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2018年9月5日

綾野 剛(鷲津政彦役)×真山 仁(原作者)対談インタビュー【『IN★POCKET』(講談社)2018年8月号より転載、一部を抜粋】

既得権がのさばる
腐った経済をぶち壊せ!

累計240万部の大人気シリーズ
「ハゲタカ」連続ドラマ化記念

綾野 剛(鷲津政彦役)×真山 仁(原作者)

取材・構成/松木 淳
撮影/柏原 力

クールな企業買収者・鷲津政彦を主人公に、バブル崩壊後の日本経済を鮮やかに描く「ハゲタカ」シリーズ。
これまでもドラマ化、映画化され多くの熱狂的なファンを生んだが、『ハゲタカ』『ハゲタカⅡ』を原作に、この夏新たにテレビ朝日系で連続ドラマ化されている。
ドラマの終盤では、原作にない2018年を舞台にした物語が展開されるのも話題だ。
むずかしい役どころに挑む主演の綾野剛氏が、作家の真山仁氏と真摯に語り合った。

アシンメトリーの髪型にも
演じる上での意図がある

真山 主人公・鷲津政彦のビジュアルに関して、私は特定のイメージを抱いて書いてはいないのですが、綾野さんは今回このようなスタイル(髪を横分けにしてメガネをかけている)にしてくださいました。これまでにない〝新しい鷲津像〟ができたな、と思いました。
綾野 今回、いちばん大事なのは〝鷲津自身が鷲津を生きている感覚〟を持つことだと思ったんです。自然さをチョイスするよりも。全編を通じて根っこにあるのは、鷲津が鷲津を演じて生きているということ。そのためのキーアイテムとしてどうしてもメガネが必要でした。
 メガネをかけるということは、世界にフィルターをかけること。鷲津は、鷲津とはこうあるべきだという人物像のフィルターを通すことによって、物事をドライに真っ直ぐにさばいていく……。そのフィルターには「覚悟」という要素も含まれているかもしれない。だから逆にメガネをはずして何かに対して直接眼差しを向けるとき、実はそこには鷲津の本質があるわけです。
 たとえば自分の父親の死亡記事を読むときはメガネをとって、裸眼でその事実をちゃんと受け止める行為をしている。
真山 メガネですか。映像だからこそできる表現方法ですね。面白いなあ。
綾野 髪型もわざとアシンメトリーにして、横顔も右側と左側では表情が違って見える。つまり異なる表情によって鷲津が持つ二面性を表現したかったんです。この二面の表情を微妙にズラしたりすることで、彼の感情が見えてくると思います。
 今回は三部構成で、第一部の設定が1997年。衣裳に関していえば、ここでは28歳ということもあり、スピード感のあるシングルのスーツを着ています。ネクタイも細めにして、とにかくものすごい速いイメージのスタイルにしているんですけど、印象として残ることが重要だと思ったんですよね。物語が進むと、どこが違うのかわからないけど、変わったってことはわかるっていう……。
真山 いや、原作者より鷲津のことをよく知っている(笑)。いまのお話を聞いていて、感動したのは、綾野さんがおっしゃる通り『ハゲタカ』って鷲津が鷲津を演じている物語なんです。専門的なことをいうと、小説には視点人物っていうのがいます。主人公がだいたいそうなのですが、(こめかみ付近を指して)ここにカメラが付いていて、このカメラはその人物の内面も映すんです。『ハゲタカ』の場合、それぞれ価値観や立場が異なっていますが、芝野や貴子など毎回6、7人くらいいます。鷲津はというと、『ハゲタカⅡ』冒頭で起こったある出来事によって、心身ともにボロボロになり一度地に堕ちる。それで迷走しかけたときに、「こんな気弱なヤツが企業買収なんかできないだろう」と気づいた。そこで内面にあるのは攻撃性と戦略のみという鷲津を、鷲津自身に演じさせるしかないと考えたんです。だから綾野さんが、鷲津が鷲津を演じていると表現するためにメガネを選択したっていうのは、お見それしましたとしかいいようがない(笑)。

魅力あふれる名脇役たち

真山 ところでこのシリーズを書いていて意外に思ったことがあって、それは飯島の部下である芝野は人気があるんですよ。鷲津の物語なのに、読者の3割くらいは芝野のファン。『グリード』(『レッドゾーン』に続くシリーズ4作目)なんか芝野がほとんど出てこないんだけど、なんで芝野を出さないんだってクレームが入るほど(笑)。
綾野 魅力的ですよね。今回は渡部(篤郎)さんが演じています。
真山 渡部さん、ときに上から目線で、いかにもエリートバンカーって雰囲気がよく出ていますね。「ハゲタカ」シリーズは、鷲津や芝野、飯島ら登場人物に男が多いので男くさいし、暑っ苦しい(笑)。そのなかでホテルウーマンの松平貴子は、体感温度を下げてくれるキャラクターでもあるんだけど、今回は沢尻エリカさんが演じてくださる。女性が狩られる側、獲物側ではなくて、鷲津と対等な立ち位置でいるという、その存在感は大きい。
綾野 鷲津は自分自身に嘘はついていないと思うんですけど、正直な人間かっていうとそうじゃないと思うんです。その点、貴子は圧倒的に正直で、鷲津にとって貴子はすごく眩しい存在なんです。このドラマではとてもわかりやすい正義だと思います。だから自分(鷲津)もああいう生き方ができなかったかなって、ふと思う瞬間がありました。と同時に彼女が鷲津になっていたかもしれない、女ハゲタカになっていたかもしれないとも思います。それって紙一重だなと。

