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#941
2024年12月8日

「劇場版ドクターX FINAL」
脚本家・中園ミホとプロデューサー・内山聖子が語る(後編)

【番組司会】山口豊(テレビ朝日アナウンサー)
      八木麻紗子(テレビ朝日アナウンサー)
【ナレーター】田中萌(テレビ朝日アナウンサー)
【ゲスト】中園 ミホ(脚本家)
     内山 聖子(エグゼクティブプロデューサー)
2012年のテレビシリーズ開始から12年、
「ドクターX」は12月6日に公開された映画でファイナルを迎えました。
今回は、脚本家の中園ミホさんと
エグゼクティブプロデューサーの内山聖子さんに
「ドクターX」12年間の舞台裏をお聞きします。

<「ドクターX」の脚本>
― 内山さんから脚本に注文をすることはありますか?

(内山)
「はやく!」
それは冗談です。
脚本は、詰まってしまうと脚本家の中でむけるまで死闘されると思うんですよ。
そこに何か、ちょっとしたことをチューニングしてあげられたり、
全然違う話をしている時に、書く人の中で何かが弾けたりしないかなと。
本当に詰まってしまうと、中園さんに限らずですが
そこから脱却できずもがいている姿をよく見るというか
よく体験しているので、気持ちはわかるつもりなのですが
「はやく」って思います。


(中園)
私は脚本を書き上げるのが本当に遅いです。
内山さんは本当に待ってくださいます。
寛大で信頼してくれているんだと思います。

(内山)
苦しいんですよね。

(中園)
そんなことを言ってくださるのは内山さんだけです。
「飲み過ぎなんだよ」って他のプロデューサーは思っていますから。

<主人公「大門未知子」>
― 個性的なキャラクターの主人公大門未知子。
視聴者の方はどう感じているのでしょうか?


(街頭インタビュー)
失敗しないのでというセリフは、私でも知っているくらいなので。
 米倉涼子さんの活躍が魅力です」
「強い女性のキャラクターがすごく好きで、カッコいいなって思う。」
「自分は、大門未知子がロールモデルだと思って生きている。」
「男性がいろんなことを言っても気にせずに、自分の好き勝手にやっている。
 それを貫いているところがかっこいい。
 それが面白いし、スカッとするところかなと思います。」
「観たあとの爽快感、悪者を倒すのが女性というのがすごく良かった。」
「女性が見て憧れるような素敵な女性だと思います。」
(内山)
テレビドラマのシーズン1の立ち上げを中園さんが脚本にしてくださって、
キャスティングを私が決める際、いろんな方に相談をした時に
「痛快である」とか、「爽快感がある」という印象だったので、
根強い人気になったんだなと思いました。

(中園)
私はスパッと言ってパッと帰っちゃうそういう人物を描くのが好きで、
叩き上げの職人さんがすごく好きです。
米倉さんが大門未知子というキャラクターを有機的にしてくれました。
私の脚本だと、ただの勝手な手術オタクの女性になっていたと思います。
シーズン1の第1話の手術後に、
米倉さんが患者さんの胸に手を置くんです。
それを見た時泣いてしまって。 全然シナリオには書いてないんです。
内山さんにその話を聞いたら、
彼女がそのように演じたがったので、あのシーンができたと聞きました。
あれが米倉さんの生命との向き合い方なんだと思って、
本当に米倉さんが大門未知子にしてくれたと思います。


(内山)
そこはもう、医者も患者も同じように戦っているので、
「一緒によく戦いましたね、お疲れ様という意味を込めたい。」
という風に言っていました。
もちろん中園さんの脚本のベースの中にそういう未知子像があって、
それを米倉さんが増幅させたところが大きかったのだと思います。

<時代を映す脚本>
(中園)
ドラマがスタートしてからこの12年間で一番大きな事件はパンデミックです。
「ドクターX」は爽快な医療ドラマなので、
もう新しい作品は作れないのでは?と思っていました。
その時に、コロナにかかった経験のあるニューヨークの
スーパードクターをリモートで取材し、シリーズ7は思いきり
「パンデミック」を描こうということになりました。
あとはコンプライアンスですね。
大門未知子はかなりまずいんじゃないでしょうか?(笑)
「いたしません」ってもう本当に切り捨ててしまうし、
「手術下手でしょ?」や、患者さんに「手術しないと死んじゃうよ?」
と言うし、かなりやばい人ですよね。

(内山)
世間の閉塞感が少し出てきた時に「ドクターX」が始まり、
コンプライアンスを無視する大門未知子が命を救う。
社会のコンプライアンス意識が強くなってきている中で、
その意識によって自分たちを縛るようになり非常に生きづらくなり、
表現もしづらくなった背景が番組を痛快に感じさせたのかもしれません。
大門未知子には人間臭さがあります。
せめてドラマとかフィクションの世界では、
そんな人達を愛嬌たっぷりに描くのは良いと私は思います。

<愛され続けた理由>
(内山)
大門未知子の痛快さ、覚悟を持った「失敗しないので」という信念がある一方、
やんちゃな周りの御意軍団の方々。
蛭間さんのような愛嬌たっぷりの社会風刺もあり、そのバランスが良かったのだと思います。
どんなに面白くても、こんなに長く高い視聴率を維持したドラマはないというか難しいんです。
それが変わらずに維持できたのは、自分たちで分からない何か別の魅力があったのかもしれません。
痛快さとウィットに富んだ社会風刺があるからだと思っています。


