スーツケースを開けると、深い朱赤が広がった。
コチュジャン、キムチの真空パック、辛口ラーメン。
冬休みの旅行先は、一目瞭然だ。
思えば、機内食から始まっていた。真っ赤なイカの炒め物。
辛いが、わずかに甘い。いや、やっぱり辛い。
味覚の禅問答は、金浦空港まで続く。
ソウルは、日中も底抜けに寒い。
屋台の湯気に引き寄せられてトッポッキ(餅の煮込み)を買う。
むっちりした餅が甘辛いタレにからみ、はひはひっと頬張る。 |
一皿3000ウォン(約200円) |
こちらはダッカルビ
(鶏肉のコチュジャン炒め)と一緒に |
スーパーに行けば、韓国海苔やチヂミの素が山積みになっている。
チョコパイのファミリーパックには、なぜか大きく「情」の文字。
思わず手に取ると、地元のアジュンマ(おばちゃん)が猛然と近づいて来た。
どうやら、「凍らせると美味しいから!」と言っている。
圧倒されて頷くと、ニカッと笑って去って行った。 |
圧巻の品揃え |
ウォン安の影響で、百貨店は旅行者で溢れていた。
流暢な日本語を話すブティックのアガシ(お姉さん)にホテルまでの戻り方を聞くと、
笑顔で「143番のバスに乗るといいです」。
「バスは上級者向け」とガイドブックには書いてあったが…よし、乗ろう。
跳ねるような振動にこそ最初は驚いたが、
繁華街はみるみる遠ざかり、ゴム毬バスはぽんっと車庫に入ってしまった。
いや、投げ出されたのは私だった。
呆然と立ち尽くしていると、背後から甲高い声で「メイ アイ ヘルプ ユー?」。
風呂敷を頭にのせたアジュンマが片言の英語で、
彼方に位置する目的地までの道程を身振り手振りで教えてくれた。
涙ぐむ私の背中をバンバン叩き、
「ザ セイム ヒューマンビーイング!」と言いながら地下鉄の入口を指す。 |
戻った頃には、すっかり日も落ちて
街中は、旧正月前の電飾で華やかです |
荷解きを終えて。
コチュジャンと韓国海苔をのせただけの、自家製ビビンバを混ぜながら。
疑ったり、信じたり、ほっとしたり、構えたり。
そこにあるのは人情ではなく、人の情。
辛い。うん、辛かった。でも、あとからじんわり甘い。
そうそう、チョコパイも凍らせないと。 |
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(「日刊ゲンダイ 週末版」2月1日発刊) |