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USインターナショナルアワード ~前編~
八木麻紗子(テレビ朝日アナウンサー)
【ナレーター】田中萌(テレビ朝日アナウンサー)
【ゲスト】須田 光樹(「テレメンタリー」総合プロデューサー)
報道局 情報番組センター 報道制作班
松本 健吾(「テレメンタリー」ディレクター)
報道局 情報番組センター 報道制作班

ドキュメンタリー番組「テレメンタリー」で放送した2作品が
世界の映像作品を審査・表彰する国際コンクール
「USインターナショナルアワード2024」で入賞しました。
今回は「ドキュメンタリー社会問題部門」で入賞した
「さよなら“トー横” ~キッズたちの居場所~」を紹介します。

<「さよなら“トー横” ~キッズたちの居場所~」>
2022年9月24日放送 ダイジェスト版VTR

高校2年生のシノさん(仮名16)に出会ったのは
日本最大級の歓楽街、新宿歌舞伎町でした。
シノさん
- 「
- お母さんとお父さんが離婚して、新しいお父さんが来たんですけど
うまく関係性が築けなくて、ここに来てちょっと心が軽くなった。
もうちょっと生きてみようと思いました。」


通称“トー横キッズ”。
その1人であるシノさんが
トー横に居続けるため選んだのが。。。
シノさん
- 「
- 今から“案件”に行きます“パパ活”。
体売るのはやりたくないから
食事だけのやつ。1時間1万円。」
男性とデートをして金銭を得る“パパ活”でした。
番組スタッフ
- 「
- ご飯だけじゃないという人の話も聞いたことがある。
危険なんじゃない?」
シノさん
- 「
- お金が必要だから仕方ない。
ちょっと怖いけど頑張ります。」
自由を求めて訪れたこの広場。
しかし、ここは大人たちの欲望の街でもあります。
少年少女たちにとって
ここは、本当の居場所なのでしょうか?


通称“トー横”
そこに集まる少年少女たち。
“トー横キッズ”と呼ばれる未成年者です。
地雷系と呼ばれる黒を基調とした
独特なファッションに身を包み…踊る。
その様子をSNSに投稿するのが1つのムーブメントになっています。
お互いにSNSでつながりを持ち
今や全国各地から集まってきています。


ダイキさん(仮名)17歳。
ダイキさん
- 「
- みんな話が合う子ばかりなので居心地もいい。
仲のいい友達も増えた。
歌舞伎町のビルの屋上で
人が亡くなった事件があるんですけど
(その事件)僕 関与しちゃって。」
ダイキさんは、トー横キッズの名が
全国に知られるきっかけとなった事件の
当事者でもあります。

歌舞伎町のビルの屋上で起きた傷害致死事件。
トー横でたむろする若者たちが金銭トラブルにより
40代の男性を集団暴行し死亡させたのです。
20代の男2人と18歳の男2人が
傷害致死の容疑で逮捕されました。
ダイキさんはその暴行現場の屋上に
居合わせていたのです。
ダイキさん
- 「
- その現場に連れてこさせられた。
嫌々ついて行ったら
(男性が)ボコボコにされて殺されてしまった。
自分は手を出していなかったので捕まることはなかったけど、
何で自分が制止できなかったのだろう。」
当時警察から取り調べを受け、しばらくトー横を離れていましたが、
再び戻ってきました。
高校を中退し家にはほとんど帰っていません。
番組スタッフ
「人が亡くっているが それでもここにいたい?」
ダイキさん
- 「
- 自分の居場所がここしかない。
やっぱり自分の居心地のいい場所にいたい。
そういうのもあって なかなか抜け出せない。」
トー横近くのネットカフェやホテルで夜を過ごしています。
18歳 女性
- 「
- 私1人が部屋を取ったとしたら
1000円払うから入っていい?みたいな感じで
結果全員入って部屋に8人とかになる。」

