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山口 英紀
[ 水墨画家 ]

2015.05.16

 

山口 英紀(やまぐち ひでのり)
[ 水墨画家 ]

横断歩道を渡る人々を捉えた、カラーと白黒の2つの風景。どちらも写真のように見えるが、白黒の風景はなんと水墨画。描いたのは、水墨画家 山口英紀。工程は、まず元となる写真を見ながら正確に下書き。その上に和紙を敷き、薄い墨を何層にも重ねることで奥行きを表現。最長で半年もの期間がかかる作品もあるという。

「墨の濃淡を使い分けることで、その写真が持つ“空気感”を最大限に表現したいという気持ちがあります。元の写真の“雰囲気”だけを残すような形で、ひたすら筆を動かしています。」

日常の風景をリアルに描くことにこだわった水墨画。そこに込められたデザイン・コードとは…

【古めかしさ】

「今ある風景を“古めかしく描く”からこそ、頭の中でギャップみたいなものが生まれて、そこから改めて思い起こすものもあると思いますね。」

古めかしさを出すことで、何気ない身近な風景に目を向けてほしいというのが山口の想い。

「2010年の東京駅の電車を描いた作品『そのドアの向こう側』や、2013年の千葉県のモノレールを描いた作品『重力の旅』は、和紙を“やすり”や“お茶”で加工することで、作品に“古めかしさ”を出しています。作品『時を結(ゆ)う場所』は、2010年に岡山県で見た、路面電車のある風景を元にしています。関東だと路面電車は目にすることが少ないですよね。そんな題材だからこそ、より古く感じてもらえるんじゃないかと思いますね。」

あまりのリアルさゆえ、水墨画と気付かれないこともあるというが…。

「自分がこだわった所を少しでも感じてくれる人が、1人でも2人でもいればいいかなと思っています。」