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 『沼さん』 (2011/05/31)

新年度になりました。
5年間担当した、週末の「スーパーJチャンネル」を卒業し、
4月からは、「サンデー・フロントライン」を担当しています。

Jチャンネルでは、毎週末ロケに出ていました。
桜の開花、猛暑取材、プロ入り前後の斉藤佑樹選手、
秋葉原の連続殺傷事件、政権交代、就職氷河期、
デパートの閉店、羽田空港国際化、オバマ大統領訪日…。

夕方からの生放送に間に合うように、いかに、迅速に、正確に取材するか。
毎回、時間との戦いでした。
お世話になったのは、取材先の皆さん、カメラクルーの先輩と後輩、そして―。
どんなに取材に時間を要しても、道が混んでいても、
「任せとけ!」と、力強い一言をかけて下さった方がいます。



 

沼さんはお酒が好き。
沼さんはギャンブルも好き。
そして、綺麗な女性が大好き。
携帯電話の待ち受け画面は、お気に入りの女性アナウンサーだ。


沼さんがテレビ朝日の運転手になって、27年になる。
相棒は、黒のワゴン車。通称「沼さん号」だ。
助手席に座ると、「喫煙」と「禁煙」のステッカーが、
それぞれべたべたと貼ってある。
「どっちなんですか?」と聞いたら、「どっちでもいいってことよ!」


ある日、別の車両で取材に出る前に、夜勤明けの沼さんと入れ違った。
「これから帰られますか?」
「あぁ、まぁな…」曖昧な答え。
「週末だし、競馬かな?」出発後、取材クルーと話していたら、
六本木通りのパチンコ店前でタクシーが前のめりに止まった。
降り立ったのは、見慣れた丸刈りの後頭部。
大きな背中が、いそいそと大音量へ消えた。


「おう!さみーな!」
沼さん号で取材から帰ると、必ず警備員さんに話しかける。
「沼さん、いつも元気ですねえ…」と、マスク越しの返事。
車内には、こだわりの箱ティッシュが常備されている。
「風邪か?セレブティッシュ使うか?」
運転席から、ふわふわの数枚をぬっと彼に差し出す。


「おう!ダンナ元気か?」
一階の正面玄関前。
振り向くと、背中を丸めてタバコを吸っている。
雨の中、傘もささずに、くしゃみしながら。
沼さん、風邪ですか?
セレブティッシュのストック、まだありますか。



沼さん号の前で
   
 
 
    
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