第9章 知られざるもがき
 

 ひそかに有終の美を求め、ピッチングに臨む石川多映子さん。
 しかしその気持ちとはうらはら、日本リーグ前半はよく打たれた。
 ここという所で、チェンジアップを打たれ、ライズをもっていかれた。
 味方の得点で負けはつかないものの、自分的には、負け試合である。
 92センチのルール改正が、重くのしかかった。

 8月18日、千葉県成田市。国体関東予選が行われていた。
 取材に行った日、多映子さんの登板はなく、ベンチで応援。
 その試合後、練習グランドで突如投球練習をはじめる。
 チームメイト・斎藤春香さんと投球時のグラブの置き方とふりかぶりを丁寧に行い、投げる。そしてやりとり。ああしたほうがいい。こうしたほうがいい。

 体重移動、である。
 これまでよりも深くふりかぶり、着地の際、ひざでねばる投法に着手していた。
 92センチ対策の一環で、スピードボールに勢いをつけてキレを出したい。そんな思いから斎藤さんが提唱したものだ。
 ヒントは男子ピッチャーのフォーム。体格を生かしてひざの動きから腕の回し、そして着地まで全身を使って球に勢いやキレをつけるやり方である。アテネ五輪出場を完全試合で決めた新星・上野由岐子のフォームも参考にした。彼女も確かに深く上体を下げてふりかぶり、ひざで粘っている。
 一球一球、斎藤さんと練りこむ。
 新しいフォームを作っているのかと多映子さんに尋ねる。
 「このフォームにずっとするってことじゃないんです。体重移動の基本っていうか、いろいろ取り入れて、自分でよかったものを身につけていく。また違ったピッチングを覚えてくれば、また違った投球バランスとかもできてくるから、それもいいなと思って」

 重く、勢いのある球を新たに作り上げる。それは同時に対極にあるチェンジアップも生かすことができる。そう信じてきた。
 しかしその闘いは、もうひとつの闘いへとつながってゆく。