ごはんジャパン

過去の放送

2019年1月19日放送 「東京都 練馬大根」

『練馬大根で染み染みおでん』
ロケ地:東京都練馬区

今回、注目する食材は、東京・練馬区産の“練馬大根”。そのおいしさの秘密を求めて、浅草で100年続くおでんの名店の店主・舩大工栄さんとサッカー解説者・松木安太郎氏が、生産者のもとへ。練馬大根を使って、舩大工さんが究極のおでんを作る。

2人が出会ったのは大根農家の渡戸章さんと、その息子・正さん。章さんは平成元年に練馬大根を復活させた立役者のひとりで、現在は正さんが後を継ぎ、20歳の孫・魁くんも手伝いながら300坪ほどの畑で年間およそ4000本の練馬大根を作っているという。

ビルに囲まれた畑では現在、収穫の真っ最中! 練馬大根は土深く埋まっているため収穫はかなりの重労働で、手伝った2人はその大変さにビックリ。すぐに包丁を入れてみた舩大工さんは、繊維の細かさに感嘆! また、もともと漬物店だったという渡戸さんのお宅で“大根の醤油漬け”をごちそうになり、パリパリの食感に驚く。

練馬大根は江戸時代から続く、伝統野菜。たくあんなどの材料や煮込み料理の具材として、長らく江戸の庶民たちに愛されてきたという。
昭和初期、練馬区ではおよそ3000軒の農家が練馬大根を作っていたが、宅地化が進んで農家が減少。1960年代、練馬大根は市場から姿を消したという。

それでも、先祖代々作り続けた練馬大根を細々と守ってきた渡戸さん。そんな思いが届いたのか、平成元年、練馬区と農協が復活事業を開始したという。その記事を読んだ舩大工さんも「おでんに使ってみたい」と注目していたが、事業開始当初は収穫が少なかったためほとんど市場には出回らず、なかなか手に入らなかったと話す。

それから約30年、生産量は回復。舩大工さんは今回、ようやく出会うことができた練馬大根を、丹念に仕込みはじめる。
そして、ついに4日間かけてじっくり出汁を染み込ませた“染み染み大根”が完成! 舩大工さんは自身の店に渡戸さん一家を招いて、自慢のおでんをふるまうことに。はたして、染み染み大根を味わった、渡戸さんたちの反応は…!?

また、生物学者の福岡伸一氏が、練馬大根の特徴である繊維の細かさについて解説。4日間煮込んでも煮崩れしない、舩大工さんの大根の煮方についても、科学的な視点から分析する。

今回のシェフ・レポーター

松木安太郎(サッカー解説者)
舩大工栄(『浅草おでん 大多福』五代目店主)

地元の匠

練馬大根の匠
渡戸章さん

地元の匠

息子 正さん(中央) 孫 魁さん(右側)

今回登場した料理

渡戸章さん
「練馬大根の沢庵」

舩大工栄さん
「練馬大根のおでん」

舩大工栄さん
「おでん5種」

『練馬大根』

繊維がおでんの大根をおいしくする!

福岡伸一(生物学者 青山学院大学教授)

福岡:だしが染み込んだ大根を作るには、繊維が大事です。
植物の繊維は骨がなく、血管がないので、体を支えるために障子みたいな枠の中に細胞を入れています。

細胞をつなぐ格子のような組織が、いわゆる食物繊維です。

福岡:縦に通っている導管や師管などの水や栄養を運ぶ管も繊維の一部です。

この管の繊維が太いと食感が硬くなり、練馬大根は青首大根に比べ、繊維が細いため食感が柔らかく滑らかになるんです。
福岡:格子の枠と細胞の間に空間があり、だしの成分が染み込みます。
繊維が密であればあるほどたくさんのだしを抱えることができ、繊維のシャキシャキした食感も楽しむことができます。

煮崩れさせずだしを染み込ませる技

1日目は水
2日目は薄いだし
3日目は濃いだし

福岡:長時間煮ると、細胞だけでなく、細胞壁という繊維の部分も熱でクタクタに柔らかくなってしまいます。
短時間で3回に分けて段階的に濃いだしで煮ることで、だしの塩分により浸透圧で細胞から水が抜け、よりだしが細胞の間に入っていきます。

繊維にダメージを与えないようブレーキを踏み、1日冷ますことでアクセルを踏んで、だしを入れていくという、相反することを両立させた、経験が生み出した技でした。