第6章 努力の人の支え
 

 そんな石川多映子さんには、大きな支えがある。
 父・石川勝博さん。通称「おっかけ父さん」
 多映子さんが社会人になってから9年間、全国津々浦々、応援に足を運んだ。
 その数は延べ150箇所にものぼる。もちろん、シドニーオリンピックも。

 しかし、実は試合現場では、投球は直視できない。怖くて見られないのだという。
 だからか勝博さんは、これまで訪れた試合を全てビデオに収録している。
 ファインダー越しなら、幾分落ち着けるらしい。

 「2本ホームラン打たれた。言うことなしの完敗」
 「まさかまさかの逆転サヨナラ負け。寒さ身にしみる1日」


 父・石川勝博さん


 そのテープには、一試合一試合寸評が記されている。帰ってからひとりで試合を見返し、反省会をしながら書くのだそうだ。
 シーズン序盤。多映子さんはチェンジアップがなおも決まらず、苦しみつづけていた。
 「今の多映子は、ここが悪いんですよ。着地の時に右手が頂点より後ろにいってるでしょう。これで踏ん張りきれず、手投げになっちゃうんです。だからダメなんですよ」
 だが、娘・多映子さんに言うわけでもなく、チームに提案するわけでもない。自分のために、やっている。
 勝博さんは、どんな気持ちで各地を回り、応援をしているのか?
 車の移動中ぶつけてみた。

 「なぜこれをするかって?責任もあるし、見届けたいんですよね」

 この親子は、普通の親子であって、普通の親子ではなかった。それがこの後の話で明らかになる。