| 第11章 自己完結との戦い | |
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京都・西京極球場には毎年・秋の終わりに、ソフトボール日本リーグ・決勝トーナメントが訪れる。実業団一部リーグ12チーム中、上位4チームによって争われるソフトボール界最高峰のトーナメント。1年間チームメイトで苦楽をともにしてきた戦士たちの、総決算の場でもある。この闘いの重みを、以前石川多映子さんに聞いたところ、こう返ってきた。 「オリンピック同等、もしくはそれ以上」と。 1年中ずっと一緒に戦ってきたチームメイトと、泥にまみれて得る勝利は、それほど大きいものなのだそうだ。 多映子さんの所属する日立ソフトウェアは、リーグ3位の成績だった。対するは、4位のミキハウス。現役豪州代表の速球派投手メラニー・ローチやショート、ナタリー・ワードのほか、リーグ屈指のスラッガー田中幹子を擁する、投げてよし打ってよしのチームである。補強がうまくいった2001年から力を伸ばしてきた。 先発・石川多映子。ピッチングに、期待がかかる。 多映子さん、ひざは直前まで痛み続けていた。痛み止めを打ってのマウンドである。 けれども、テーピングやサポーターは、一切しない。 ピッチャーはいつも強くなければならない。弱みを見せたら、おしまい。 ずっと、そう考えてきた。 それよりも、満足のいくピッチングがしたかった。 1年間、イヤなくらい打たれてきた。納得のいくピッチングは、まだできていない。 自己満足でもいい。一球一球を、自分なりに納得のいく形で投げたい。 その先に、有終の美があるはずである。 試合がはじまる。 石川投手のピッチングが、これまでにない、冴えを見せた。 キレのある速球。絶妙なチェンジアップが、次々と決まる。 そのピッチングを見て、はじめてインタビューした3年前のことを思い出した。 「私ってマウンドに立つと相手がどう考えてるかわかっちゃうんですよね。ここを狙ってるとか。当然外しますよね。すごく、性格悪いですよ」 自らを悪女と言い切る、打てそうで打てない、イヤなピッチング。 そんな悪女が、顔をのぞかせた。 滑り出しは快調である。 対するミキハウス、ピッチャーはメラニー・ローチ。 現役オーストラリア代表。鋭いライズやドロップがキレを見せ、日立ソフトウェアの重量打線は、まったく歯が立たない。 熾烈な投手戦を、予感させたが・・・ 3回表、石川投手にピンチが訪れる。 決め球を持っていかれ、右中間ヒット。 この後も攻め込まれて1アウト満塁。 この状況で3番、ナタリー・ワード。オーストラリア代表ショート。今季はセンター線の大ホームランも打たれていた。相性の悪い相手である。 それでも、ここで負けるわけにはいかない。 父・勝博さんが見守る中、勝負に出た。 手のひらが後ろ向きである。 チェンジアップだ。 ワード、それをとらえ、勢い良く球がピッチャー線に大きく弾んだ。 石川多映子、飛ぶ。 あわや越えそうな球だった。そして、ホームにすばやく返球。 チェンジアップで、打たせてとった。 ミキハウスはチャンスを生かせず、この回、0点。 巧みな技術とコントロールで、手玉にとる。 にくらしいピッチングが、自分の中で、甦った。 |
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