角澤:清水宏保選手が、見事な世界新記録をこの前、出しましたけどあの試合はどう思いますか。
黒岩:これは清水君の持ち味である、スタートから100mまでのトップスピードにもっていく短さ。確か、9秒04台でもっていった。やはり清水君の特徴は、止まっているところからいきなりパンッと飛び出して、100mでもとにかくトップスピードにもっていく。で、コーナーリングからバックストレート、最後のコーナー曲がって、最終ストレートまで、常に加速しているのが500mですから。あのレースで僕がビックリしているのが、清水君が「失敗レース」だと。あの言葉に僕は清水君の頭の中には、33秒台が入っているんだなと思いました。
角澤:もう一つ先の世界が。でも、清水選手には、あの失敗で得たものは何ですか。
黒岩:僕は清水君が失敗レースだったと、と言ったレースは、100点満点だと思うんですよ。というのは、清水君の頭の中と体が覚えているものはやはり、今まで出した34秒08、34秒09が体で覚えているんですよ。ただあの時、34秒03という記録が出たときに、初めて分かったのは今までのコース取りではダメなんだ、と分かったと思う。彼が今まで完璧だと思っていたバックストレートから最終コーナーに入る所、コーナーの頂点でくっついて、それからふりだされる力を使って最後のストレートに出てくるという、そのルートがやはり33秒台になってくると変わってくる。まあ、F1だとか、バイクレースでいえば、アウト・イン・アウトの細かい部分が、微妙に変わってきてるな、それが彼にしてみれば失敗レースだったというのは、33秒だす為には、このコース取りではダメなんだというものに変わったような気がするんですよね。
角澤:次晴さんも、普段お付き合いがあるようですけど、失敗だったと言える彼をどんな風に見えますか。
荻原:選手それぞれの満足度だと思うんですよ。彼は、33秒台で走りたかったという夢があって、それができなかった。でも、結果は世界新でしたけど、1番の目標が達成されないと、どんなにいい勝負をしたとしても、やっぱり夢まで届かなかったところで失敗だった、満足度に欠けるということをレース後に、直後には言ってましたけど、その後に「でも本当は嬉しいでしょ」って聞いたら、「時間が経ってきて、やっぱり嬉しいですよね」って言ってましたよ。そりゃ、嬉しいですよね、世界新ですから。
角澤:黒岩さん、やっぱり本人がおっっしゃていたのは、世界で33秒目指してやっているのは、自分しかいないんだ。こんなたまらない事はないんだ、と。どうですか、見ていてアスリートだなと感じる部分はどんなとこでしょう。
荻原:アスリートというよりは、彼はGTカーですよ。選手を超えた一つの世界最速記録を作るマシーンというように見てます、僕は。
角澤:我々TVの画面を通して見るイメージでは、彼の発言をみてても、筋繊維一つ一つを自分は知覚できるようになった。ストイックな、仙人のようなイメージがあるんですけど。
荻原:でもね、非常にトレーニングに向かう姿勢は凄く真面目ですよ。
角澤:やっぱりストイックな部分もかなりある。
荻原:かなりありますし、なければ世界のトップに立てないと思う。
角澤:現状に満足しない、いいレースと周りが言っても首をかしげるのも、トップアスリートには大事なんですかね。
黒岩:僕は大事だと思いますよ。それが、こだわりだと思うんですよね。やはりこだわりを持ってスポーツに携わっていけるから、そこで自分がやらなきゃいけない目標・課題が出てきて、その目標・課題を克服す
るために今何をやらなければいけないか、またアイデアが出るわけです。そのアイデアをいかに工夫して克服する為に結びつけていくっていう。いってみれば、彼はゲームをやっているんじゃないかなという気がしますけどね。
荻原:数年前、荻原健司がノルディック複合で、勝ち続けたときがありましたけど、優勝しても今日は面白くなかったというときが何度かありましたね。というのは、確かに世界で勝ったけれども、今日1回目のジャンプが失敗したし、どちらかというとスキーもあまり滑らなかった。世界で勝つことよりも最終的には、自分の満足度というふうに変わってくるんだと思いますよね。
黒岩:それは言えますよ。だから逆に彼らは負けたレースでも満足しているレースがあるんですよ。負けた事に満足してるわけではないんですよ。ただ、今のこの状況でこのレースができたことに満足してるっていうのはあるんですよね。
角澤:黒岩さんもありましたか、負けたレースで満足した経験って。
黒岩:ありますよ、それはたくさんあります。逆にここで勝っちゃいけないと、自分で制御して出場するレースもありますから。それが最終的にこのレースで勝つための段階であると考えたわけですよ。
角澤:勝つことが全てじゃないと割り切れるレースもあるわけですか。
