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#902
2024年2月18日

放送25年 「GET SPORTS」の魅力(後編)

【司会】山口豊(テレビ朝日アナウンサー)
    八木麻紗子(テレビ朝日アナウンサー)
【ナレーション】田中萌(テレビ朝日アナウンサー)
【出演】及川紫(「GET SPORTS」プロデューサー)
放送開始から25年、アスリートの心理や技術を言語化してきた
スポーツドキュメンタリー番組「GET SPORTS」。
前回は、番組の始まりや、コンセプトについて紹介しました。
今回は、番組を支えてきたスタッフや出演者の証言から
さらに番組の魅力に迫ります!



<密着>
主にサッカー企画を担当してきた河原さん。
中村俊輔選手のそばには、常に彼がいました。

河原康博(番組開始~2006番組担当)
自分と選手の距離感を大事にしていました。
カメラを持って毎日のように練習場に通っていると、
段々選手が日常の風景の一つとみてくれるので、そこから自分が感じている
ことをカメラを回しながら聞き始めました。
中村俊輔選手は彼が高校生の時に見て、面白い選手だなと思って、海外移籍す
るまで5~6年追いかけました。
常に中村選手の側にはカメラを回している僕がいる。という感じでした。
フリーキックの蹴り方、軸足、体の作り方、どこを見ているか、とかを
練習中から観察していました。
彼は居残り練習を1時間以上ずっとやるんですけど、そこまで付き合って。
グラウンドには、中村選手と彼のボールを受けるキーパーと、僕っていう感じ
で。
僕、球拾いやってましたね。

女子ソフトボールに密着したのが長田さん。
選手からは「長田さんに取材されたら一人前」
といわれるほど信頼されていたそうです。

長田 誠(番組開始~2018番組担当)
2003年の1月に放送した「ソフトボール・日本代表の石川多映子さん」。
シドニー五輪を戦って銀メダルを受賞したんですけど、
バッテリー間の距離が延びたことで、これまでのピッチングが通用しなくな
って、2002年シーズンで引退することを決めたんです。
彼女をずっと支えてきたのが小さい頃からピッチングを教えてきたお父さん。
里帰り中に父親へ引退の報告をするのでは?
と、カメラを回し続けていると、親子でキャッチボールが始まったんです。
これこそが「GET SPORTS」や自分が追い求めているものではないかと。
自分が一つだけ言えるのは、向かい合う競技に対しては、誰よりも真摯に向
き合う。
ということだけです。

記念すべき第1回の放送も密着企画でした。
前年、野村ID野球で日本一に輝いたヤクルトスワローズが
スーパールーキー高橋由伸をどう攻略するのか、という発想で誕生した企画。
ここで「GET SPORTS」は、野村ID野球を影で支えるスコアラーに密着する
ことに。
高橋由伸をどう分析し攻略の糸口を見つけていくのかを取材しました。
この密着企画を担当した谷口さんは…

谷口 洋一(番組開始~2003担当)
非常にマニアックですよね。
「野村ID野球が選択したこの1球」というタイトルを付けたんですけど。
確実にストライクを取るための1球を追い続けたんです。

及川 紫(「GET SPORTS」プロデューサー)
みなさん選手に対する愛情が本当に深いんです。
長田さんは、今も企画を作られたりしているんですけど、編集の段階から愛が
溢れていて。
「20分の企画を作りましょう」というと40分くらい作ってきてくれて。

<選手へのリスペクト>
選手時代「GET SPORTS」にインタビューされた経験もある中西哲生さんに、
アスリートから本音を聞き出す「GET SPORTS」の取材の仕方について伺いま
した。

中西 哲生 ナビゲーター(2001~現在)
僕が取材対象者のことをいかに見ているか。
「えっ?そんなところまで見ているの?」ということを言葉として本人に
伝えると、本人もより深い話をしてくれるんです。
「GET SPORTS」は技術的な部分や精神なところをより深く掘り下げる
番組なので、そこに深く切り込んでいくためには、こちらがかなり選手の
ことをよく見ていないと、本当の言葉というものは、発してくれないと思うん
です。
そこは非常に重要だと思います。

独自の視点を持つスポーツドキュメンタリー「GET SPORTS」。
栗山英樹さんはどう思っていたのでしょうか?

