上村選手にインタビューした時の事。「将来の夢は?」という質問をしたら、意外な答えが返ってきた。

 「いい仕事を見つけて、いいダンナさんを見つけて(笑)、いい子供を育てて、いいおばあちゃんになって(笑)、『さようなら〜』って感じですかね(笑)」

 普通である。私達から見れば全くの平凡な夢である。しかしこの答えの裏側にこそ、彼女の"今"が伺える。おそらく、私達が憧れる世界に彼女は生き、彼女の憧れる世界に私達が生きているのだ。

 上村選手は今シーズン、W杯の年間最終ランキング2位に輝いた。正真証明、世界のトップアスリートへの仲間入りである。そして笑顔が印象的な彼女だが、試合中その笑顔は封印されてしまう。笑顔無き・上村愛子。そこには凄まじいまでの集中力があった。放送でも御出演頂いた山崎修さんは、彼女の強さの要因の1つに、その「集中力」があると言う。"リラックス"と"集中"。この切り替えを彼女は実に見事なまでにやってのける。まだ21歳である。

 来年に迫った、ソルトレークシティオリンピック。今、彼女の目標は"金メダル"というよりも"理想の滑りの追求"にある。オリンピックでの抱負を聞いた時、彼女は「自分の納得する滑りが出来れば、例え負けても悔いは無い」と言った。この答えは、彼女が真のアスリートへと成長を遂げた証のように聞こえた。彼女はこれからも凄まじいまでの集中力を持って"自分の理想"と戦い続ける。そして私達はそれを遠くから見守る事しか出来ない。

 オリンピックでの"理想の滑り"の実現を心から祈っています。

【テレビ朝日 GET SPORTS ディレクター 谷口 治】