第13章 静かなる去り際
 

 年末、話し合いの末、石川多映子さんの引退が、他3選手とともに受理された。
 そして内内の送別会をもって、通産勝利数79のバラとともにチームを離れた。
 高らかな声で観客に感謝の気持ちも伝えず、マスコミを前に、すがすがしい気持ちですという会見もない。
 ひっそりと、去っていった。

 12月、多映子さんは故郷・大平町へ戻る。

 そして、餅をついた。
 勝博さんが水をやり、多映子さんがついた。親子一緒に、粘り強い餅を、ひたすら。
 負けず嫌い親子2人の餅つき。その姿は、なぜか無言の反省会のようにも見えた。

 その後、すっかり片付いた部屋で、年賀状を書きはじめる。

 「あけましておめでとうございます。昨年をもちまして、引退いたしました。今まで応援ありがとうございました」

 年賀状の文面には、こう印刷されていた。
 そしてそれに、心をこめて一文一文、感謝の気持ちをこめる。
 260枚。感謝をこめる。
 ありがとうございました。

 日本中が、平成の大横綱の引退に揺れた1月20日・・・
新聞の片隅に、ひとつの記事がひっそりと載った。

 シドニーオリンピックソフトボール代表、石川多映子、引退。