3月10日、来年オリンピックが行われるソルトレイクにて、驚異の世界新記録を達成した清水宏保選手。しかし清水選手、番組でも紹介した通り「あのレースは失敗」と分析していた。500mの世界で0.3秒縮めての世界記録更新は、スケートをあまり知らない人でもすごいと思うはず。でも失敗と思っている。
 
それは一体どういうことなのか?それを知るため、長野でも清水選手の取材にあたったGET製作委員会のひとり、Y女史が熱烈オファー。
 
「聞かせて下さい!!!」
 
そして3月14日、清水選手からOKをもらえ、某番組出演前にインタビューを敢行した。
 
実は帰国後発の独占インタビュー。言わば世界一早い(速い?)インタビューでもある。 その内容は、やはり世界唯一の男とも言えるもの。崇高して無二。理解も相当難しい。でも、前人未到の世界のとはそういうものかもしれない。
  しかしわずか11分の番組で、その世界観をどこまで伝えられたかは疑問が残る。そこで今回、清水選手の了解をもらい、そのインタビュー発言を、全部公開する運びとなった。
  世界最速の理論を、とくとご覧あれ。

 

注) 清水宏保選手、実は前年にも世界記録を狙っていたレースがあった。2000年1月のカルガリーワールドカップ。気合を入れてスタート。100の入りも良かったが、第一コーナー終盤、転倒。コースアウトしてしまった。結果このレース、同走のウォザースプーンが34秒63で世界新記録。清水選手はダブルの悔しさを味わった。

Q:2年越しで世界新記録をしたわけですが、去年は狙って行って転倒してしまいましたよね。あれは靴が合わなかった?

清水:いえ、違います。たまたまちょっと歯を曲げすぎて、氷に対してスケートの歯が食つきすぎてつまったっていう。

Q:世界新のイメージとか自分の肉体とかは、もうその時には世界新出せるようにその時点ではできあがっていたんですか?

清水:転んだ時?うん、体もすごいよかったし、絶対出せる自信はあったんですけど、冷静に考えてみればテンションが高すぎて、もうちょっと気持ちを抑えられていたなら、冷静に一発で出せていたんじゃないかなって思います。

Q:そういう意味では今回は結構逆の状況?

清水:そうですね。全然体が仕上がってなくて、どうにかテンションを上げなくてはっていう状況でしたね。

Q:清水さんが膨らむっていうのがびっくりする映像で、ありえないって思ったんですよ。それでも世界新だったから見てて不思議な感じだったんですよ。

清水:膨らんだことも含めて、けしていいすべりではなかったと思うんですよ。もう失敗レースで世界記録がでたっていう感じだったんで。結果はよかったですけど、内容としてはまだまだ詰めていかなくてはいけない部分があると思うんですよ。

Q:逆にその膨らんで世界新がでてしまうところに、まだまだ余裕があると。

清水:現時点でもタイムを縮められる要素があるんで、あとはどれくらい縮められるか、どの部分をどうしたらいいかっていうことばかり考えてますね。

Q:微妙なバランスなんですか?世界新を出す時の

清水:やっぱり勝負をかけるのでも違うプレッシャーがありますよね。勝つ、負けるというのではなく、自分もそうだし、人が味わったことのないスピードで入らなくてはいけない。またそのタイムを味わわなくてはいけないっていう、そっちのプレッシャーがあるんで。

Q:恐怖みたいなもの?

清水:恐怖っていうか不安というか。1つの言葉では言えない。オリンピックとは違うプレッシャーですよね。世界記録を狙えるってわかってる場所っていうのは。

Q:前はスピードに感覚がついてこなかったっていう言い方をされていたんですがそういうのと今回のは違う

清水:今回はもう体自体は完璧に34秒台出せる体だったんで、いかに精神面の方で狙い過ぎないように、先にどうしてもタイムを考えがちなんで。そのことよりもいかにスタートからゴールまでのスケーティング内容に集中するか。それができれば世界記録は絶対だせると思ってたんで。

Q:年々清水さんの言葉が哲学者の言葉に聞こえてきて、誰も到達できない部分の言葉を肉体で感じてるっていうか

清水:それはないです。

Q:難しい、自分でも言葉にするのが難しいっておっしゃってたじゃないですか。そういう部分で心技体が一致する、ある種の感覚ってあるんですか?

清水:感覚の方がどうしても先行している部分ってありますね。どうしても精神面っていうのは体力的な要素とかそういう技術面にしても、誰でも劣る部分だと思うんですよね。そこをもう少し改善していけばかなりよくなっていくと思うんですが。

Q:今回はどうリラックスして筋肉を自分が思うように動かすのかって、いう感じで臨んでるんですか?

清水:昔からそれは、中学,高校の頃からそれはもうリラックスっていうのは常に頭の中にあったのですが、今回に関しては、扁桃腺がはれていて、ずっと鎮痛剤を飲みながらやってたんで、体がリラックスするとか、筋肉の感覚とかいうレベルじゃなかったんですね。とりあえずリラックスできればっていう。そういう体調不良がずっと続いてたんで、自分に対しての信頼度っていうのがまったくなくて。いつもだと自分に対しての信用っていうのがすごくあって、そこから自信とか生まれてきて不安をかき消してくれるんですけど、それが今回なかったんでどうしても力んでしまって。

注)ソルトレイクの前週に行われたカルガリーワールドカップ。ここで清水選手は33秒台を目標としての記録更新を狙ったが、大会4日前から扁桃腺がはれ、38度を超える熱とも戦っていた。それで出した記録が世界記録に0.04秒なのだから驚きである。

Q:不思議ですね。自信ないっていう清水さんもそんなにないですよね。 そういう状態であがることってありますか?

清水:やっぱり有りますね。今回ばっかりは。1本目終わるまでは、カルガリーでのレースがすごい悪かったし。それがやっぱり頭の隅に残ってて、その悪いイメージをいかに脳裏から消すかっていうのが今回の課題だったと思います。

Q:どうやって切り替えを?

清水:切り替えるっていうよりただ体調崩していたこととか振りかえりがちで すよね。それを全部忘れて。それがなかなかできないんですけど。

Q:こんなこと考えるよりいいイメージだけ

清水:うん。いいイメージと、体が仕上がっていくイメージ。体調がよくなっていく。一番良い時の体の状態で調整していってるっていう、そういう状況を作りました。