夏の風物詩・全国高校野球選手権大会が、甲子園球場で始まった。テレビ朝日では、系列の朝日放送(ABC)が関西を中心に中継(関東は準決勝と、決勝のみ)することから毎年、新人アナウンサーを研修の総仕上げとして大会に派遣している。炎暑の中での実況体験は、アナウンサーとして最初の厳しい洗礼となる。今年入社した3人の新人アナの、奮闘ぶりを追った。

「苦しい戦いを勝ち抜いてきた、選手達の熱い思いを伝えて行きます…」。大会が始まった八日、常総大学(茨城)と、上宮太子(大阪)が戦う第一試合開始直前、新人アナの河野明子さんと、村上祐子さんは、三塁側アルプススタンドで、カメラに向かって元気よくリポートを始めた。

応援団の熱気と歓声で、声がかき消されそう。空は晴れ上がり、温度計は三十八度を指す。一塁側には、もう一人の新人、安西陽太アナがスタンバイしている。
ABCは今年、全試合を地上波とBSテレビ、ラジオで中継するため、この三人を含め、三十人を超すアナウンサーを動員している。テレ朝が新人アナを、夏の甲子園に送り始めたのは1975年から。当初は男性だけだったが、七年前から女性も参加し始めた。

【甲子園でテレ朝新人アナが実況体験】

テレ朝アナウンス部の堀越むつ子部長は、「発生や発音などの訓練は終わっていても、実践の場として甲子園は最適」と、VTRで成長ぶりを見ている。

新人アナの仕事は、応援席の話題を自分で取材し、一分以内で生リポートすること。一試合につき、二回の出番。一日につき一試合か二試合を受け持つ。大会中の二週間は、ほとんど休みなし。以前は熱を出して寝込んだ新人アナもいたという。

ABCの八木原明俊スポーツ課長は「アナウンサーとして教わった形を、ここで一回壊す。暑さで頭がボーとなったところで、自分に何が表現できるかが勝負。一皮むけるんです」と説明する。

【焦って早口に】【達成感あった】

一方、第二試合を取材中の、安西アナは、花咲徳栄(埼玉)の亡くなった前監督の息子をインタビューしようと探し回るが、先輩ディレクターの「試合に勝っているといは、暗い話は合わない」というアドバイスで取りやめ。本番の合図がうまくつながらず”裏”の声が少し入るなどのハプニングも起きた。

第三試合。日大三(西東京)の応援団長に「報道はあと、わず」となかなか話が聞けず、緊張する村上祐子アナ。本番で選手のポジションを忘れ、二秒も沈黙してしまった。それでも、二度目の実況はノリノリだった。

三人の一日は、朝六時に起床。担当試合以外の時間は、インターネットでの資料探しや、球場周囲での聞き込み取材をし、夕方七時ごろにはスタッフ全員の反省会がある。

初日が終わって―。疲れ果てて、昼寝をしてしまったという安西アナは「自分一人で頑張っても空回り。周囲との連携が難しい」と感想を話す。球技の一種・ラクロスのワールドカップにサブキャプテンとして出場したこともある河野アナは、「焦って早口になってしまった」と反省の弁。村上アナは「暑さよりプレッシャーの方が大変。でも、達成感があります」。

八木原課長は「素直だから吸収が早い」と褒める。しかし、数時間もかけて取材したものを一分以内にまとめ、臨場感のある画面にするのは至難の業。アナウンサーになるため、千倍の競争を勝ち残った新人アナだが、一人前になるための戦いは、まだまだ続く。

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