児童福祉

【助成事業】第69回関東甲信越静里親大会 浜松市研修大会

大会テーマ「のびのび子育て すくすく子育ち みんなの力で やらまいか」

第69回関東甲信越静里親大会 浜松市研修大会
関東甲信越静 里親協議会 浜松市研修大会へようこそ

真夏の太陽が燦燦と輝く酷暑の中、浜松で行われた大会は「のびのび子育て すくすく子育ち みんなの力で やらまいか」をテーマに行われました。「やらまいか」は、静岡県西部地方の方言で「やってみよう」「やってやろうじゃないか」という意味で、新しいことに果敢にチャレンジする精神を表したとのことです。

式典では、まず「里親信条」を参加者全員で朗読、中野祐介浜松市長の祝辞と関東甲信越静里親協議会や全国里親会会長らの挨拶と事業報告などがあり、その後関東甲信越静地域で里親として活動されている54名が会長賞を受賞、表彰されました。

児童精神科医 杉山登志郎氏の講演「のびのび子育て すくすく子育ち ~愛着障害と発達障害~」

基調講演は、浜松市子どものこころ診療所の精神科医で医学博士、福井大学客員教授の杉山登志郎氏が「のびのび子育て すくすく子育ち~愛着障害と発達障害~」というテーマで話されました。現在年間の出生数が77万人と少子化が進んでいるにも関わらず、児童虐待対応件数は減少せず、子どもの自殺も増加しているということ。また軽度の発達障害の増加などが重なり、児童精神科では患者さんが多く、どこの病院でも数か月から1年の待機を余儀なくされているということでした。新型コロナ感染症により、社会的な活動が低下し閉塞感が蔓延したことで、青年、特に女性の自殺が増加したということです。杉山氏は、子育てに最も重要なキーワードは「安心」であるとし、「アタッチメント」、「愛着」の形成が重要であると説明しました。「アタッチメント」とは「くっつく」という意味で、「くっつく」ことで「安心」を得られるということですが、アタッチメントを形成することが出来れば、目の前に親がいなくても、親をイメージすることが出来るので子どもたちは不安なく行動することが出来るということです。

第69回関東甲信越静里親大会 浜松市研修大会

杉山氏によると、愛着障害には3つあるとのことです。

①愛着形成の何らかの要因による不全の愛着障害
通常は「くっつく」行動である愛着行動を反復することで徐々に養育者が内在化し、目に前にいなくても不安にならなくなっていくものなのだが、これが不全になることによるもの。子ども虐待では必発するということでした。また、この愛着障害では「溜め込み症」にもなるとのことで、例えばゴミが捨てられないということは、溜め込んでも満たされないという状態によりおきるとのことでした。
②エインズワース、メインの分類(ストレンジ・シチュエーション方による)無秩序型を示す愛着障害
こちらの被虐待児の多くが無秩序型を示すとのことです。
③精神科診断における「反応性愛着障害」(および脱抑制型対人交流障害)の診断基準を満たす愛着障がい
ルーマニアの「チャウシェスク・ベイビー」と呼ばれる子どもたちにも当てはまる愛着障害。これは、チャウシェスク独裁政権時代に中絶が禁止され多産を奨励されたものの、育てられずに捨てられた子どもたちで孤児院が溢れ、ストリート・チルドレンも増加し、子どもたちは劣悪な環境で虐待やネグレクトされたことで知られています。

また杉山氏は幼児期の愛着パターンに4種類あることなども紹介しながら愛着形成の重要さを説明しました。そして、既に虐待を受けてトラウマがあり、ゆがんだ愛着形成となっている児童を委託される里親は、マイナスからのスタートで、トラウマ的絆である「歪んだ愛着」を「健全な愛着」に塗る替える作業をしなければならないが非常に意義のある素晴らしい子育てだと話していました。

そして子育てに最も大切なことは「多様性」と「健康な生活」で、早寝早起きと適度な運動や栄養バランスが良い食事と適度な情報の制限(ゲームをコントロールすることなど)など特別でなく基本的なことが重要だということでした。

このほか、最近増加している発達障害について、学校の問題なども指摘しながら説明されました。杉山氏によると、ASDやADHD、自閉症などとは別に、チャウシェスク・ベイビーなど極端なネグレクトや虐待など問題のある養育により、「発達性トラウマ症」というものがあるということでした。そしてこうした養育が続くこと、激しい体罰を受けたり、暴力を受けているのを見たり、暴言を聞いたりすることで、脳の中の関係する部位に委縮が起きるということでした。こうした後遺症で脳の体積が1割以上減少するという事例もあるということでした。新しい知見のお話もある濃厚な基調講演となりました。

3会場で分科会開催

会場風景
会場風景

この後は、3つの部屋に分かれて分科会が行われました。第1分科会は、和歌山大学教育学部教授の米澤好史氏による「愛着障害・愛着に課題を抱えるこどもへの理解と支援」、第2分科会は、静岡大学人文社会科学部教授で一般社団法人全国養子縁組団体協議会代表理事の白井千晶氏による「出自を知ることや生みの親との関係について」、第3分科会は、里親や児童相談所や施設の職員がパネリストとして登壇し、聖隷クリストファー大学国際教育学部こども教育学科教授の藤田美枝子氏がコーディネーターとして参加して「里親と里子を支える」をテーマにディスカッションが行われました。

分科会後はユースも参加して「里親サロン」として話を聞く時間がつくられ、充実した研修大会となりました。

分科会のようす
分科会のようす
会場のアクトシティ浜松コングレスセンター

日程:2023年7月16日(日)
会場:アクトシティ浜松コングレスセンター(静岡県浜松市)
参加人数:対面 253名、オンライン参加 102名 総計355名
主催:公益財団法人全国里親会、関東甲信越静里親協議会、浜松市里親会
共催:浜松市
助成:テレビ朝日福祉文化事業団