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#901
2024年2月11日

放送25年 「GET SPORTS」の魅力(前編)

【司会】山口豊(テレビ朝日アナウンサー)
    八木麻紗子(テレビ朝日アナウンサー)
【ナレーション】田中萌(テレビ朝日アナウンサー)
【出演】及川紫(「GET SPORTS」プロデューサー)
放送開始から25年続くスポーツドキュメンタリー番組「GET SPORTS」の魅力に迫ります。

あまたのアスリートを独自の視点で徹底取材し、その裏側にある心理や技術、理論を追い求めて25年。
「GET SPORTS」の魅力は何なのか?
番組を支えてきたスタッフ、出演者の話をもとに「GET SPORTS」を
言語化します!

<始まりはスポーツ誌>
谷口 洋一(番組開始~2003担当)
当時、「Number」という雑誌が非常に脚光を浴びていました。
おしゃれで、マニアックな技術論を伝えるような雑誌で、今でもあるんですけど。「Number」のテレビ版みたいな。
 
目指したのは雑誌「Number」のテレビ版

「Sports Graphic Number」
※1980年4月1日創刊 日本初のスポーツ総合雑誌
アスリートの内面を創造するスタイルが話題に。

三雲 薫(初代チーフディレクター)
どんな特徴があるのか何も知らない選手たちがバスケットボールの試合をしていても、どこを見ればいいんだろう?と。
その選手の背景とか何を努力しているとか、そういうことを伝えていかなきゃいけない。という目線のレギュラー番組を作って、スポーツ取材の強化をしていかなければ!ということで始まった番組です。

及川 紫(「GET SPORTS」プロデューサー)
30秒や1分の日々のニュースでは伝えきれないことを企画にすることが「GET SPORTS」のはじまった理由の一つだと聞いています。
私はテレビ朝日の面接の時に「GET SPORTSを担当したいです」と語りました。

<スキルの言語化>
谷口 洋一(番組開始~2003担当)
技術やメンタル、核心に迫るプレーのポイントは、言葉にしにくいし言いた
がらない選手もいます。

ですから、アスリートから言葉を引き出せる関係性作りから始めました。
必死に取材して集めた言葉をテロップにする時に、あっているかどうか、
栗山英樹ナビゲーター(当時)に深夜に連絡して「この理論であってますか?」
と何度も確認したこともありました。

選手から引き出した言葉を何度も確認しながら
「技術の言語化」が始まったといいます。
元プロサッカー選手で「GET SPORTS」のナビゲーターをつとめる中西哲生さんは、あまたのアスリートとの対談を通して「言語化の重要性」を語ってくれました。

中西 哲生 ナビゲーター(2001~現在)
言語にならないと論理にならないんです。
たった1回でもうまくいったプレーがあれば、それを言語化さえできれば、
必ずもう1回再現できる
と思うんです。
失敗した時に、「なんで失敗したんだろう?」という点に着目しがちですが、うまくいった時に「なぜうまくいったのか」を言語化しておけば、うまくいかなかった時にうまくいった時のことをやり直せばいいだけなんです。
そっちの方が重要なんです。

栗山 英樹 初代ナビゲーター(番組開始~2011)
城島健司捕手の「コマ打法」、稲葉篤紀選手の「縦振り・横振り」、阿部慎之助選手の「ツイスト打法」、立浪和義選手の「構えは下から作る」など、あげればキリがないほどキモになる言葉を、みんなが気になっていることを技術的な要素で聞けました。

「GET SPORTS」の取材を何度も受けていた松坂大輔さんは、
「スキルの言語化」についてどう思っていたのでしょうか

松坂 大輔(「GET SPORTS」に30回以上出演)
ぼくはあんまり出し惜しみはしないタイプです。
当時は怒られましたね。
「全部言うな」と。
でも、自分で話ながら、ちゃんと伝わってくれたらいいなと思う反面、
「多分できないよ」という気持ちがあったので、知られたところでぼくは
別に困らないと思ってましたね。



<検証>
「GET SPORTS」には、「言語化」ともう1つ、「プレーを検証する」という企画があります。
当時ディレクターだった谷口さんは、ヤクルトスワローズで活躍していた
宮本慎也選手の検証企画についてこう語ってくれました。

谷口 洋一(番組開始~2003担当)
横っ飛びしてファインプレーして、アウトにするプレーについて。
宮本選手は、横っ飛びより打球の正面で処理した方が確実なので、正面に入るために、スタートや守備位置にこだわる。
そうおっしゃっていたのですが、そこにもう1つ理由があると。
いつもは横っ飛びしていたような打球の正面に入って楽々と捕球する姿をピッチャーに見せることで、
「今日の調子、球威はイケてるよ」とメッセージを送っていたと言う話を聞いた時は、震えましたね。

