僕の夢!

僕はローマ五輪の年に生まれて、東京五輪の時には4歳でした。子供心になんとなくすごいお祭りやっているなっていう印象があって、それ以来スポーツのイベントというとオリンピックっていうのが自分の中でも大きな位置を占めていました。

今回は僕自身初めてのオリンピック実況で、しかも女性では冬季初の金メダル獲得(里谷多英)、さらに冬季初の10代の金メダリストの誕生(西谷岳史)の実況をさせてもらえました。

オリピックの実況をやりたくてアナウンサーになったわけですから、ついにというか早くも夢が叶ったという感じです。

多英のゴールドメダル!

最も印象的なのはやはり里谷選手の金メダル。入賞が決まってゆくにつれ僕の涙腺も暖まってゆき、アレヨアレヨという間に銅が決まり銀が確定。解説の人も「ヤバイ」と。

そして金。きちんと実況しなければ、という一方で「もうダメだろう」と気持ちが。神様もイタズラはここまでだろうと(笑)。

金を獲得した時の言い方もいっぱいあるわけで、「金メダル獲得!」でも「金メダルー!」でも「ついに世界の頂点に立ちました!」でも良かったと思いますが、銅から銀、そして金になった瞬間、それまでの流れや「ついに登り詰めた」という気持ちから「里谷多英ゴールドメダル!」という一言が出たんです。


解説の山崎修さんと!

里谷多英選手と!
 
5個目の感動!

今大会で“心のバリアー”は少なくとも長野の人たちにおいては取り払われたと思い ます。

ショートトラックの場合は、日本人2人が決勝進出を決めた時点で「あ、これはメダルの可能性があるな」と同時に「また…ウソだろ」という気持ちもあって、里谷の時とは逆に“素”でした。

レースは2番手だったガニョン選手が転倒して、3、4番手の選手のスピードが少し落ちたんです。 そのスキに西谷が差を広げ、転倒でもしない限り金は確実になって。ですから残り2周で金メダルコメントを考えられましたね(笑)。

そこで、たぶんこれが長野五輪では日本人最後の金メダルになるだろうということで“5個目”、彼が10代ということで“19歳西谷”という言葉を入れて「19歳西谷、長野オリンピックで5つ目の金メダル!」というフレーズが浮かんだんです。

「大きなコサック!!」

今回実況で心がけたのは、初めて観てもこの競技はどうやったら勝てるのか、どういうルールなのかが分かるようにしようということでした。モーグルの時に僕が言った「大きなコサック!」という言葉にしても、それを見てテレビの前の人は「あ、これがコサックなんだな」って知ってもらえたと思うし、今回の中継を見て技の名前を覚えましたっていう声を聞くと良かったなって実感しますね。

またフリースタイルは5年前の世界選手権から実況をやってましたし、他の人には負けないぞという気持ちは強かったと思います。

こうして自分の実況を振り返ると、あの時もう少しいろいろな事が言えたんじゃないかなって思いもありますけど、なにより「ウソだろ!?」っていうことばかりだったんで(笑)、自己採点で85点・テレマーク抜きの最高点かな、と(笑)。それはともかく、次回以降も機会があれば見る人に分かりやすくて面白かったなと言われるような実況が出来たらと思います。

アナウンサーは実況力!!

アナウンサーにもいろいろな担当がありますが、原稿がないのはスポーツ実況ですよね。

それに番組の司会にしてもほとんどアナウンサー以外の人がやっているじゃないですか。今後テレビは多チャンネル化などで、いろいろな人が出る機会も増えるでしょうけど「スポーツ実況だけはアナウンサーじゃなきゃできないだろ!」(笑)っていうのを強く感じているんです。僕は“実況”こそがアナウンサーに残された最後の聖域なのではないかと思います。

オリンピックという大舞台で世界最高の戦いを実況する中で「これは絶対に◯◯◯には出来ないだろう!」と実感しましたもの(笑)。

これは決してヘンなセクショナリズムではなく、スポーツに限らず今後アナウンサーが生き残るには“実況力”“描写力”ではないでしょうか。

もちろん僕自身もこれから先“実況”というものにこだわってゆきたいですね。

取材・文/中村裕一

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