第4章
 私もうやめたほうがいいんじゃないかな・・・
 

 現役引退。
 その思いが芽生えたのは、願いが全部かなった2000年。
 念願のオリンピック出場。銀メダル。
 そしてこの年、自分を育ててくれたチーム・日立ソフトウェアが、悲願ともいえるリーグ初優勝を飾っている。
 その中で、ひとつの達成感が石川選手を支配してゆく。
 「優勝して念願のオリンピック行けて満足して、あ、ここで終わったら悔いなく終われるんだろうな。自分の夢がかなったから終われるんだろうなっていう気持ちはあったんですけど」
 後輩たちも実力がついてはきたが、今ひとつ自立しきれない。それもイヤだった。
 2001年以降、満足のいくピッチングがほとんど出来ていない。ジャパンからは外れ、チームでもいい所は見せられなかった。達成感と、訪れつつある下り坂。
 自分は、もう潔く去るべきなのではないか。そう感じた。
 それでも、ある遣り残しが心の中に残る。
 石川さんは、長年所属チームで苦楽を共にし、シドニーで共に戦った斎藤春香さんにひとつの思いを告白した。
 「遣り残した部分あるから、2002年全力でやりたいと」(斎藤さん)


 日立ソフトウェアの石川多映子


 満足のいくピッチングを、もう一度したい。たとえそれが自己満足であっても、そこを、自分なりの、有終の美としたい。
 「自己満足の世界なんですけど、いい形で終わりにしたいって思ったら
それなりの糧を踏まないと、いい形でおわれないってのがあったから」(石川さん)

 2002年シーズンは、そんな決意で迎えた。しかし・・・