栗山 英樹 初代ナビゲーター(番組開始~2011)
ソフトボールやバスケットボールなど、多くの競技の「生き様」。
番組スタッフが長い時間をかけて人間関係を作って、入り込んで、
どこにもできないような取材をしているからこそ、その「生き様」自体を
番組を通して僕は、観ることができました。
やっぱり人なんだなぁ。
最後は人なんだ、人間のドラマなんだ

それを教えてもらったのが、「GET SPORTS」だったので、本当に感謝して
います。

及川 紫(「GET SPORTS」プロデューサー)
一番難しいのは、選手との距離感です。
近すぎてもダメ、遠すぎてもダメ。
選手はいつも調子がいいわけではないので、落ち込んでいる時期があったり、
うまくいかない時期もある。
でも、その時の選手の感情というのは、その時にしか撮れないので、
「取材者としてカメラを回さなければならない。」という責任もあると思いま
す。
その狭間で揺れ動くジレンマもあり、すごく難しいと思っています。



<映像と音楽>
「GET SPORTS」といえば斬新な編集や印象に残る音楽も話題になりました。
番組のテイストをつくった担当者は…

片山 淳(編集・番組開始当時)
速い選手だと編集で短いカットを積み重ねることで、テンポを出したり。
いろんな角度の映像を使って、どういう位置でどういうカタチでプレーして
いるか。それを見やすく選択して編集する。
投げる時の腕の筋肉がどう動いているか?は、肉眼では見ることができない
のでスローで表現することで見えたり。
よく映画で「現在・過去・未来」を表現する時に、過去のものはちょっと色合
いを落として、現在の映像はくっきりと、未来の映像はちょっと幻想的な映像
にしたり。
そいういうことはよくやっていました。

音楽などを選ぶ担当者は…

石川 一宏(音楽演出)
スポーツは果てしなく壮大で、ドラマがあると思っていたので、
映画のサウンドトラックのような選曲を心がけていました。
当時の番組のセットが、オリンピック発祥であるアテネのコロシアムをイメ
ージしていたので、インスパイアされて、荘厳な曲を探していた時に「Ameno」
に、出会いました。
その後、その時代時代でメロディーは残しつつ、アレンジを変えて、今使っ
ているバージョンで5つ目になります。

音のバランスを調整する担当者は…

首藤 英一郎(MAミキサー)
ナレーション、音楽、歓声などをMIXするのですが、
抑え過ぎると熱が伝わらない。
いかにバランス良く、ものすごいテクニックがあるんですけど、前段階から合
成していくというのが難しいところです。
元サッカー選手の城彰二さんが「スペインに行きたい」と初めてインタビュー
で口にした時に、スペインという言葉を編集で16回くらい繰り返したんです。
映像は色を変えたり加工して16種類間単に作れるんです。
「それに合わせて音を全部変えてくれ」と。
番組当初は、繰り返しを加工することが多くて、大変でしたね。
今のほうがよりドキュメンタリー的な作りになっているかなぁと思います。

及川 紫(「GET SPORTS」プロデューサー)
本当にこだわりしかないんですよ。
首藤さん(MAミキサー)は、自分が納得いくまでやる人で、
途中で「もう一回最初からやり直していい?」ということが日常茶飯事というか。
石川さん(音楽演出)は、それぞれのアスリートにイメージソングを設定して
きたり。この選手は不屈のランナーだからこういう曲がいいだろうとか。
いつも仕上がりにワクワクしています。



<ナレーター・佐藤 政道さんからのメッセージ>
スタート当初はかなり実験的で、とても長続きする番組とは思いませんでし
た。
ただ、ナレーションに限らずその実験の数々が番組の特徴として
徐々に認識されていったように感じます。
例えば
「分からないことに深く突っ込んでいったとき」
できるだけ大きい“間”をとる

スタッフにとっては時にスカスカと感じる間も
僕にとっては想いがぎゅうぎゅうに詰まった間なんです。

絶対あの“間”は必要で
そういう実験の積み重ねが、今となっては
「GET SPORTSの世界観」になっていると思います。

「GET SPORTS」はスタッフの熱量をすごく感じます。
だから原稿に書いてあることを正確に伝えるのではなく、
取材してきたディレクターの裏側の気持ちとか
アスリートへの愛情や熱い想い、そういうものを
どう自分のテイストに乗せて表現できるか
そういうことを今も必死に考えています。

及川 紫(「GET SPORTS」プロデューサー)
佐藤政道さんの「間」は、とても意識しています。
これ以上ない!というくらい余韻をとる編集をしています。
政道さんの「間」を生かすために、わざとナレーションを少なくしたり
しています。
政道さんのナレーションにもいつもワクワクしています。



<「GET SPORTS」とは>
選手の球を受けるキャッチャー     三雲 薫
テレビ朝日スポーツの魂        谷口 洋一
人生の後半の原点           川原 康博
自分をつくってくれた場所       長田 誠
アスリートの進化が観られる番組    片山 淳
自分を育ててくれた番組        石川 一宏
勝負しなければいけない番組      首藤 英一郎
奥底にある言葉を引き出す番組     中西 哲生
ベースになることを教えてくれた先生  栗山 英樹
守り続けなければならない伝統     及川 紫