくもう走り回った2日間でした。
制作だけではなく出演者、技術さん、力を合わせて“現場主義”に
とことんこだわったからこそできた中継だったと思っています。

― 突然決まったゴルフ中継、どんな苦労があったのか ―
- 小泉:
- 中継をすることが決まったのが2日前、残された時間は1日。
通常はこういった中継の場合は1週間前ぐらいに下見を終えて
会場の導線やカメラポジションなどをあらかじめ把握しておくのですが
もう1日しかないということで、急きょ前日に試合があったので
松山英樹選手の試合前から、べったり張り付いて、
試合の何時間前に会場に入って、いろいろある練習エリアを
どういう順番で何分ぐらい滞在して回っていくのかを
次の日の撮影に生かすべく、本当に熱狂的な追っかけのように
松山さんを前日追い掛けました。
実際に試合が始まったとき、一番のキモとなるホールはどこなのか、
松山選手が得意なホールはどこなのか、を確認しつつ
そのホールの難しさが見渡せる場所をひたすらカメラマンとともに
前日下見をしました。
当日、撮影開始5分前に会場の警備担当が来て
「ここで撮影したらダメだ!」と言われ、
あと5分しかないし、前日許可をもらっているのに、
本当に私のつたない英語とボディーランゲージで
なんとか場所をギリギリ確保しました。
修造さんも安藤アナウンサーもいる中、本番当日
冷や汗をかきました。

― 撮影に関して、今までにない取り組み ―
- 小泉:
- 今回のパリオリンピックで活用したのが“インフルエンサーポジション”。
オリンピックはルールがかなり厳密に定められていて、
会場でもここからしか撮影できない、ここから先はメディアは
入れないというルールが厳密にあります。
会場によって、どこに“インフルエンサーポジション”が設けられている
かはバラバラなのですが、共通して言えるのは
“選手と圧倒的な近さで撮影できるポジション”ということです。
このポジションには1名だけ入れて、しかも普段カメラマンが
持っている大きなカメラではなく、小さいカメラやスマートフォンで
撮影が許されている斬新なポジションです。
― VTR:インフルエンサーポジションでの撮影 ―
- ナレーション:
- 試合直前、選手たちが最後の調整をするウォームアップエリア。
柔道では、この緊張感が溢れるエリアで
いくつもの貴重な映像を間近で撮影することができました。
例えばこちら。
試合前のは阿部一二三選手。
阿部一二三選手の視線の先には妹・詩選手の試合。
そして詩選手は…無念の敗退。
その瞬間の一二三選手です。
この時、妹のためにも絶対に負けることはできない。
そう思ったという一二三選手、詩選手の思いを背負って
自身の試合へと向かっていく瞬間の決意と緊張感を
撮影することができました。
さらにこちらは卓球の現地解説を担当した平野早矢香さん。
卓球会場では選手が試合を行っている真後ろのエリアで
撮影することができたのです。
こちらは平野さんが実際に早田ひな選手の3位決定戦を
撮影した映像です。
見事銅メダルを獲得した早田選手。
試合後、こんなシーンが撮影できました。
平野「ひなちゃん、おめでとう」
早田「ありがとうございます」
- ナレーション:
- 緊張から解き放たれた安堵の表情、目の前のポジションを
いかしたからこそ、撮影できた映像でした。
― VTRを受けて ―
- 住田:
- ここまで近くで選手のリアクションや表情が見られるんですね。
- 小泉:
- 撮影した素材を改めて見ると、選手の息づかいまでも映っている素材も
ありました。
本当に緊張感・臨場感がリアルに伝わってくるポジションだったと
思います。
中継でも、実際にスマートフォンに配信機材をつけて
放送センターに映像を飛ばし
撮れたての映像を中継に入れ込こむこともできました。
大きなカメラでも試合を撮っているのですが
同じ試合を撮影しているのに、大きなカメラで競技を撮影してる
ポジションとは全く別種類の映像が撮影できたので、
本当に貴重な素材ができたと思っています。
- 井奥:
- 素材を見ると「ここタイムだよ」「仕切り直して」
みたいなことを言ったりしているんですね。
すぐ側にいるからこその目線だったり、声だったりが
“現場主義”を持ってスポーツの本質を伝えたいと思っている
我々にとって非常に大きな手段だったと思いました。
― 視聴者からの質問コーナ―
- 住田:
- どの放送局がどの競技を中継するかというのは、
どのように決められているのでしょうか。
- 井奥:
- オリンピックの競技の中継は、日本で1つしかつくらないんです。
NHKと民放5局が協力するジャパンコンソーシアム。
我々は略してJCと呼ぶ組織がありまして、そこが一括して
放送の権利を得ています。
NHKと民放で放送枠を配分して放送します。
したがって、全局で共同体となって1つの中継をつくり
日本に届ける中継映像は1つにするという大前提のルールがあります。
NHKと民放でどういう種目を中継するかを大きく分け
その後、民放ではどの局がどの種目を中継するか、公正な抽選を行います。
ですので、どういった種目があるかを見渡しながら
やっぱり快挙を伝えたい思いは大きいので
2年後の選手の活躍具合とか、メダルの獲得の可能性がどうなのかとか、
そういうところをリアルに想像しながら、
2年前ぐらいからシミュレーションをしていくというのが
我々の作業になります。
最後は運なので、年明けには神社に行って、お祓いをしてもらって
身を清めて当日の抽選に臨むと。
結果的には望み通りの一番放送したかった、柔道の阿部一二三・詩選手が
獲得できたので、みんなで大喜びしました。

― テレビ塾前半の感想・スタジオ ―
- 山口:
- やっぱりオリンピック舞台裏、ギリギリのところで
場所を決めて中継している…なかなか生々しかったですね。
- 八木:
- でも映ってないところは本当にあのバタバタで
やっぱり“現場主義”を大切にしていたからこそというところが
あったんだと思います。
- 山口:
- スポーツってその瞬間瞬間にどういうドラマがあるか
分からないから、臨機応変に対応するのがすごく大事なんでしょうね。