(中園)
私は強い女の人を描くのが好きなのです。
一生懸命に働いているOLさん。
非正規雇用の方が頑張って毎日つらいのに会社へ行っている。
そういう方たちを元気づけたくて大門未知子を書きました。
途中からはドラマの視聴者が、そういう女性だけじゃなくなりました。
実は、中間管理職のおじさんがハマって観てくださっていて。
放送日は居酒屋に行かずに放送を観てくださっているという声を聞き
「ああ、なるほどな」って。
本当に周りの支えてくれてくださっているキャストの皆さんが
男性社会の悲哀? いろいろ大変なことがあり、
そこを切実に涙ぐましく演じてくれました。
とくに遠藤憲一さんは手帳の紙も食べちゃうし、
そこもまた長く続いた秘訣だと思います。



<名せりふ誕生の舞台裏>
(中園)
「御意」は内山さんの話で、大きな組織にはそんな言葉を
真面目に使う人がいますよと聞きました。
椅子から転げ落ちそうなくらい面白いと思い、言わせようと考えました。

(内山)
組織の中だとみんな上司に気を遣い、いろんなことに気を遣っています。
「御意」という言葉は特徴的ですけど、おもしろおかしく同期で飲んでいる時に
「いるんだよな、御意兄弟が」って言っているのを聞いて、
あまりにも面白かった。
その頃ドラマを作っていたので「おっしゃる通りです!院長」って言わせず
「御意」と言わせて欲しいと伝えただけで、私の造語でも何でもありません。

(中園)
時代劇じゃあるまいしと思いましたが、
本当に言っている人がいると聞いたので(笑)
結構男の人たちは、その気持ちが分かるみたいで。

― 「私、失敗しないので」というセリフについて

(中園)
シリーズ1の1話目がなかなか書けなかったんです。
他のキャラクターは全部出来上がって、晶さんなどスキップしたりして動き出しているのですが、
大門未知子がものすごく無口な登場人物になってしまって。。。
セリフがこれだとずっと「…」ばかりになってしまう。。。と煮詰まって、
また内山さんを散々待たせることになりました。
その時にロンドンオリンピックが行われていました。
夜中に煮詰まってテレビをつけたら、柔道の松本薫さんが金メダルを取った後の
インタビューで松岡修造さんに
「ミスをしたらどうしようと思いました?」
と質問されたんですけど、
「私、ミスはしないので」
っておっしゃったんですよ。
それを聞いてしびれて。
あの若いお嬢さんがそのセリフを言えるということは、血のにじむような訓練をし、
いろんな怪我などを乗り越えないと言えないセリフだなと思って。
「ミス」を日本語にしただけなんですが、
大門美知子に「私、失敗しないので」って言わせてみたら、
キャラクターが立ちあがってどんどん前に進めたので、本当に松本さんには感謝しています。
あの言葉をなぜ未知子が言うようになったのか?
今回の映画の中に出てくるので、ぜひ映画館に行っていただいて。



<西田敏行さんとの日々>
(内山)
本当に突然の訃報でした。 前日・前々日までメールをしていて、
そんな事は全く予想もできませんでした。
「ドクターX」はこうやって最後になりましたけれども、
「僕を主役にした蛭間の『ドクターH』とかできるでしょ?」
「『ドクターY』はあるんだから、他の人を主人公にすればまだ続けられるんだし」
自分の「ドクターH」を作ってないってことを抗議されていました。
亡くなられた直後は、私たちも動揺していてすぐには思い出せなかったのですが、
時間が経ちメールを読み返したりいろんな話を思い出すと、
もうちょっと一緒にお仕事したかったという思いがまだ強いです。


(中園)
「ドクターH」は書きたかったです。
「劇場版ドクターX FINAL」で西田さんのリクエストを1つ取り入れたところは
「マージャンがしたい」とおっしゃって。
そういえば来たことなかったね、あの名医紹介所にと思って。
西田さんがマージャンをするシーンは映画で作らせてもらいました。
「ドクターH」。。。
AIとかで作れないのかなぁ?
脚本は、すごく書きたいです。


(内山)
大先輩なのに、みんな「としちゃん、としちゃん」と言って慕っていました。
米倉さんは、名優・西田敏行さんに現場で学んだことがたくさんあると思います。
一緒に仕事しようと思っても簡単にできる方ではなくて、
「ドクターX」の前に何度かオファーさせていただいたことがありましたが、
どれも叶いませんでした。
「ドクターX」のシーズン2で初めてご一緒できました。
それから毎回ご一緒させていただいて。
唯一無二の俳優でした。

(中園)
存在が大きすぎて西田敏行さんの不在は、ドラマや映画にとってとてつもなく大きなものだと思います。
私も本当にもっともっと書きたかったです。
私の脚本のセリフは(アドリブを入れるので)読んでくれないですけどね(笑)
それでも書きたかったです。

<「ドクターX」とは>
(中園)
すごく大好きな親戚です。本当にいい雰囲気のチームでした。
12年もあると途中で誰かが病気したり、いろいろあるんですよ。
みんなで年取っていくし。
大好きな親戚の集まりですね。そこから生まれたものなので、
その楽しさがお茶の間にも伝わったのかと思っています。


(内山)
「ドクターX」の12年間は、私にとってはもう「生きること」でした。
とにかく年が明けたらそのことしか考えていなくて、
ずっと次の大門未知子はどんなふうになるだろう?
って妄想が尽きませんでした。
生きることに近かったです。