前の記事を読む
山々の鞍部に築かれた空中都市。 標高約2400mにそびえる堅牢な要塞を、麓からは確認することは出来ない。 終着駅からはバスに乗り、 急カーブを繰り返しながらつづら折りの山道を登っていく。
旅をしていると、知らぬ間に自問している。
「そこに、見るところはあるの?」
ようやくの、せっかくの休暇なのだから。 日常から離脱した、その先に待っているものを。 ポストカードを選ぶように、風光明媚を手の中に。 美しく、端正で、完成されているはずの景色。
見どころ。見るべき場所。見る価値のある場所。 高みから見下ろすのは、この眺めだけで十分だ。 天気も、風も。 決めてしまう前に、身を委ねればいい。
霧はいよいよ白く煙る。
折しもインカは、最後まで文字を持たなかった。 言葉を失った私に、無言で語る。 見るところがないのではない。見えなかっただけなのだ。
次の記事を読む