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飯村:古典の世界って、よく落語とかだと、いろんないじめに近いものがあって、その中から覚えていくって聞いたことがあるんですけれど、歌舞伎の世界にもそれに近いものがあるんでしょうか。
猿弥:猿之助師匠のところは上下関係などあまり厳しく言わないところなんですよ。
師匠に対する弟子の関係は皆きちんとしていますけれどね。ただ弟子同士の間では難しい関係もありますよ。いじめと言うことではないんですが、舞台の最終日、楽日を迎えてから「あの解釈は違っていたね」なんて注意してくれる先輩もいたりして、もっと早く言ってくれればいいのになんて思うこともありました。
飯村:厳しい指導ですね。
猿弥:スーパー歌舞伎と言うのは、他の一門から見ると、歌舞伎とは認められていないので、色々言われることもありますよ。スーパー歌舞伎が終わって,次に古典をやる時に、「へえ、歌舞伎もできるのか」って他の一門の先輩に言われたりしましたからね。
飯村:ちょっとした嫌味ですね。(笑い)
川瀬:他の一門の先輩から「へえ、歌舞伎もできるのか」って嫌味を言われることがあるっておっしゃっていたけれど、それって、アナウンサーがバラエティー番組をやって、そのあとニュースを読むときに、「へえニュースもできるの?」と言われるのととっても似ていると思うんですよね。
猿弥:そう、似ているかもしれませんね。
上山:古典歌舞伎は様式美が求められると思うのですが、その中で個性をどう出すんでしょうか。
猿弥:過去の人がやっているものばかりで、衣装も皆同じなんですよね。ですから、指先がきれいだとか声がいいとか、動きがきびきびしているとか、そういうところでしか古典では個性を出せないですね。ようは「仁」ですね。猿弥を出そうとしてやると、出しすぎだと言われる。
一方、スーパー歌舞伎の場合ですと、普通のお芝居と同じ役作りをしていくんです。動きもいろいろトライしてみて、演出の猿之助師匠と相談しながら作り上げていくんですけれどね。
上山:古典は型ということですか。
猿弥:古典歌舞伎は「らしさ」の追及なんです。本当だったら死ぬのに20分も喋ったりすることはありえないけれど、ありえない世界をそういう世界に見せるんですね。大幹部の80歳近い役者が「赤姫」で14歳15歳の娘役をやる、そういう世界が古典歌舞伎なんですよ。
上山:奥が深い世界なんですね。
猿弥:「できる」と言うのと「うまい」と言うのは違うんです。
上山:はあ・・・・突き詰めて考えると、アナウンサーと言う職業にとっても、「できる」
というのと、「うまい」というレベルの違いはありますね。
川瀬:猿弥さんは、中堅どころになられてから伸びるために、気持ちの持ち方に何か秘訣はあるんですか。
猿弥:後輩に教えるのが一番勉強になりますね。後輩にどんどん教えていくと、忘れていたものが自然と見えてきます。台詞回しも、いろいろ考えるところがでてきます。自分の枠が広がっていくような気がしますね。
川瀬:その点も私たちアナウンサーと似ていますね。
猿弥:猿之助師匠はいつも「寝る間があったら稽古しろ!」と言っていますね。
川瀬:どきりとする言葉。
猿弥:私はよくテレビを見るんですが、アナウンサーに対しては生放送で喋りながら失敗しないすごさに驚いています。プレッシャーがすごいだろうなと思います。よく皆さんやっていますよね。我々は一日二回公演で、3ヶ月から4ヶ月のロングランをするんですね。そのあたりが毎日新しいものを次々にやる皆さんとは違うかもしれませんね。
野村:私たちのプレッシャーと猿弥さんのプレッシャーは比べものにならないと思います。お客様を目の前にして演じるプレッシャーは大変なものがあると思います。それにしても、
今回こうしてお話をうかがいながら、猿弥さんのコミュニケーション能力、話すエネルギーにただただ圧倒されています。歌舞伎役者さんは歳を取ってからも元気とよく言われますが、発するパワー、内から出てくるエネルギーがすごいですね。なんだか、自分は省エネで生きているなあって痛感してしまいました。
清水:本当に猿弥さんは表現者として喋りがうまいなあと僕も感心してお話をうかがっていました。
野村:そのせいか、歌舞伎の世界の方って意外と身近なんだ、あっ同じ人間なんだと感じました。今まで特殊な世界に生きていらっしゃる方と思っていたんですけれど。その中で訓練を受けたり悩んだりされているんですね。
川瀬:どうも歌舞伎は敷居が高い感じがして、お弁当一つにしてもどうやって買って、いつ食べていいのかもわからないと言う感じがありますよね。一度経験している人と一緒に行かないと怖いと言う人も多いですよね。
清水:でも、敷居が高くなくなりました。猿弥さんとお話できたおかげです。
野村:歌舞伎を見に行きたくなりました。
猿弥:是非是非、観に来てください。ただ歌舞伎を見に行くときに注意しなくちゃいけないのは、寝不足のとき、おなかいっぱいのとき、お酒を飲んでいるときですね。眠くなっちゃいますから・・・(笑い)
宮嶋:
梨園といわれる特殊な世界だとばかり思っていた歌舞伎の世界も、お話を伺うと、なかなか身近なところがたくさんありました。猿弥さんとのお話はなんと3時間も続いたのです。
近々、アナウンス部で歌舞伎に行くツアーを組んでみましょうか。
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