キャラクターの設定変更

真山 貴子は男性読者には人気があって、20代の女性にも「あんな女性になりたい」と支持されているんですが、ある程度キャリアを積んだ女性読者からはすごく評判が悪い。綾野さんのいうとおり、貴子は眩しい存在で、その神々しさに男は引き寄せられるんですね。そして貴子は窮地に陥ると引き寄せた男をくわえこんで、自分の思いどおりに動かすって。でもそうならば、すでにハゲタカである鷲津の上をいっているのかもしれないですね(笑)。いずれにしても、鷲津がそんな貴子に向き合うときは、彼のなかにはあまりない人間臭さみたいなものが垣間見えたりすると思うんです。
綾野 そうなんです。すごくやりにくいんですよ、貴子とのシーンって。最初は沢尻さんと芝居するのが久しぶりだからかなって思ったんですけど、そうじゃない。鷲津をコントロールするのが難しいし、人間臭さが出てしまうことを何とか隠そうとしています。でも隠しきれないものが映っていてもいいのかもしれない。
真山 そのとおりだと思います。何となくホッとするじゃないですか、鷲津はけっして血も涙もない男じゃないんだって。
綾野 今回のドラマで、鷲津の部下である「アラン・ウォード」を日系アメリカ人「アラン・フジタ」という設定に変更しています。僕、これは妙案だったなと思います。原作どおりの設定で、外国人俳優をキャスティングするやり方もあるとは思うんですが、一緒に芝居をするときに、表現の機微みたいなもので、どれだけコンセンサスがとれるのか不安だった。だから池さん(池内博之さん)にやってもらえて、ホントよかった。池さんの日系感、ハンパないんですよ。ラテン系のノリの芝居っていうか、常にリズムが刻まれている感じで、そのリズムが狂うとイラ立ったりとか感情的になったりとか、そういうところがすごく魅力的に表現されている。
真山 撮影現場を拝見しましたけど、私もこの変更は納得しています。アランというキャラクターにとっていちばん重要なのは鷲津との関係性です。かたやアメリカでのM&Aの成功者、かたやまだまだ場数が足りず成果を欲している男。この二人のキャリアの差がセリフ回しや態度にちゃんと表れていて、師弟ともいうべき関係性がちゃんと伝わってきました。
綾野 実年齢は、池さん、僕よりずっと上なんですけど(※綾野さんは36歳、池内さんは41歳)。
真山 アランがちゃんと若く見えるから不思議ですね。
綾野 そこが池さんのうまさです。相手が若く見えるような僕側の芝居は、やりようがなくて非常に難しい。たぶん池さんもそれを感じ取ってくれて、若く見えるような方法を捜す方向に行ってくれたんだと思います。

原作にない2018年の鷲津とは

真山 ドラマでは、原作にない2018年、つまり現代の鷲津の物語が描かれていて、そのプロットを私が書かせてもらいました。
綾野 第三部(第7話以降)ですね。
真山 結局のところ、いま最も重要なトピックは、図体ばかり肥大した企業がどこまでも延命しようとすることなんですね。会社にも寿命があり、300年のところもあるだろうし、30年で社会的役割を終えるところもある。いずれにしても、寿命が尽きた会社は速やかにマーケットから退場してもらわなきゃいけない。「ハゲタカ」シリーズでも、腐った会社は叩きつぶしましょう、もっと風通しを良くしましょうということを書いてきたのですが、現代を生きる鷲津は大きくなりすぎた。アメリカや中国とわたりあった鷲津にもう敵はいない。ではそんな鷲津はいま何をするべきなのか。そんなことをモチーフに第三部の物語を考案しました。
綾野 僕は個人的なテーマとして「破壊と構築」というのをいつも考えていて、やはり新しいことは、まず古いものを壊さないと始まらないと思うんです。同世代から若い世代の俳優さんにも壊すことをためらってくすぶっている人もいる。だから僕自身も自分の在り方を壊し、鷲津としても、壊すことの勇気を若い世代に教えていきたいと思います。壊して、でもそれだけでは終わらない、その先にあるもの、それに第三部でたどりつけたらいいなと思います。そして、そのとき、鷲津はどんな顔をしているんだろうと楽しみです。
真山 私も楽しみにしています。