そして「GET SPORTS」の大スクープといわれているのが
東京オリンピック・男子400メートルリレー決勝で起きたバトンミスの検証企画。

三雲 薫(初代チーフディレクター)
「これを伝えていかなきゃいけないと思いました」
と言ってくれたんですよ。
普通、失敗した人たちって答えたくないんですよ。
でもそれを番組で答えてくれる。って言ってくれたことにまず泣けました。
これは次のリレーに向けてみんなで勉強した方がいい、知っておいた方がいい。
あれは1つの「GET SPORTS」が誇るべき企画だとぼくは思いました。

及川 紫(「GET SPORTS」プロデューサー)
この企画、実は、南原清隆さん発案の企画なんです。
南原さんが「今、一番会いたいのって多田くんなんだよね」っておっしゃって。
「えっ、何でですか?」と質問したら、「あのバトンミスの原因を伝えていかないといけない。それが多田選手のためにもなるし、日本陸上界のこれからのためにもなるよね」とおっしゃって。

<総合ナビゲーター 南原清隆の存在>
三雲 薫(初代チーフディレクター)
栗山英樹さんが何か答える、選手が何か答えると
「え~~~っ!」
って言うんですよ。
取材を受けている方は、嬉しいんですね。
南原さんが芸能界の方ということもあるんですが、勇気がいることだと思うんです。自分が「知らない」という目線を出すことになるのですから。
その目線を持った上で、アスリートが努力していることを聞き出し、共有する、褒める。「凄いですね」と。
みんながそういう思いを持って応援すれば、アスリートたちはもっと変わる。
それを聞いた少年少女たちも変わる。ファンも変わる。

栗山 英樹 初代ナビゲーター(番組開始~2011)
1998年の「GET SPOTS」放送開始から南原清隆さんと歩んできた栗山英樹さんは
「ナンチャンって何の競技だっけ?」って感じですね。
テレビで観る南原さんでは決してなくて、アスリート・南原さんが横にいて、
僕らよりもよっぽど本質を聞きたがっている。
その魂が、この番組を長く守ってくれたと思います。

及川 紫(「GET SPORTS」プロデューサー)
我々が見落としていたところを南原さんがアドバイスしてくださったり、
後押ししていただいています。

<WBC企画>
「GET SPORTS」25年の集大成の1つといわれているのが
野球の世界一決定戦「WBC」開幕直前に特集した企画。
「WBC」をどう戦うのか2時間に渡って栗山英樹さんに話しを伺っていた、その最後に。

三雲 薫(初代チーフディレクター)
南原さんと栗山さんが1998年の番組スタートから、いろんなことを一緒に取材し、苦労し、スポーツを楽しんだりしてきたことをVTRにまとめてスタジオで観てもらいました。
そのVTRを観て、栗山監督が涙しました。

栗山 英樹 初代ナビゲーター(番組開始~2011)
南原さんの人柄とかわかっていたつもりでしたが、あれが南原さんが持つ本質と言いますか。
あれだけ優しくてそいういうことを考えるからこそ、人に笑ってもらいたいとか楽しんでもらいたいとか、他人を生かそうとするとか、そういうことのひとつのカタチの表れだったので。
おかげさまでここまで来たなと、最後に一緒に喜べるようになんとかしなきゃとめちゃくちゃ思ったのとプレッシャーがかかったのと。
南原さん、ぼくにプレッシャーかけてるのかな?と思うくらいでしたけど、
それが大きな力になったので。
誰が一番「GET SPORTS」を守ってきてくれたかというと、今、スタッフのみなさんがどう感じているかはわからないですが、あの当時、番組を無くさないようにしてくれたのは、南原さんの力、これが一番大きかったことは間違いないので。
むちゃくちゃ感謝してますし、いつか恩返ししたいと思っていましたけど、もし、今回の「WBC」、南原さんが喜んでくれたのであれば、
少しでもそこに貢献できたのであれば、すごく嬉しいなと思います。

及川 紫(「GET SPORTS」プロデューサー)
南原さんと栗山さんの対談を収録する時は、誰も邪魔できない空気が漂っています。
今回の収録時、南原さんと栗山さんは涙されていたんですが周りにいたスタッフもほぼ全員涙していて。
南原さんの熱い思いがスタッフを後押ししてくださっています。
あのVTRを作ろうと提案してくださったのも南原さんでした。
南原さんは、番組のキャプテン的存在で、番組を牽引してくださっています。