かつては家に帰りたくない少女たちを匿うかたちで宿泊させていた2人。
しかし今はもうやめたそうです。
18歳 女性
- 「
- 警察官に〇〇ちゃんって子知ってる?と聞かれて、
捜索願い出てるんだよね、と言われて、
その子が(ホテルの)自分の部屋にいたことがあって
真っ先に家に帰らせた。」
新宿区や警視庁は対策を強化
ホテルへの立ち入り調査や
年齢確認の徹底を呼び掛けています。
- 「
- 家にはいられない。でも外にいたら補導される。
児童相談所に連れていかれる。何も幸せじゃない。
居場所がない。がみんなの一番の悩みだから。」
16歳 少女
「本当に家庭環境がみんな複雑だから。」
「わかる。私も虐待で保護されてるもん。」
- 「
- 部活でいじめられて、それを先生に言ったら、
それはいじめじゃないと隠蔽しようとして。
そんなクソみたいな大人がいるところに行きたくないと。
ここに来るようになった。」
- 「
- 虐待とかいろいろあったんで。
リストカットを今もしている。
(自分の身体が)サンドバッグ的な感じです。
あと根性焼きとか。」
広場では未成年であるにもかかわらず
飲酒をするグループもいました。
急性アルコール中毒で救急搬送される少女もいました。
さらに
- 「
- 嫌なことがあると忘れたくなるやろ
OD(薬の過剰摂取)」
「結構効くって聞くよね。」
「マジで“パキる”らしい。」
18歳 女性
- 「
- 頭がフワフワして、薬が入っている時ってだいたい記憶がない。
苦しかった事とか考えなくていい。」
市販の薬などを大量に服用するオーバードーズ。
彼女たちいわく「気分が高揚し辛い気持ちがなくなる」
しかし内蔵に大きな負担がかかり
ひとたび依存してしまうと
自分の意志でやめることが難しくなり、危険な行為です。
番組スタッフ
「体に良くないから、今後はしない方がいいのでは?」
- 「
- こっちだってしたくない。
薬じゃないと(辛いことを)忘れられない。
辛い 泣く 終わる…。」
- 「
- (薬の過剰摂取を)やらないと
生きていけないから仕方なくやってる。」
未成年の間では、こうした薬の過剰摂取や自傷行為などをSNSで発信することが1つのファッションとして流行している、危うい傾向があります。
16歳 少女
- 「
- 生まれてきたことが全部ダメなんじゃないかな。
お母さんが風俗(の仕事を)やっていて父親は風俗のボーイさんをやっていた。
お母さんは別にその人(父親)のことを好きじゃなかったのに私を産んだから
“産むの間違いだった”って言われた。」
彼女たちが親のせいだと語る。
どれも似たような境遇がどこまで本当なのか、確認はできません。
それでも追い詰められています。
16歳 少女
- 「
- 普通の生活に戻りたい。
苦しいだけ。
ホテル暮らしなんて楽しくない。
あったかい家で あったかい布団で
あったかい手作り料理を食べたい。」
ダイキさん
「お姉さん可愛いですね これからどこ行くんですか?」
キャバクラなどのホステスをスカウトする仕事を始めたのです。
ダイキさん
- 「
- 逃げ場を歌舞伎町にしてはいけない。
最近学んだこと。
僕みたいに事件に巻き込まれたり、危険な人がいるという話もあるので。
広場から離れた自分の方が、成長できるチャンスが大きいのかなと思う。
自分のダメなところを注意してくれる人が
広場にはいなかったので。
徐々に(トー横)と距離を置こうとしている。」
トー横は子どもたちの通過点なのでしょうか。
パパ活をしていた高校2年生のシノさんは
まだトー横にいます。
シノさん
- 「
- (トー横に来たのは)新学期が始まってから2回目です。
死にたくて。でも生きたかったから。
自分にとってはひとつの居場所であって、ここについ逃げちゃう。
友情だったり愛だったり。
そういうものを感じられる唯一の場所。」
今日も少年少女が居場所を求めてやってきます。
― VTRを観て
この作品で伝えたかったことは?
須田総合プロデューサー
歌舞伎町でたむろするトー横キッズ。
一般の人から見るとあまり良いイメージはないと思います。
ただ1人1人を知っていくと
家庭や学校に居場所がなかったりするなど
助け、救いを求めて広場に集まっている。
イメージが悪いという一面的なことではなくリアルな姿、
内側に迫った部分を観てもらいたいと思いました。
須田総合プロデューサー
グループでいたり1人でいたりするところへ声をかけるのですが、
大人に対する抵抗感を持つ子どもたちが多かったです。
何回か通っていくうちに同じ子を見かけると
少しずつ声をかけたりしました。
ただすぐにカメラを回さずに、話を聞いて
徐々に関係を深めていきました。
飲酒や喫煙など未成年がやってはいけない行為を目の当たりにした時は、
“体に良くないからやめた方がいいよ”
黙認せず、あえて注意するなど、ドライに接しなければ
いけない部分もありました。

須田総合プロデューサー
“あまり約束を守ってくれない”。
またいついつに会いましょうと約束しても来なかったり、
あるいは補導されることも
かなり軸になる少年少女も取材していたのですが
連絡がプツリと切れてしまったこともありました。
取材が継続できず人物を描けない。
中途半端で終わってしまうことも多い現場でした。
須田総合プロデューサー
基本的に虚勢を張っていたり、自分は不幸だとか
半分家出みたいな状態で広場に来ている子どもたちですけども、
ホテル代を1人分だけ払って複数で泊まっていたりするのですが
「本当はこんなとこにいたくない。
家に帰ってあったかい手作り料理を食べたい」
そういった子どもの本音を聞き出し、映し出すことができたときに
良かったなと。
表面的な部分だけではないところまで描くことが
できたんじゃないかと思いました。

須田総合プロデューサー
私も以前はディレクターとして関わっていたので
取材、編集、ナレーションなど
ディレクターと真剣勝負するつもりで臨んでいます。
ディレクターは思い入れが強いこともあり
どうしても偏ってしまうことがあります。
そういったときに深く入り込まないようにする。
また反対側の視点や意見を盛り込むことでバランスをとる。
危機管理の面も意識しながら進めています。
