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瀬古が斬る

第47回全日本大学駅伝を斬る

勝負はやってみなければわからないというのを実感した。誰に聞いても青学大が強いと言っていた。しかしふたを開けてみれば、東洋大の完勝。真逆の展開となった。最後まで油断はできないものだと思った。

東洋大は、8人全員が100点満点だった。持っている力をすべて出した。先手先手を打てて、完璧なレース運びだったと思う。
青学大は100点もいたが、60~70点の選手もいた。その分だけ東洋大が上に行った。全員が100点なのは見事だった。
1区、2区、4区、8区と重要区間に有力選手を並べることができた青学大は、「勝負あり」とまで各監督に思わせていたはずだ。誤算だったのは2区小椋、4区久保田だろう。力を発揮できなかったといえる。

3位の駒大は、駒大らしい走りはしていたと思う。最後に逆転し3位になったのはさすがだ。
4位の早大は、正直この順位までくるとは思っていなかった。この結果はほめるべきものだろう。
5位の東海大には、将来性を感じる。若い選手が多く2~3年後にはトップ争いをするのではないだろうか。3区を走った1年湊谷など「湘南の暴れん坊」になってほしいものだ。
6位明大は後ろに山梨学大ニャイロが迫っていた。最終区で3分の大逆転シード権なんていったら大変なことだ。
ニャイロはまだ1年生だし、可能性を感じる。もしかしたらモグス以上になるかもしれない。

MVP的存在といえば、東洋大4区の櫻岡だろう。久保田に先行を許さず、名前負けせず強い精神力で、最後は再逆転のスパートでつないだ。東洋大はこれで自信につながり、「イケる!」と思ったのでは。
とにかく東洋大の完璧さが際立った大会だった。

関東予選会を斬る

どのチームも強化をしっかりしているようで、特に本選出場を決めた上位9チームはほとんど秒差の戦い。全体的に本当に拮抗している印象だった。
トップ通過した中央学大も、最後の潰滝大記(4年)が一気に逆転という展開であるから、このエースがいなかったらどうなっていたからわかない。本当に各チームの力がそんなに違わないということだろう。

実力から言えば潰滝は最終組の中でも力がある選手なので、中央学大がトップになるのは自然な展開で、ただチームとしてもいい流れで全日本を迎えたいという気持ちがあるので、やはりエースが頑張って離すという作戦通りであったと思う。

潰滝は今年春絶好調でインカレも2種目優勝しているし、ここのところ本当に調子がいい。この日走った選手の中では日大ダニエル・ムイバ・キトニー(4年)の次に実力があったので、今回は後半タイムが伸びなかったのはちょっと残念だが、将来性を感じさせる選手だ。

早大は、久しぶりの予選会だった。昨年7位と落ち込み、監督も交代して選手にも不安があったと思われるが、まぁ無難に走った印象だ。やはり監督が交代したという環境の違いは、練習方法も変わり、選手には戸惑いは有るはず。その辺をこれからの夏合宿を含めて、新監督がまとめてうまく仕上げていけば本選も上位に入ってくるだろう。

日大が、やっと古豪復活という感じになってきた。これはちょっと楽しみだ。最近は新興大学が頑張っている中で、こういう伝統校が頑張ってくれることはなんとなく活気が出て来るのかなという感じがする。
順大は、後半ちょっと下がってきたのでやや心配だった。
日体大は、エースの山中秀仁(4年)が怪我で出れなかったというのが痛かった。また、日体大も監督が変わったばかりなので、早大と同じで練習面も生活面も変化がある最中だ。選手とスタッフがうまくいけばこれから楽しみだと思う。

予選通過校はほぼ予想通りだったと思う。
帝京大、大東大も、國學大もギリギリ入ってきた。かつての全日本優勝校、神大も後半頑張った。
中大、法大が通らなかったのは残念。常連校が落ちていくというのは寂しいものだ。

どういう若い選手、新人が出てくるのかと楽しみにしていたが、全体的な印象はレースというよりも「練習」のような感じだった。駅伝という括りがあるので、個人プレーで無理をするのも難しいのかもしれないが、ちょっと若手が控えめにレースをしていた気がする。もうちょっとアグレッシブに、若さを出してどんどん行く選手がいてもいいのかなと思った。その点はややさみしい。
駅伝=チームプレーなので、一人が失敗すると他人に迷惑かけるというプレッシャーもあると思うが、若いのだからどんどん前に前に行って記録も狙って欲しかった。あまりにも抑えすぎているように見えた。

3000mくらいまでならわかるのだが、6000m~7000mくらいの後半まで牽制していた。最初から速いペースで入ったのは、最終組だけだった。
予選会はレースだ。ただ練習をやっているような展開ではダメ。やはり若さを感じなかった点で、寂しく感じた。

2020年には東京でオリンピックがあるのだ。
駅伝のみの目標では困る。若い選手には大きく羽ばたいてほしい。

瀬古利彦

1956年三重県出身 DeNAランニングクラブ総監督

言わずと知れた「伝説のマラソンランナー」瀬古利彦氏。
1980年代、日本、そして、世界のマラソン界をリード。マラソン全戦績15戦10勝、福岡、東京はもちろん、ボストン、ロンドン、シカゴ・・・世界のビッグレースを総ナメにした。その勝率と共に切れ味するどいスパートで一時代を築いた「マラソン界のカリスマ」。
早稲田大学時代は、エースとして箱根駅伝で大活躍、まさに大学駅伝から世界へと羽ばたいていったパイオニアである。低迷する男子長距離・マラソンを憂う瀬古氏が、今、「復活」のカギとして最も期待しているのが学生長距離界だ。そんな期待も込めつつ、瀬古氏ならではの厳しくも優しい視点と切り口で、レースを解説。