栗山)そんな中で、なんか、そこまでのストレスが自分の中にあると、普通に考えたら「もう、もういい。もう、俺生きてなくて」とかって思ってしまいがちじゃないですか。それに加えて激しい体の痛みもあったわけじゃないですか。そういうのってなかったですか…
太田)悲しいのは「痛み」ではなかったですね。痛くてもそれまでは自分で勘違いしてたわけですよ「俺はもう1回やり直せる」って。「もう1回レースに復帰できるし、もう1回…」なんかそれって、復讐心にも似たような感覚ですかね。「この野郎」みたいな「俺は絶対やってやるぜ」みたいに思ってた時は結構痛みには耐える事が出来たって言う感じですね。ところが自分の体と顔をはじめて見た時はそんな事よりも、「あ、俺にもう1回、再びはないな」ってドーンと心に来ちゃった感じですね。肉体の痛みよりも、精神の痛みの方が何倍も辛いんだって事だと思いますけど。希望がなくなっちゃったわけですよね。今、どんなに辛くたって、どんなに苦しくたって希望があれば「やろう」と言う気になれるじゃないですか、多少は。でも、その希望が全くないとしたら「今努力して何の意味があるの」って言う所まで追い詰められた時に「自分の存在する意味はない」って思ったわけですよね。そうした時に「何の為に俺は…この努力を重ねてるのは無意味じゃないか」って、それが1番辛かったですね、その時が。 栗山)それは太田さん…そう言う風に思ってしまうほどどうにもならないって事って普通ないですよね、生きてる中で、そんなに辛い事ないですよね。 太田)死んだほうがましって言う事でしょうね、いわゆるね。でも死ぬ事も許してもらえないわけですよ、あそこにいたら。僕はそう思った時に「こりゃ全く意味がない」と思った時に病院の屋上に上がったら、予想外に全部鳥かごのように金網で覆われているのを見て凄いショックだった…要するに、こんなに辛くても死ぬ事も許してもらえないのかって、「自殺する権利もないの?」って、自分がなんかこう、ひどく惨めな汚らしいような、何て言うんだろな、何か惨めな感じがしましたよね、挫折感って言うか「(自殺)さえも許されないのか」みたいな。病院って全然自殺とか出来ないんですよね。窓から飛びりる事も出来ないようになってるし、重傷患者には睡眠薬をまとめて渡さずに1錠づつ持ってくる。しかも看護婦が見てる前で飲ますし、もちろん縛り付けるにも手も動かないし、天井には紐を引っ掛ける所もないし、せいぜい果物ナイフで切るぐらいだけど、果物ナイフを持つ力もないしね。自殺しようとした人見ましたけど病院だから、すぐ助けられちゃう。お医者さん飛んできて。そんな風に屋上で惨めな気持ちになっていたら、また"黒いマントの男"が、忘れていたはずの男が現れたんですよ。その時から「生きる事は辛い事だよ」って言われた言葉が耳から離れなくなっちゃったんです。要するに「お前は俺から逃げやがったな。お前にはいい人生なんかあるもんか」って言うような気がしちゃッたんですね。そこからが本当に辛い時だったですよね。体の痛みはその前も痛かったけども。そこからがずぅーっと、もう、自分の中で「何のため俺は生きてるんだ。何のため存在してるんだ」って、ずぅーっと引きずってた。 栗山)ご家族であったり奥様であったりとか、周りで応援してくれる人がいたとは思うんですけど。なかなか人間ってそういう所までホントに苦しい状況になった時って、周りに配慮がいかなくなりますよね。 太田)僕の場合、全くいかなかったですね。周りの人がどんなに自分を気使ってくれるかとか、そう言うのに感謝する気持ちなんてのは全くなんか…今思えば「どうしちゃったんだろう」って言うぐらい…なかったですよね。ただ、そういう風に周りが思いやってくれる事って言うのが関係なかったかというと、そんな事は全然なくて凄くプラスになってたわけですよね。でも、プラスになってると言う事にその時 栗山)支えてくれる事にはなかなか気付かない… 太田)今だったら気付くけどもその時は全然気付かないで。例えば看護婦が言った言葉に「冗談じゃねぇ」と反発したりとか、精神科医の言った言葉に対してえらくムカついたりとか。そこにいるのは自分なんだけど、あんなに自分ってのが、変わっちゃうのかって言うのか。もっと自分は理性的なハズだったのに全然そうじゃなくなっちゃてるし、でも理性がなくなってる事には気付かない…その時の自分はね。 栗山)でも太田さん、それって多分、そこまでの苦しさを経験しないと多分我々がなんだかんだ言う問題では…分からないですよね。凄くそう思ったんですよ。それは…「ホントにお前そうなったらそれ出来るんだろうか」って思ったら僕も自信ないし、そんなに人間って強くないんじゃないかなと思ってしまったりとか… 太田)僕が、だからあのぉ…何て言うんでしょう、僕はもちろんそうなった自分を恥ずかしいと思うけど、きっと誰だってある程度そうなるんじゃないかと思うから…何て言うんだろう「カッコつけてもしょうがないよね」って、実際そうだったんだから。例えば「僕は、負けませんでした」とか、例えば「僕はどんな時も前向きでした」とか言っても凄いウソっぽいし。事実ウソじゃないですか、そうじゃなかったんですから。だから、「自分って弱いんだなぁ」って「人間って弱いんだなぁ」って思いましたよね、凄くね。 |