黒岩:でも、最終的には勝つという大きな枠組の中で自分で考えながら組み立てる過程ですけどね。
角澤:いよいよ、来年、あっという間に迫ってきた感があるんですけど、シーズオフが終わっていよいよ本格的に入ってきますが、この時期選手はどんな事をやっているんですか。
荻原:スケートの選手はよく分からないですけど、スキーの選手は、今うちの兄貴ともよく会ったりしてるんですけど、シーズン、冬が長かったですから、4月の中旬くらいまでは少し休みながら、たまには山に出かけて春スキーをしたり、海に行って遊んだりしてますけどね。基本的には、なにか体を動かしていますけど、冬へ向けたトレーニングではなくて、気晴らしの時間を過ごしてましたね。
角澤:健司選手は、気晴らしの部分で何かやられているんですか。
荻原:僕もね、顔が黒いのそうなんですけど、彼と一緒に海に行ってサーフィンにお付き合いしてるんですけど、やっぱり冬の苦しみから少し開放されて非常に楽しんでましたけどね。ときには、波を待ちながら、冬に向けてどうやっていこうか、どういう事が必要かなど、たまに話しますけどね。
角澤:黒岩さんも現役時代は、波を待ちながら(笑:
黒岩:まあ、やってましたよ。波を待ちながら、波を作りながら(笑:。多分やっていたと思うんですけど。僕も一つ、清水君がF1が好きだって話を聞くんですけどね。実は僕も、バイクがすごく好きだったんですよ。2年間くらいバイクに乗っていたんですけど、それは大型のバイ
クでかなりパワーのある、スピードの出るバイクだったんですけど。バイクに乗りながら最終的にはスケートの事を考えていたなと記憶があるんですよ。小さなカーブを、いかにスケートで難しい、最後の一番難しいインのカーブを曲がるときに発生する恐怖心だとか、そこで、どういうコース取りでいいのか。なんとなく僕はバイクで覚えたなと気がしてるんですよ。これからスピードの選手が、バイク狂になったら困るんですけど、自分なりのスケートと結び付けて考える、自分が経験できないものを、バイクで経験してきたと思う。
角澤:コーナーに入る勇気みたいなとこですか。
黒岩:そうですね、あのスピードでコーナーにどういう感覚で入るか、その感覚の問題だと思うんですよね。
荻原:左コーナーの時に考えたんですか。
黒岩:そうそう、右のカーブっていうのはバイクが怖くて僕はできなかったんですよ。
荻原:人間の本能的に左カーブが得意なんですよね、人間は。でもやっぱり、そういうのを考えながら体重移動とか。
黒岩:そうそうそう、コーナーの入り方とかね。だから、あとオフシーズンにスキーに行ってね、スキーでそのまっすぐいって、いきなりターンするとかっていう、そういうこともね、よく考えてましたよね。
角澤:普段の生活の中で思わずやってしまうこととかありますか。
黒岩:これはね、僕がほんとに友達にバカにされたんですけどね、おまえ後ろから見てると、スケート滑ってるように歩いてるぞとかね。
角澤:前傾とかそういうことですか。
黒岩:いや前傾はしないですけど、やはりスケートって体重移動の問題ですよね。その一瞬で、すとっんって体重を全部落とさないといけないとなると日頃歩いているのも常に体重のあるところ、あるところにすとん、すとんと体重をしっかり乗せて歩くとか、例えば、自分の手の振りとかは、昔世界に行く前ですけどね、スケートでは必ずこの方向に振らなければ推進力にならないという方向があったときに、自分の手の動きこうだったんですよ、実は、もうこれ陸上だったらいい手の振りじゃないかな思うんですけど、スケートの場合はこういう風に動く競技なわけですよ。ですから、推進力にする為には、こっちに手を振るとそういう事があった場合には、歩くときからこうやって、そのくらいね、日常生活の中でスケートっていうものを考えていた記憶がありますね。だからスケートは哲学だっていう風に考えて、その自分の哲学を中心に膨らませていったという気がするんですけどね。
荻原:はたから見たらあの人やたら、手振って歩いているみたいな。
角澤:そういう普段からグーっと気がついたら、考えてることってありました?
萩原:どうですかね、僕は普通に歩いていてもスキーの滑り方のような歩き方してますけどって、ただのがにまただろうっていう、関係ないのあ
りましたけどね、でも僕の場合は、そんなに生活の中で考えるって事はなかった。スキーの滑り方のような歩き方してますけどって、ただのがにまただろうっていう関係ないのありましたけどね。でも僕の場合はそんなに生活の中で考えるってことはなかったですかね。歩き方とかイメージはしてましたけど、でも何か気にしてやったというのは特にないですね。
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